『正義の味方(ジャンク・パーツ・ヒーロー)』著:KAITO
『正義の味方 (ジャンク・パーツ・ヒーロー)』著:KAITO
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「最近疲れてるのかな……2年くらい前の僕のがいい顔……してたかな?」
高層ビルのガラスに反射した顔を見るなりそんなことをつぶやく。
僕は今日も、ガラス相手に自虐的な自問自答を繰り返す。
「それにしてもあの人たちは相当いい装備してたな……どんだけ稼いでるんだって感じだ……」
他のヒーローをねたんでしまう僕には、ポンコツスーツがお似合いだよな。弱い僕が今更いい装備を手にしたところで、ヒーローとしてなにか成長できるわけでもない。分かってるさ。
街頭ディスプレイにデカデカと≪最新装備≫が映し出され、眺めているだけで、ついつい欲しくなってしまう。
本来、善意のはずの人助けが今では一つのビジネスと化してしまっている。それが当たり前になりつつある世界を疑問に思いつつも、その風習に僕自身さえも飲まれてしまっているのが、どこか悔しく思う。
「けっこう、ふっ飛ばされたなぁ……はぁ」
5階建てのビルと同じ高さ。落ちたらきっと痛い。何本か骨も折れるだろうな。
文字通り『自由落下』している間はどうする事も出来ず、こうして柄にもなく考え事をしてしまう。
そうこうしている内に、地面が近づく。
少し前から、僕は≪ASH (アッシュ)≫――いわゆる<正義の味方>になった。
そして今、
――今まさに≪人助け≫している真っ最中だッ!
「ッグハ! ……ちく、しょう……なんだってん、だよッ」
鈍い音を響かせながら、背中から地面に叩きつけられ、現実を噛み締める。
数十メートルは吹き飛ばされただろうか? ヒーロースーツを着ているのに全身が痛い。
「もう、みんな逃げた……かな? ゲッホ」
僕は立ち上りながら、逃げ遅れた人が居ない事を確認した。
震える手と足を気力だけで抑え、逃げる準備をする。
こんな状態でも他人のことを考えられるのは、まだ僕がヒーローだからだろうか? なんて……。
「あー……、逃げてる時点でヒーロー失格かな……」
自傷気味に笑みがこぼれる。
アニメのヒーローならばここで、颯爽とアノ怪物たちを片付けるのだろう。
でも、僕にはそんな力は無い。だから出来るのは、こうして時間を稼ぐ事ぐらいだ。
「や、やっぱり折れてる、いてて……」
怪物に背を向け走り出そうとしたその時、聞き覚えのある声が耳を貫く。
「 かかってこい!! 化け物!! 」
澄みきった声の放たれた方を向くと、視界が見覚えのある少女を映した。
「んなッ! なにしてんだ、あの子!!」
ダメだ、殺される。何で逃げないんだっ!
いや、ちがう。あの子はいつだってそうだろ。
あの子はあんなに勇ましいのに、僕はこの様。
≪正義の味方≫が聞いて呆れる。あの子の方が余程≪人助け≫している。
君は何で……君はどうして……君はどこまで
――カッコいいんだ……。
『 DROP ACT...SYSTEM...GO_ 』
『 展開マデ12秒デス 』
僕はスマートフォンに暗唱コードを告げ、勝率0%から変わらない最終回の準備を始める。
「女の子に助けられるなんて、かっこ悪い、な……僕は……」
たった一つだけ。あの子との約束だけは破ってはいけない。
今すぐここで、自分の夢を置いて逃げるのは簡単だ。
だけど、あの子の前では……っ、どんなに負けてもヒーローでいなきゃいけないんだッ!
死んだっていいッ、ここで逃げたら……あの子を死なせたらッ
――「 僕は一度もヒーローになれないッ!! 」――
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【NamelessHero -Brave Act】
Coming soon…?