第3話(後編) 秘密結社セイクリット
6月24日修正
3話(後編)
秘密結社セイクリッド
目の前が霞み身体の至る所が痛む。身体が燃えるように熱くなり、あまりにもの力に意識が一瞬飛びそうになった。
魔物の腕が俺達に目掛け振り下ろされ直撃する寸前、俺は右腕をとっさに構えた。途端に右腕から光が溢れ出し身体に衝撃が走り心臓が激しく脈打つ。
一瞬訳がわからなかった。目の前に迫る魔物の腕、それを阻む青き光の盾、俺の口から出た謎の言葉、驚きに動きを止める男。
俺の身に何が起きたのか全くわからない、しかしわかる事が一つ。
『自分の身に何かが起きた。』
なにが起きたのかはやはりわからない、だが心の中で一つの結論が出ていた。
『 今この状況をどうにか出来る力 』
それが自分に宿った、もしくは目覚めたのだろう、そう考えた時には俺の腕に力が篭っていた。
そして不思議と謎の言葉の続きが頭によぎり口に出る。
『我が魂属は竜、先方より伝わりし万物を司る竜の血筋を力とし、全ての根源とし、地を喰らい、天を裂き、海を吹き飛ばし、やがては星をも貫きよう。星海より来でよ夢幻、御剣•天翔『蒼空龍星剣』ここに示せ、絶対の竜爪‼︎』
次の瞬間、光の盾は形を変え、蒼き光の剣となった。
その剣は圧倒的な、威圧的な光を周囲に放なち薄暗い闇を照らす。不思議と笑みがこぼれる。
「まいったなぁ、何で一般人のはずの君がここまで強大な魔力と魂具を……やっぱり色々とおかしいよこの状況」
男はこの状態にかなり驚いている。
バリアに防がれて後ろにのけぞっていた魔物は体制を整えて再び右腕で殴りかかってきた。
俺はその手に握られた蒼き光の剣で迫る魔物の腕を斬りつける。
人生で剣なんて使ったこともなかった、と言うか本物の剣を握ったのは今回が始めてだ。その筈なのだが俺は昔から使っていたかの様に、まるでゲームやアニメのキャラの様な自然な剣裁きで魔物と交戦を続ける。
魔物も巨体ながらかなりの素早さを持っておりこちらの斬撃の一撃一撃を見切り適切に対応してくる。合間合間に撃ってくる火炎弾がすぐそこを通り抜けていく。
だがこちらも怯まず魔物を翻弄しながら戦う。悠里は男が守ってくれているため魔物と戦う事だけに集中できた。
「胴体だ、胴体の中心のコアを狙え!!」
胴体の中心には赤く光る水晶のような物があった。俺は魔物の猛撃を受け流しスキを見て残った腕を切り落とす。
そこから間髪を開けず踏み込み更に魔物の胴体目掛けその手に持った蒼き光の剣で音速の速さで貫いた。
剣が眩い光をあげ魔物を焼き尽くす、やがて剣から溢れる光は限界を超え爆発した。
魔物はうめき声をあげその場に倒れた。胴体には巨大な穴が空いている。
「隆誠……今のは……?」
俺が聞きたい位だった。一体今の力は何だったのか、気が付くと光の剣は消えていてあるのは魔物の死体だけだった。
「君が倒したのかい……?」
「……ッ!?」
次の瞬間突然意識が揺らいだ。今までに感じたことが無い程の極度の疲労感と頭痛だ。
身体中に力が入らない、視界は更に深い光に包まれ俺は意識の空間に落ちていく。
「少年!!」
「隆誠!!」
俺の意識は落ちていった。
深い、深い闇へと。
「次から次に何なんだこの状況は、とりあえず一旦帰投するか。そこの娘、腕は大丈夫か?」
「一応、凄く痛いけど……隆誠は……隆誠は……!?」
「大丈夫だ、ちゃんと生きている。とりあえずこれから僕の居る基地へ一旦向かう。君の腕に応急処置を施したら向かうよ!」
「基地!? ……えっ……あっ……はい……!!」
『時は来た』
意識が朦朧とする、頭がぼんやりして記憶が曖昧としている。
「ここは……?」
『えー……コホン、目覚めたか、少年、高坂隆誠よ』
「声? ここは……? 誰が俺の名を呼んでいる……?
『君は選ばれた……月晶石に』
辺りは闇に包まれている。招待がわからない声だけが響き渡る
「月晶石?」
『恐らくこれから君はこの世界の残酷な一面に遭遇する事になる』
「残酷……? 世界……?」
『それは君を本当に苦しめる。人生で二度と無い苦しみになるだろう。だが君なら、試練を乗り越えたお前なら……世界の理を……覆す「鍵」を見つけ出すことが……』
「おい、お前は誰だ!? 何のことだ!!」
『竜の子孫に幸あれ……』
『お前が望むならその力は世界を創り変える力となるだろう』
目が覚める、頭が痛い。なんだか体もだるく辺りが眩しく感じる。
気がつくと俺は見知らぬ部屋で寝かされていた。窓は無いがテレビの様なモニターや机等があり病室、と言うか個室の様な場所だ。しかし今の夢は……一体……
「気が付いたか」
「あんたは……」
記憶が起きたてのせいで若干あやふやだ。何が起きていたのか、何処にいたのかが全く思い出せない。
「いやぁまさか君が能力者だったとはねぇ、やっぱり司令の言っていたことは正解だった訳ね」
「何の話だ……?」
訳が分からなくなってきた。動こうとすると猛烈に頭が痛い。
とりあえず俺は必死に物事を思い出そうとする。
「記憶が途切れているのか? まあ無理もないか、魔法や魔力に関わったことが無い人間があそこまでの魔力を開放したらそりゃあ負荷が大き過ぎる、むしろよく死ななかった物だよ」
「魔力……魔法……」
そこでようやく思い出す。
あの地獄のような惨劇と時空を飛びそれを覆し魔物を倒した事を
「悠里は!? 魔物はどうなった!?」
再び目の前にフラッシュバックが起こる。あの巨大な魔物と戦っていた時は必死過ぎて何も考えていなかったが今になって恐怖が強く湧き上がる。
胃が痙攣を始め痛みと眩暈から一瞬吐きそうになるも堪えた
「まあまあそういきなり焦るな、あいつは君が倒したしあの少女は治療を受けて無事だよ」
「よかった……無事だったのか……って俺が魔物を倒した!?」
一瞬耳を疑った。とは言っても感情が収まってきて落ち着くにつれ意外とすんなりと受け入れていった。というかあまりにも意味がわからない状態に自然と受け入れざるを得ない状態になってしまったのだろう
「ああ、君はあの悪魔との戦闘中魂属、つまりは能力に目覚めあの魔物を粒子レベルで木っ端微塵にしたよ。あそこまでの強大な魔力は久しぶりに見たね」
言われてみれば記憶にうっすらと光の剣で悪魔を貫いたのは覚えている。
「驚いたよ……急に僕に話しかけてきたと思ったら敵のアジトの場所を教えてくれてさらにその先でいきなり覚醒して悪魔の眷属を倒しちゃうんだから」
「俺が能力使い……」
「そう言えば紹介が遅れた、僕の名は爪牙竜剣、竜剣でいいよ」
「竜剣……自分は高坂隆誠、隆誠でいいです」
「いやいや、そんな恐縮しなくていいよ。別に呼び捨てでも構わないよ」
「いや、自分にとっては命を救ってもらったわけだし、そういえば悠里は無事……?」
先程から何回も聞いてしまっているがそれだけ彼女の事が気になる。
いくら俺が助かったと言っても彼女が無事でなければ何事も意味がなかったことになる。
「ああ、あの娘なら他の医務室で治療を受けてピンピンしているよ、少し元気になり過ぎた気もしなくも無いがね」
アイツまた何やってんだ?緊張が解れたが今度は違った意味でまた胃が痛くなってきた。
「ま、まああいつらしくてよかった……か」
ふと落ち着く。とりあえず悠里や隼人への死は免れられたのだろうか、本当に良かったと力が抜ける。
だが同時に不安も沸く、本来なら死ぬはずだった俺達はこの男、爪牙竜剣と言う男の手により運命が変わってしまったのだ。
要するに正確に動いていた時間軸をずらしてしまったのではないか、まあこれが何を指すのかはまだ解らないが、あの魔物や能力、魔法などの事を見る限り、とりあえず俺達は一般人の生活からは外れた存在となってしまったのではないだろうか。
「ここは一体……?」
「ここはまあなんだ、僕達が所属する対悪魔の秘密結社の基地みたいな感じかなぁ」
「対悪魔の秘密結社?」
秘密結社、アニメやバラエティ番組などでよく聞く。つまりは何かしらのために集まり働く秘密の団体の事だ。
大体の場合宇宙人の観測や接触、邪悪な魔術師の良からぬ教団など決していいイメージは無い。
しかもこの男、竜剣が曰くここは対悪魔の秘密結社、なんだかテレビで良く見ていたオカルト系がどうしても頭を過ぎるが何だか思っていた以上にSFチックだ。
しかし話の規模が良くわからない。ここは日本だよな? もはや場所の感覚すら無くなってきた。
「なるほどそうか、ここは君達は本来なら知るはずが無かった場所だからな、説明させてもらうか」
この男、爪牙竜剣によるとここは世にはびこる悪魔を退治するために結成された秘密結社「セイグリット」と呼ばれる団体の基地らしい。
基地ね、もうあまり驚かないがよく普通の人間にバレないな、この規模で。
で俺達は普通一般人は知っちゃいけない悪魔の取引きを目撃した悪魔の被害者って形らしい。だがその被害者がピンチで能力が覚醒して悪魔を……あーややこしい、訳が分らない。
なんだこの展開、まるで俺はアニメか漫画の世界にでも入っちまったのだろうか。普段死ぬほど見慣れていてまさにこういったものに憧れていたのは事実だがいざ自分がとなるとかなり戸惑う。
まあとにかく俺はどちらにしろ重要な人物だった? と言うかなってしまったということになる。
何だか凄くご都合主義な展開でアニメだったら1話で切りそうな展開だ。
「正直君達には謝り足りない位だ……しかし君達はもう悪魔達に存在を知られてしまっているかもしれないし……」
「まあ、俺も1つ間違ったら殺されていたわけだし……」
お互いにうーんと考え込んでしまい沈黙が続く。
「まあ、目覚めてもし体調が大丈夫そうなら丁度君にあと1つ話が、君には病み上がりのところ悪いけどとりあえず司令に会って欲しい。今回の件や悪魔や君の能力など恐らく君が疑問に思っていることを教えてくれるだろう。今後の事も話してくれるだろうしね」
とりあえずその司令とやらに会えば少しはこの状況もなにか分かるのだろうか。現状何もわからない身で出来ることも無いためその司令に会うのが今一番やるべき事だろうか
「わかった、その司令とやらの所へ行ってみる」
その後俺は医務室を出て基地の司令官に会い話を聞く為司令室へ向かったのだが……
「な、なんじゃこりゃ!?」
そこには辺り一面に広がる未来的な外壁、動く歩道、ロボで溢れていた。
ダメだ余計に頭が混乱してくる、まだ夢は覚めていなかったのだろうか、目の前の現実への疑いの雲は晴れないどころか更に濃さを増していく。
「驚かせてしまったねぇ、ここが僕らの基地だ」
心臓が高鳴る、汗が溢れだし足が震える。もはや厨二心を通り越して子供心にまで達し始めている。
「凄い、何なんだ!?」
「まあ、なれてくるとあんまし何も思わなくなるけどね、僕も最初は驚いたっちゃあ驚いたけどね」
俺達は司令室へ向かった。道中には他の隊員だろうか、俗に言う近未来的な服装をした人達と通りすがった。なんだかこちらをチラチラ見てくるがやはり悪魔を倒した話からだろうか
「ここに司令さんがいるからね、僕は外で待っているから」
俺は決意を固めて扉を開けた。機械式で固く閉ざされた扉の上には『commander』と書かれている。
扉を開けて中に入るとそこには40代位の男が椅子に座っていた。
「ようこそ少年、いや高坂隆成君。詳しくは言わなくてもわかる、何せ私は6年後から来たのだからな。全て言わなくても知っている」
この人が話に聞いた司令官だろうか。歳は30〜40程、長身でスーツに身を包んでおり白髪、片目は黄色で他の基地の人間よりかは現代人らしくも見えた。
「貴方が竜剣さんが言っていた……」
「まあそう堅くなるな、そこに座ってくれ」
俺は司令室に置いてあったソファに腰掛けた。その感触は昔小学生の頃に座った校長室のソファを思い出す。
「私がここの司令官をやっている緋崎 光一だ、よろしく頼む」
「こちらこそ」
しかしながら身体が鉄の様に動かない。
普段大人と話すのは苦手では無いがこの男の目に見られると動けなくなってしまう。
「君が……あの魔物を倒した……なる程」
この司令と呼ばれた男は俺を見て何かを考えそして笑みを浮かべた。
「いや……やはり似ているな、あの男と」
「あの男……竜剣さんの事ですか?」
「いや、まあ違うと言えばまたそれも違うか。まあとりあえず本題に入るとする、高坂隆成君。今回の悪魔との騒動に君を巻き込んでしまったことを対悪魔の第一人者としてまずは最初に謝りたい。一般人である君とあの娘、鈴原悠里を巻き込んでしまったこと、本当に申し訳ない」
男、緋崎光一は頭を深々と下げた。なんと言うか威圧感と共にこの男からは唯一人間らしさを強く感じる。
「いや、今回の話は自分達子供が好奇心だけで危険な場所に入り込んでしまったことによる原因もあります。余分な手間をかけさせてこちらこそすいませんでした」
一応こう言った場合の礼儀や作法、言葉遣いは心得ていた。万が一のために少しは覚えておいて良かったと思った。
「まったく、やはりその低姿勢で謙虚な態度、そこは相変わらずだったんだな……」
「相変わらず?」
「いや、気にしないでくれ、少し君が私の知り合いに似ていたせいでな、その彼が重なっただけだ」
しばらく沈黙が続く。こちら側から話したいことも沢山あるのだがこうなるとなかなか言い出しにくい。
「さて、君にここまで来てもらった理由は謝る事だけでは無い。まずは話によると君は突如竜剣の目の前に現れ悪魔の秘密裏の研究所の場所を教え更にその先で悪魔の手先と戦闘になり能力に覚醒し倒した、と聞いたのだが」
いきなり話の核心を突いてきた。こちら側から言い出すタイミングを見計らっていたがその手間が省ける。
能力の話しは正直自分としても状況が分からないためありのままを正直に話した
「すると君は一回その友人達と悪魔の基地まで向かいそこで殺されかけた、更に挙句そこで竜剣と思われる人物と接触、過去に飛び竜剣に会い情報を伝えろと……そして今に至る」
できるだけ具体的に、かつ簡単に、端的に話した。
と言うか今になり思い出してみると実際それ程話す様な内容も無かった。
その魔物の対峙した時は衝撃から何時間にも感じたが実際の時間は数十分から行って1時間ほどだったからだ。
光一はこちらの話を聞くと考え込みそして間を置いて話し始めた。
「君が言っていることが事実ならば……いや」
「何か重大な事でもあったんですか?」
「まずは順を追って話をさせてもらう」
そう言うと光一は話を進めた。
この基地とその人員達は悪魔から逃げ時間を遡ってきた存在である
未来では地球の支配を目論む悪魔と人類で戦争になっており、人類は絶滅の危機に瀕していた。
しかし人類は諦めておらず、その悪魔達の王、ルシファーを倒すべく能力者達を集め悪魔と戦う対悪魔の組織「セイグリット」と呼ばれる秘密結社を作りついにルシファーを追い詰めた。
しかしルシファーとの戦いで味方も数人しか生きておらず、その唯一生き残っていた最強と呼ばれる能力者とルシファーの一騎打ちとなった。
しかしルシファーとの決戦の最中ついに能力者最後の1人が死んでしまう。やむを得ず最後の手段として生き残った未来人達でタイムマシンを使いギリギリの所で過去に逃げた。
しかしタイムマシンも完全では無く時空の波に飲まれてしまい結果遥か昔、平安時代の町外れの山奥に墜落する。そこで偶然旅を続けていた竜剣と出会い未来の結末を知った彼は私達に協力してくれる事となった。
その後タイムマシンにできる限りの修復を施し世界を救う為再び未来に飛ぶ、そして今から丁度10年前、2003年に何とかたどり着く事ができた。
「ならばそのタイムマシンですぐさまその未来に向かえば良かったんじゃ」
「いや、私達も試みた。しかしタイムマシンの修復も応急措置程度の物で燃料も尽きその時間が飛べる限界だった」
光一は俯き表情に悔しさを滲ませる。
「だが私達も諦めたわけでは無い。そこで私達は未来を変えるべく様々な研究や推測、計算を毎日と繰り返した。タイムマシンや未来人の存在がバレてしまうのも時間の運行を更に乱しかねない、それに注意しながらひたすらこの基地に篭り1年、2年と研究し7年前、ついに未来を変える、救える選択肢を見つけた」
「未来を変える選択肢……?」
「そうだ、未来を変える。すなわち未来で世界が悪魔と戦争になる、それに至る時空の分岐点、我々は因子と呼ぶ物を見つけ出し排除する。そういった結論だ」
この手のことにはアニメ等で慣れていたつもりだが正直全く何を言っているのか分からない。
いや、言っていることは大体分かるのだがまるでアニメや漫画の内容を聞いてるみたいで現実味が全く感じられ無く話が入ってこないのだ。
「そして私達は地上の人間にバレないよう、因子を探しながら地上に居る悪魔や魔物を狩ってきた」
「じゃあ俺達が知らないだけで悪魔は人類に紛れ込んで沢山居たと……?」
「そうだ。まだ悪魔は大々的に出ていないだけでこれから暫く、恐らくこの近日中にでも活発に、大々的に表舞台て動き始めるだろう」
「近日中!?」
またいきなり話が唐突過ぎる。この平和過ぎるくらいの日本で悪魔が暴れ始める?なんでだ、何の根拠があってそんな話が。
地上では特に何も無くいつもの日常が続いているというのに。
「やがて悪魔が暴れ始めれば地上では警察や自衛隊と悪魔、魔物の衝突が多発する」
「そんな事、起きる訳が……」
言葉を失った、自分が思っていた以上に話は大きかった。
今までは自分達の身のことばかりを考えていたがどうやらこの話は全人類に関わる重要な話だった。
「安心しろ、その時空の因子を破壊していけば完全にとは言えないが戦争になるのを抑えられる。だが逆に抑えられなければ悪魔と人類の戦争は定時通り始まりこれから6年近く続く戦火の時代が来る」
正直自分達の命が助かった、と心の底から安心していた。しかし今の話を聞いてまた恐怖の冷や汗が止まらなくなってくる。
面倒事には巻き込まれたくなかったがもう巻き込まれるとかそんな次元の話では無くなっていた。
「……その因子とやらは見つかっているんですか?」
恐る恐る問いかける、これで見つかっていないなど言われたら俺は恐らくもう正気を保てないであろう。
「大丈夫だ、因子のうちの数個は確認している。いや、君のお陰で確認した、とでも言っておこう」
「俺の……お陰?」
「そうだ、君が竜剣に言った、案内したあの場所の先で起きることこそが時空の分岐点、破壊すべき因子がある」
あの場所で起きることこそが因子、聞き間違えで無ければそう聞こえた。俺が時空の流れを変える鍵となったのだろうか。
「恐らく君たちのお陰で間に合うだろう、正直私としても竜剣から聞いた時は耳を疑ったが調べて見たら合っていた。偶然あの場所に調査に出掛けていた竜剣が偶然居合わせた少年と出会い因子を見つけた、まさに奇跡だよ」
あの時間を飛ぶ前に居合わせた男、あの男に言われた言葉が何となく頭を横切った。
『お前が過去で成すべき事をしなければ世界は確実に滅ぶ』
そうか、こういう事だったのか。まあそんな簡単な話ではないと思っていた、簡単に友人の命が救えるなんて。
いや、実際その時の俺は簡単に、単純に考えていた。まあ結局、こうなるよな。
「とりあえず君に言えることは1つだけだ、現状悪魔の研究施設の前で騒ぎを起こし悪魔に存在を知られたであろう君を返す訳には行かない、また君の持つその能力や会ったという男の話も気になる。暫くは保護という形でここに残ってもらう」
そんな勝手な話があるか、そうも思ったが何も言い返すことはできなかった。
逆に帰ってまた襲われる事の恐怖もありそもそもこのまま帰っていつもの日常に戻れるかどうかわからない。
色々と考えた結果俺はここに残る事にした。
「まあ君たちはここに来てすぐで状況などを理解するのに時間がかかる、詳しい話は後日話す。繰り返しになるが君たちをこんな事に巻き込んで本当に申し訳ないと思っている。だが……もしかしたら君はこの長き悪魔との戦いを終わらせる鍵になるのかもしれないんだ」
気がつくと男、緋崎光一は頭を下げていた。こんなに頭を下げられたら断りにくい、だが俺達はこの話に更に深く関わってしまえば戦いに巻き込まれて死ぬ可能性だってある。
だが既に今日の一件で相手の悪魔の軍勢とやらに気がつかれていると言うことになる。どちらにしろ悪魔とやらに追われる事になる。
それにあの和服の男とも契約をしてしまった、とりあえず話が一区切り着いたら適当に理由を着けて早めに地上に帰ろう。
「とりあえず君の部屋は用意してある。また何かあったら竜剣に聞くといい。あとこれだけは言わせて欲しい」
『君のお陰で未来は救われるかもしれない、いや救われた』
その言葉は今でも深く覚えている。未来は救われた、俺のお陰で、そう言う意味になる。
「わかりました、暫くは身を置かせてもらいます」
人間とはやっぱり単純な者だ、少し褒められたりするだけですぐにその気になる。特に中学二年の俺にとってはその言葉に更に深く魅入られてしまう。
「ああ、助かる。君のいい返事を聞けて良かった」
まあ、普通に考えても褒められたり感謝されると気分は悪くは無いものだが。
その後俺は司令室を出て外で待っていた竜剣と合流した。
「どうだった?大体話はわかった?」
「ああ、少し混乱しているが」
「まあ僕もあの人とはあって10年程位になる感じかな……?突然旅をしていた僕の前に光り輝く船が降りてきてびっくりしたよ」
あの司令の話が本当ならこの男はやはり過去の人間となるのだろうか。そうするとあの和風の姿をしていたのも納得できる。
その後悠里が治療を受けている医務室に向かったのだがそこにはなんと傷が完治していた悠里がいた。
一体お前腕の傷はどうしたんだ、さっきから混乱しかしてないがこれは俺の悪い癖だ。普通と冷静を気取っている割にすぐにテンパったり錯乱したりする。
普段余裕と言うか動じない感じの雰囲気を纏っているのにはこれを隠す目的もある。
「ここの医務室の人達すごい、手が光ったと思ったら私の傷にかざして次の瞬間もう傷が治っているの!!」
「ふふふ……なんたってここに居る私達は医療魔法のスペシャリスト達だからね……」
医務担当の職員が笑う、こういった姿を見るとやはり未来からきた人間とは言えやはり人間なのかと認知する。
「医療魔法、能力、もうなんだがあんまし驚かないや。所でさ、隆誠……」
「 ん? どうかしたのか?」
「あんた身体は大丈夫なの!? さっき腕から出したあのびゅーんってすごい剣は何!? あのびかーんって光ったビーム何!? いつから黙ってたのよ!? 何!? 何!? 何ィ!?」
「がー!! 一気に話すな、俺だって知らねえよ。いきなり腕からビーム出るわ意識吹っ飛ぶわ……俺が聞きたい!!」
正直そんなにいきなり言われても俺も全く同じ身だ。能力やら魔法やらまだまだ不明な事は多い。
「そう言えばあんたも能力を使っていたが……あれは……」
「ああ、僕があの悪魔に対して使った能力は『魂属』と呼ばれる物だ」
「魂属?」
「そう、魂属とはまあなんだ、物に宿る魂の属性? と言うか潜在的な物のことで、この世界のありとあらゆる生物に存在する力だね。しかし普通の生物は使う事ができない。というか存在すら知らないだろう。だが一部の生物は潜在的に扱えたり、様々な要因によって使えるようになる生物も世の中には居る。もっとも僕のいた平安の時代には扱える人間なんて僕と数人しか居なかったけどね」
「なるほど、だがそう考えると俺が能力を使えたのもあの追い込まれた状況等で魂属が覚醒したからになるのだろうか?」
「いや、そこはまだわからない。だが少しふに落ちないところがあるしそこら辺は後日、と言った感じかな」
「ふに落ちない?」
「うーん、まあね」
「ああ、まあわかった」
「さっきから2人でコソコソなに喋ってんのよ!! 私にも話やさっきの怪物の内容を教えてよ!!」
「ああ、悪い悪い、後でちゃんと話すよ」
気が付くと俺達、俺、悠里、竜剣は笑いながら話しており自然と馴染んでおり和やかな空間となっていた。今日初対面のはずの男、竜剣と俺達は何か色々な縁があるのだろう、不思議と居心地は悪くなかった。
これならばもしかしたら戦いに巻き込まれたとしても少しだけ安心できる、良いのかもしれない、と思った。
いや、言い換えると、思ってしまったのかもしれない。
俺達はとりあえず自室へと案内された。悠里はまだ医務室で様子を見るため今日は戻らないそうだ。
ちなみに俺がさっき目覚めた部屋が俺の自室だったそうで道には迷わなかった。
「そう言えば親とか今までの普段の日常生活はどうすれば……」
「この話に関しては実は本来なら門外不出の話であるからご両親にも連絡はできないかな。まあ僕はすぐに君達の安全を確保してこの話を終わらせてから地上にはすぐに返すつもりだからその辺りの話は近いうちにどうにかしておくよ」
「そうか……少し心配だが……」
実際ここにいる間に地上ではかなりの騒ぎになってしまうだろう。俺は多少は大丈夫かもしれないが悠里の父親は街でも有名な空手の道場の師範だ。娘が行方不明となったらどうなるかわからない。
とりあえず詳しい話を考えるのは止めにした。まだ体が重たく過度の情報量とまだ完璧じゃない体調からか強い眠気が襲ってきた。
体調も万全じゃないし今日は寝よう、俺は竜剣に別れを告げ慣れない部屋の白いベットに崩れ落ちる様に寝た。
仮にこれが夢ならば、覚めればそこはいつもの天井の筈だ。
きっと、何もかもいつもの日常があるはずだ