-平山くんと俺と弟-
俺は近所に住んでいる平山くんと俺の弟と3人で登校する事が多かった。
学校までの時間は歩いて20分くらい。
子供の足だからおそらく2キロくらいあったのだろうか。
その日、いつもの朝の会が終わった後、教室のドアが開き
他の先生が顔を出した。
俺たちの担任の原先生と今来たその先生が一度廊下に出て、何やら話している。
しばらくすると、原先生が教室に戻り、鬼の形相で俺を呼び出した。
「おい、まこと!!こっちに来い!」
なんだ!俺が何した!?また体罰受けるのか…。
今日はただ単純に朝元気よく登校しただけだ、何かやらかしてしまっただろうか。
それとも今日の事じゃなくて、昨日とか過去の話か?
と、体罰を恐れ、過去の自分の行動を思い起こす。
「早く来い!!!」
俺はもうすでに泣きそうになりながら、何したかわからず、混乱しつつも原先生のところに向かう。
原先生と他の先生の待つ、廊下に出された俺は恐怖で茫然と立ち尽くしていた。
「お前、今日の朝、1年生の男の子の頭をビンで殴りつけたんだって?」
原先生がそう言った。
何を言ってるか俺には理解できなかった。
そんなことをやった覚えもないし、やるわけがない。
ただ、なぜ俺がここに呼ばれて、なぜ意味の分からない疑いをかけられているのか。
「やってません」
そう言えばいい。
そう言えばいいはずだ。
でも言葉がでない。
まず今日の朝といえば、登校時という事になる。
今日も平山くんと俺の弟と3人で楽しく登校しただけだ。
意味がわからない…。怖い…。
「黙ってないで、答えろ!!」
俺は顔面を平手打ちされ、茫然と立ちすくのだった。
無実の罪に着せられるというのは、どうして言葉をなくしてしまうものなのだろうな。
おまえらはそんな経験あるか?
大きな権力と恐怖の対象に、無実の罪をたたきつけられ、どうなんだと脅される。
今思うと、無実の罪でこれが刑事に取り調べされるときの気持ちなのか!と。
その後、原先生と他の先生が俺を教室に戻し、
なぜか教室の生徒に説明を始める。
要約するとこんな感じだ。
他のクラスの朝の会の一人一言ニュースで「俺が」登校途中に「一年生」の頭をビンで殴りつけてた。というニュースがあがった。
一年生は帽子をかぶっていたから怪我もなく無事だった
大事件だと思ったその先生は、「俺」の担任の原先生に報告した。
一通りの説明の後、何も言葉を発せない俺を見た原先生は、
俺が大変なことをやってしまい、それがバレて、茫然としていると考えたようだ。
「ビンで殴るなんて、もし間違ったら死んでしまうかもしれないんだぞ!!」
と大声でどなり散らしたところ、一人の少年が手を挙げた。
同じクラスの平山くんだ。
「あの、先生…。僕今日まことくんと一緒に学校に来たけど、まことくんそんなことやっていないと思うのですが」
その発言があり、原先生や他の先生は、いったいどういう事だとざわつき始める。
というか、教室中ざわざわしだす。
その後、平山くんが言った。
「あの…、帽子をかぶってた一年生って多分僕の事で、まことくんの弟の健太くんが僕を殴ったんですが…、ビンというか…、水たまりが凍った薄い氷の事だと思います…」
そう!
俺は思い出した、俺の弟が平山くんの頭に、地面から拾った水たまりが凍った薄い氷で殴ったのを。
非常に薄く、頭に当たった瞬間にガラスが粉々に散らばるように、氷が割れたことを。
そして思った。
平山くんが一年生並みに背が小さいことを。
俺の弟が、俺と似ている上に、背が同じくらいだという事に。
勘違いから発生した今回の冤罪だが、
原先生が最後に、それを早く言え!!!と俺と平山くんのケツに体罰を与えた事は言うまでもない。