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-山田という男-

 クラスに山田という男子がいた。山田の家庭は複雑で母親が韓国人、父親が日本人。そして当時母子家庭だった。

 山田は汚いやつだった。当時の俺と同じくらい貧乏だったが、家に風呂があるにも関わらず、週1しか風呂に入らないやつで、いつも頭にはフケがたまっていた。かくいう俺は家に風呂がなかったが、週3回以上は銭湯に通ってたので、山田よりは臭くなかったはずだ。

 服もイモジャー1着しかもっていなかったのか、いつも同じジャージだった。

 つねに鼻水を垂らしていて、原先生には「貧乏と鼻水は関係ない!!」と、いつも怒鳴られ髪の毛をつかみ振り回されていた。クラスの子が、原先生にぐわぐわんと髪の毛を掴まれ振り回される光景は、いつ見ても可哀想だと思っていたのだが、山田だけは臭いからしょうがないと思っていた。


 原先生は山田の汚いところが大嫌いのようだった。


 山田があまりにも汚かった場合、放課後原先生は、山田を自分の家に呼び、風呂に入れさせて自宅に帰らせたりしていた。今考えると、こんな事する先生はいるだろうか?一歩間違えると犯罪行為に繋がってしまうと思うが。

 原先生はなぜか山田を風呂に入れるとき、俺や俺の親友(平間くん)を付き添いに無理やり家まで連行した。

 原先生は山田が風呂に入っている間、俺たちに100%のグレープフルーツジュースをくれた。それがまずかったのを今でも覚えている。


 俺は韓国人が大嫌いだ。それは山田のせいだ。


 山田には日本人の血は流れているが、韓国人の母親一人に育てられているため、日本語を話すが中身は韓国人だ。(国籍は日本なのだろうか?そういうところはわからんが日本苗字だった)

 俺達子供にとっては、韓国人だろうが日本人だろうが、アメリカ人だろうが、子供同士は友達だ。

 だが、山田は違う。


 ある日山田が俺のうちに電話をかけたようだった、だが俺のうちは留守で誰も出ない。それなのに山田はずっと電話を鳴らしっぱなしにしたようだった。

 どういう事かと言うと、留守の間ずっと電話がなっていたよと、アパートの隣の人が言っていた。当時は黒電話という電話で、音もかなりうるさい。それに俺の家のボロアパートは壁が薄く音がよく漏れるんだ。

 1時間以上も電話はなりっぱなしだったようだ。

 帰ってきたうちのオカンが受話器をとった、「もしもし、もしもし?」返答がない。そのときはずっとなっていたとは思わず、電話を切った。


 次の日学校へ行くと、山田が俺に話しかけてきた。


「昨日おまえの家に電話かけたけど○時~○時くらいまで留守だったでしょ」

「え……?なんで?」

「ずーっと電話かけてたけど、出なかったから」

「ずっとって1時間以上鳴らしてたのおまえか?」

「うん、あまりにも出ないから、受話器を置いといて寝てた」


 山田はそんなやつだ。


 そして、韓国人はお世辞というものを知らない。社交辞令を知らない。

 うちのオカンが山田の母親に偶然会った時、

「うちのバカ息子がいつもいつも大変お世話になっています、今後とも、どうか仲良くしてあげてください」

 と大人の決まりごとのように挨拶をした。


「あら、まことさんの息子さんはバカなのですね?そんなバカなら、うちのヒデキちゃんとは遊ばないでくださいます?」


「……!(絶句)」


「そ、そうですよね、山田さんの息子さんは頭がよくって、うちのバカ息子に見習わせたいです」

「そうですね、うちのヒデキちゃんは頭がいいですからね、どうぞ見習ってくださいな」


 誰とでもこんな感じだったらしい。


 原先生も家庭訪問のときに、山田の母親と会話をして日本人とかなり文化が違うというのに驚いたそうだ。

 山田が問題を起こすと、ここまで難しい言葉をつかってなかったと思うが、原先生は大体こんな内容の話を小学3年生の俺たちに向かって話した。


「韓国人は、自分中心な生き物だ、日本人のように謙ることを知らない、おまえら(クラス全員に対して)は山田みたいになってはいけない。日本人として謙虚に生きろ、山田は日本で生きていくなら、日本人の謙虚さを覚えろ」



 ソフトボール投げを覚えているだろうか?



 今もあるのかな?ソフトボールをどのくらい遠投できるか調べる、体育の授業だったか、身体測定だったかだ。砲丸投げや、ハンマー投げのように、校庭にメモリをつけて、なんか白い粉で線を引くやつだ。

 あれ名前なんていうんだっけ……


 一人ずつ投げていく。


 全然関係ないが、俺は遠投がすげー得意で、記録は覚えてないが、クラスで一番だったことを覚えている。


 山田の番がきた。


 山田は少年野球段に入っていたらしく、投げる前からすげー得意げだった。先に投げてなかなかの記録を出している俺に、


「まこと君より5倍以上は飛ぶよ、しかも速いよ」


 そういいながら、投げる位置についた。


 山田は思いきり投げた。


 ソフトボールは、野球の弾丸ライナーのような、低い弾道で、そして、山田の宣言どおりすごいスピードで飛んでいった。


 原先生はそのとき、少し遠くで距離を測るために、横のほうにいた。山田が投げた弾丸ライナーのソフトボールは、ちょうど原先生に向かっていった。あまりにも一瞬の出来事だったが、それは原先生の顔面に直撃した。


 原先生のめがねが吹き飛んだのが、遠くからでも見えた。


 ゾクっとした。


「やったああああああああああああ!」


「やったああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 日ごろの体罰を受けていた俺らにとって、ざまぁ見ろ的な感じだった。


 だが、山田は青ざめていた。


 原先生はしゃがみこみうずくまっていて、動かなかったので、ぞろぞろとゆっくりみんなが原先生の周りに集まる。山田も原先生の近くに走ってきた。


 山田は殺される。


 誰しもがそう思った。


 だが原先生は、あまりの痛さなのか、うずくまりながら静かに言った。


「大丈夫だから次の人投げろ」


 クラスの誰かが壊れためがねを原先生に渡し、何事もなかったようにソフトボール投げを続けた。


 山田という男 おわり

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