第21話 少年達は再び集う
第21話
少年達は再び集う
辺りが静まり返って居るはずの東京の夜の町外れ、今は稼働していない工場で戦乱は起きていた。
「ゴラァワンコロ、さっきまでの意気込みはどうしたァ!!」
カッコつけて助けに来た割に俺は例の悪魔にあっさりブッ倒された。流石に病み上がりと言うか正直体調は万全では無いし武器も半壊しているしその調子で来たらそれはこうなるか。
「くッ・・・やれ、やるんだ下僕、あの化物女を止めろ!!」
「誰が化物女じゃ変態マスクゥ!!」
叩きつけ、アッパー、ストレート、悪魔の割になかなか人間味のある動きをしてくる、それにその爪でやっちまえばすぐにトドメをさせるだろうに、まるで戦いを楽しんでいるかの様な動きをする。
「ヒィッ・・・ひ、怯むな、やれ!!」
それにあの仮面の男は悪魔か、はたまた人間の協力者なのか、しかし悪魔を使役している辺り悪魔の軍勢の中でも一段階高等な存在に当たるのだろうか。
ともかくそんな話はどうでもいい、俺が一番ツッコミたいのはそこではない。
『素手で悪魔と渡り合っている悠里の姿だ』
あの瞬間の詠唱と叫び声、明らかに人間によるものでは無い異常な爆発
、いくら悠里が人間離れな少女だからってあの動きは普通じゃ有り得ない動きをしている、それに拳が命中する度に物凄い音と光、と言うかついには火花が周りに散っている。
まさか悠里が能力に目覚めたと言うのだろうか。
「チェストォッ!!」
その悠里の一撃は悪魔の顔面に入った。悪魔の顔は歪みしばらくふらついた後その場に倒れた。
やったのか、そう思ったが悠里は拳を止めなかった。
戦意が無くなり意識を失った悪魔をひたすらぶっ飛ばし、蹴り飛ばし、また殴り、と先程の悪魔のやっていたような事を今度は悪魔に対してやり返している。
既に彼女は理性を失っておりその攻撃はどう見ても空手と言えるものでは無くなっていた。もはや狂戦士が本能のままに全てを破壊する、悪魔よりも悪魔らしい、そういった物になっていた。
やがて悪魔はボロ切れの様に廃材の山にぶっ飛ばされガレキの山に沈んだ。
「・・・さあ次はテメェの番だ、変態野郎」
傍から見たら彼女が炎を纏っている訳でも魔法を使っているわけでもない。しかしその姿には相手にとっては見えない恐怖が現れているのは確かだった。間違い無くあの勢いはその見えない力であの男を殺しにかかろうとしている。
「ヒェッ・・・やめろ、来るな!!」
仮面の男はそう後ろに1歩、また1歩と下がっていく。すると懐から再び拳銃を取り出し悠里に対して乱射する。
しかし結果は無惨だった。撃ち出した銃弾は確かに悠里に命中した、だが彼女はその銃弾を腕で弾き返した。
何を言っているのかわからない人も沢山いるだろうがとりあえず彼女は銃弾を素手で弾き返している。着弾と同時に衝撃音と共に全ての銃弾が確実に弾かれている。
「ほう・・・この肉体は銃弾すら克服したのか。良いぞ、もっと来いよ、変態野郎。そんなに自分の物にしたいんだろう?だったら力尽くで来いや!!」
『任務は失敗だ!!こんなの・・・無理だ、話に聞いていないぞ!!一旦引く、話は基地に帰ってから聞きたい』
持っていた端末にそう言うと仮面の男はゲートの様なものを開き逃げようとする。
悠里はそれに対し近くにあったドラム缶を仮面の男に対して蹴り飛ばした。その悠里により撃ち出された無慈悲なドラム缶は男の背中に命中しゲートの向こう側へすっ飛ばされて行った。
最後の表情と悲鳴は生物の絶望の最終段階の様にも見えたし聞こえた。敵ながらも少しだけ哀れに思えた。
しばらくの静寂の後その場に立ち尽くしていた悠里はこちら側に歩いて来た。その足取りは少しふらついていて表情は読み取れないが少なくとも笑っているようには見えない。
こうして倒れていた俺のところに悠里が来てようやく悠里の表情は見えた。
「怖・・・かった・・・」
彼女は泣いていた。ようやく戦いは終わり緊張が抜けたからだろうか、彼女はその場に座り込みやんやと泣き始めた。
そこには先程までの激昂した彼女の姿は無くただの1人の少女の姿だった。
「死ぬかと・・・思った・・・隆成も、私も、怖かった・・・凄く・・・」
「ありがとうな、悠里。まさかお前に助けてもらうことになるとはな」
まさか助けに来るつもりが助けられていた。もしあの場で彼女が力に目覚めていなかったら二人でまとめてあの世行きだったのは確実だった。ある意味偶然に助けられたのかもしれない。
泣き止まない悠里に俺はそっとハンカチを差し出した。
「とりあえずここだと風邪ひくからな、救援の隊員達が来たら帰るぞ」
そう言い俺は動かない足に無理を言わせ立ち上がった。あれだけの悪魔の連撃を受けたはずなのに思った以上に体へのダメージは少なかった。
この時は何も思っていなかったのだが恐らく肉体が能力の影響を受け始めているのだろうか。傷などができたとしても常人よりも早く治るようになり始めていた。
俺は立ち上がると悠里に手を差しのべた。彼女はその手を受け取り泣きじゃくりながら立ち上がった。
「さあ、帰るか」
そう帰ろうとした次の瞬間だった。
「おーい・・・誰かそこにいるのか・・・」
後ろのガレキの山から聞き覚えのある声が聞こえた。そこは先程悪魔が落ちて埋もれている場所だった。
「悪魔の生き残りか・・・!!」
「・・・その声は・・・まさか隆成!?」
俺はすぐさまにその声の元へと走った。先程悪魔が埋もれていた場所を覗くとそこには見覚えのある顔があった。
「隼人!?」
その声に反応するかの様に泣いていた悠里も駆けつける。
「お前ら、何でここに居るんだ?てかここは・・・確か悪魔王の秘書と戦っていて・・・ブライン、あの人はどこに行った・・・!!」
「あせんなあせんな、何があった落ち着け、大体状況は察した。とりあえず・・・あーめんどくせえ、とりあえず救援が来るのを待つぞ」
「救援・・・?」
隼人は全然状況が飲み込めていなかった。
いや、正直俺もまったく状況が解らない。何故隼人がここに?さっきの悪魔は?そして何よりも・・・
「お前、何故裸なんだ」
「えっ・・・」
気がつくと悠里が顔を赤らめながら拳を構えていた。まて、よせ悠里、それをやってはいけない。
「・・・チェストォ!!」
「うげェッ!!」
しばらくして救援部隊が来た。俺達は無事に保護され基地に連れて行かれた。隼人も失神こそしていたがその後すぐに意識を取り戻した。
正直今日は事後報告やら悠里の能力の件やら隼人の件などで眠りたくても眠れなさそうだ。それにあの仮面の男も気になる。
色々あったがとりあえず今回のブラックハウンド騒動は収まりそうだ。
俺も多少なりとも気分の方は戻ったし今回の件からむしろ更に日常には戻れなくなっただろう。
隼人の話によると地上では俺達かどうかは解らないが中学生の集団失踪等が相次ぎ搜索がが既に行われていたらしい。恐らく俺達もその中に含まれているのだろうか、ということは悪魔により拐われた中学生等もまだ居るのだろうか。ならば尚更戻るわけには行かない。悪魔を倒し、人類の未来を守るとそう決めたから。
『でも』
こいつらと一緒ならば悪魔退治も上手くやっていける気もする。
今俺達はようやくスタート地点に立てた。
漫画的な表現ならここはこう言っておくべきか。
「俺達の冒険はこれからだ、ってか」
(打ち切りじゃ)ないです。
いよいよ主人公達が出揃いました。隼人の正体はまさにご想像の通りです。悠里の能力については次の話辺りで詳しく語る予定です。
という訳で次回からはついに本格的に悪魔との戦いが始まります。仮面の男やその仲間、そして隆成達の新たな助っ人、まだまだ話は続きます。
もしここまでまだ見てくれている方がいるのならばここに感謝を示します。
いつも読んでいただきありがとうございます。