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【プロローグ】『 アニメのようなヒーローにはなれないお話。 』【オリジナル版】著:NORA

挿絵(By みてみん)



「ありがと」


 少女の言葉はボクに【ヒーロー】をくれた。


――Nameless Hero――


「最近疲れてるのかな・・・」


 高層ビルのガラスに反射した顔を見るなりそんなことをつぶやく

 過去の自分がよく見えるなんてそんなヒーローがいていいものだろうか……


「2年くらい前の僕のがいい顔してたかな」


 自虐的な自問自答を繰り返しながら今日も馴染みのアイテムショップで装備を買い

 馴染みのショッピングモールで食料を買う僕の姿があった


「それにしてもあの人たちは相当いい装備してたな・・・どんだけ稼いでるんだって感じだよ・・・」

「僕だってもっといい装備があればもっと強い相手にも立ち向かえるのにさ……」


 他のヒーローに対して僻んでしまうほどポンコツヒーローの僕が今更強い装備をもったところで本末転倒

 善意のはずの人助けが僕の中ではもうすでに一つのビジネスと化してしまっている



 昨日の依頼も結局自分が危ないところを他のヒーローに助けてもらってしまった。

 依頼主には捨てられた子犬をみるような同情の目をされて本当に苦痛だった。

 依頼料+同情料という何とも恥辱にまみれた報酬をいただいたのも含めてだ。

 僕がそれにまだ「悲しみ」という感情が湧いただけでもヒーローとして

 道を外さなかったと賞讃したい。


「なんかしょっぱ…」


 無意識に足は路地裏へと向かう

 こんな「情けない」姿見せるわけにはいかないと

 僕の中にあるヒーローというプライドがそうさせたのかもしれない


「僕は…ヒーローでいいのかな……」


「いやいや…本物のヒーローでもないか…ハハっ…」


 水滴の流れる部分を誰にも見られぬように拭いつつそんな自傷的な言葉を放つ。



 弱気になるといつも思い出すことがある

 僕がまだごく普通の少年でたまたま拾った変身ベルトでヒーローになったときのことを……



 平和な生活を送っていた僕に襲い掛かった非日常

 いつもどおり学校の帰り道にお気に入りのクレープを買い食いするため訪れていたイベント会場でそれは起きた

 謎の武装集団が突如そのイベント会場を占拠してきたのだ

 僕と同じく平和な生活を長く生きすぎた人達は皆何かの催しものかと思ってしまっただろう

 あまりの非日常的光景に理解するまでに時間がかかったということもあり多くの人達はその武装集団に

 捕らえられてしまっていた

 僕はヒーローイベントショーだとニヤニヤとほくそえみながら勝手に決めつけたので

 ベンチでその状況を遠くからひっそりと眺めていた



「イベント会場一帯に爆弾を仕掛けた」


 武装集団のリーダーだと思われる人物がそういうと

 突如僕の後方、ベンチが爆発した

 さっきまで美味しくクレープを頂いていた場所は跡形も無く塵になり

 教科書だらけの鞄で降ってくる瓦礫から身を守る

 同じく近くに居た人達の絶望の表情を見てしまい、パニックになりそうな自分を必死に抑えつけていた


「え、これって現実なの…?」


 そんな弱気なことをつぶやく僕の前にあきらかに自分のものでは無い

 落し物があった……


「変身ベルト……?」


 なぜそこに謎の変身ベルトがあったのか、なぜその謎の変身ベルトで変身しようと思ったのか

 未だにわからないが、おそらくあの状況ならば最後の可能性にかけようと誰もがその得体の知れない

 変身ベルトで変身していただろう。


 そう、僕は初めから選ばれたヒーローではなかった

 たまたまその場に居た人達の中で僕がそれを拾っただけ

 僕じゃないだれかがこれを拾えばまた違う道を歩んだかもしれない。

 すごい正義感があるわけでもなくなんとなく変身してしまったごく普通の少年だったのだ。

 変身後、身体能力が上がっているのを理解したのは近くにあった

 鉄パイプをなにげなくねじ曲げた時だ。

 冴えない日々とお別れを告げるには充分なきっかけだった。

 小さいころから見ていた漫画やアニメの影響なのか

 颯爽と僕は僕に最後の可能性をかけさせた謎の武装集団に戦いを挑んでいた。


 鳴り響く銃声に正直ビビリながらも銃弾が体に当たったと同時に特に何も変わらないことに気づいたときには

 自分の姿にどこか酔いしれ心のどこかで


「い、いけるかも!?」


 と思ってしまったことは隠しようも無い事実である。

 調子に乗った新人ヒーローは颯爽とやつらへと詰め寄り、


 中学生の少女を瓦礫からすくい

 あらかた武装集団を捻り潰していたところ「オイ」とよばれた。



 振り向いたときには顔面には激痛と同時に視点はバグッたかのように一瞬ぐるりとなった。


 どうやら宙を舞っていたらしい。

 ふらふらになりつつも立ち上がった僕が次に見た光景は

 文字通り鋼の肉体を纏ったラスボスのようだった。


 自分がリーダーだと勘違いしていたおかげで僕は難なく

 彼らにチャンスをプレゼントしていたようだ。


「ヒーローの真似事は面白いか?ゴミ屑のガキ」



 死への秒読みがはじまっていた…


 僕も周りも全てをあきらめた時


 そこへ彼は来てくれたのだ


『本物のヒーロー』


 登場するなり彼はやつらを薙ぎ払う。

 ラスボスには逃げられたのだがあっという間に非日常は日常へと変わる

 唯ひとついつもと違うとするなら何も出来ずそこでへたり込んでいるヒーローへの非難の目だろう

 何も言えずただただ恥かしさと助かったことへの喜びで満ち溢れた哀れなヒーローの姿がそこにはあった

 開放された人々から浴びせられる罵詈雑言、白い目

 当たり前だ……

 下手をすればやつらを刺激して捕らえられた人達はみんな殺されていたかもしれない

 非難されるのは当然のことなのだ



「ありがと」


 少女のたった四文字ともらった感謝の印は

 僕を今でもヒーローを続けさせている

 そして、少女の約束を守り続けている。



---------------------------------------------------------------------------------------------


『―――――――――。』


「!?」


 薄暗くなった空にイレギュラーな光が散り

 そのあまりにも非日常的な大音量につられ音がするほうへと振り向く


「そうか、今日この辺のお祭りだったっけ」


 この歳になってお祭りではしゃぐ事はないが、こんな落ち込んでいる時には普段では味わえない雰囲気の中

 身を投じることもいいのではないかと本当は『ウキウキ』している心を偽って音のする方へ歩を進める


「そういえば、あの子にも連れまわされたっけ」


 会場に着くと自分をヒーローにしてくれた彼女のことを思い出し、なんだか気恥ずかしくなっていた


「まぁ…今日は1人なんだけど……」


 まだ始まって間もないはずだが、周りはカップルや親子でひしめき合っている

 そんななかボッチな状態はなかなか目立つのではと特に誰も気にしてはいないだろうが自分が気にしてしまう

 自意識過剰なのだろうか…?


「昔だったら…絶対こなかったな、こんなとこ」

「あの子のおかげかな……」


 再び少女のことを思い出し感謝しながら目はあるものを探しながらキョロキョロと右往左往する


「クレープの屋台…!!」


 一通り出店を回ったあとさすがに1人で賑わう中居るというのも他の人達の雰囲気をぶち壊してしまいそう

 だと感じ人の通りの少ない場所に今日二度目の大好物をくわえながら腰を下ろす


 風が頬をくすぐりなでる


「ひんやりするなぁ…気持ちいいや」


 空と平行になりながら『ドーン』という心地のいい音と無数の優しい光を眺めていた

 こんな日もいいものだと安らかな心に浸りながら甘いクレープを味わう



『―――――――――。』


 不自然な爆発音、光、悲鳴が同時に起こった。


「な、なに!?」


「さっき来たほうからか…?」


 息を切らしながら10分前まで賑やかだった場所へつくと

 そこはさっきとは真逆の世界が広がっていた

 耳を塞いでしまいたくなるほどの悲鳴

 優しくゆれていたオレンジ色の光はさらにその赤みを濃くして

 禍々しくゆらめいている

 その光景はまるで幸せや楽しさであふれかえっていた場所をドス黒い悲しみが塗りつぶしているようだ


「…どうなってんだ…これ…」


 まだ目の前で何が起こっているのか気持ちの整理がついてない

 しかし対峙するように禍々しい怪物の群れが蠢いている


 歴戦の勇士達が苦戦しつつも醜悪な生物を駆逐していく


 そんな中、ひと際でかく機械の物体が現れる


 その物体は雄たけびをあげ不気味な笑みを浮かべた



 つい数時間前まで頼れる正義のヒーローだったあの男もあっけなく吹き飛ばされている

 さらに有名なヒーローたちも続々とかけつけ、超最新鋭の近代兵器を自在に扱い応戦

 しかし、彼らの今までの努力はあっけなく白紙に変わる


 鉄のスーツから肉片は、はみ出し


 腕を飛ばされ


 頭を潰され


 目の前で繰り広げられる惨劇はとても変身する気を起こさせない



「いやいやいやいや、ぼ、僕が行ったところで…足手まといになるだけだろ…」


 足が震える


 僕みたいな脆弱なヒーローに何ができると言うんだろう


 そんな逃げるための言い訳のようなことが頭の中を埋め尽くしていく


「やばい…腰が抜けそうだ…」



 手に握り締めた変身ベルトを回りに気づかれないようにすっと懐に隠す



「あぁあああああ、もぅ無理だ!!こんな化け物と戦ってられるかよ!」


「やってらんねぇ!割りに合わねぇんだよ!!」


 人でなしという言葉、この子だけでも助けてくれと懇願する声があちこちで散らばっている

 今まで勇敢に戦っていたヒーローたちが逃げ始めていた


「助けたいけど…あのでかい怪物の周りの人は無理だ…助けられない…」


「せめて、数人だけでも…助けなきゃ…」


「僕にできるかわからないけど…他の人だけでも逃がさないと…」


 震える足と手を抑え逃げる準備をする

 そんな状態でも他人のことを考えられるのはまだ僕がヒーローだからだろうか


「あー…、逃げてる時点でヒーロー失格かな…」

 自傷気味に笑みがこぼれる

 アニメのヒーローならばここで颯爽とこの怪物たちを片付けてくれるのだろう


 怪物に背を向け走り出そうとした時、聞き覚えのある声が耳を貫く



「かかってこい!!化け物!!」


 澄みきった声の

 放たれた方を向くと

 視界が見覚えのある少女を映す



 怪物の近くにいるのはあの子だ




 ダメだ、殺される。何で逃げないんだ。



 いや、ちがう。あの子はいつだってそうだろ。



 ヒーローである僕がこの様で

 人間であるあの子はあんなに勇ましい





 君は何で 君はどうして 君はどこまで 


 かっこいいんだ。


 僕は何で 僕はどうして 僕はどこまで


 かっこわるいんだ。



 僕はたった一つだけ。あの子との約束だけは破ってはいけない。


 スマートフォンに暗唱コードを告げ、勝率0%から変わらない最終回の準備を始める。


 今すぐここで自分の夢を置いて逃げるのは簡単だ。


 だけど


 あの子の前では、どんなに負けてもヒーローでいなきゃいけない

 少し時間を稼ぐだけでいい。





 死んでもいいんだ、ここで逃げたら、あの子を死なせたら、



 ――僕は一度もヒーローになれない――

イラストはnecoさんに描いていただきました!

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