第20話 鬼神の覚醒
第20話
鬼神の覚醒
向こう側に見える赤き眼光、お互い相手の手を伺い動く事ができなかった。
「どうしたの?早く来なさいよ」
すると相手の悪魔はこちらの言葉に反応したように高速でこちらに向かってきた、だがこちらも相手の動きは読み切っていた。
「この程度の速さ、簡単に読めるわよ」
相手は爪で切り裂きにかかってくるが篭手で防ぎ次の手を食らわせる。しかし相手もすぐさま回避し背後に回り込まれた。
「なーんだ、予想に反して遅いじゃん」
すぐさまその回り込んできた悪魔に対して先程の拳の反動を利用し背後にフックを仕掛ける。流石に悪魔も対応し切れずに腕に拳を食らい仰け反る。
こうして近くで見てみると体躯は意外と大きく二足歩行をしているのがわかった。腕は発達しておりあの爪で切り裂かれたら生身の自分は一溜りも無いであろう。
「この篭手、結構使えるわね。これなら悪魔なんて簡単に仕留められるわね。隆成はこんなやつに苦戦していたの?」
悪魔は体勢を直し再び向かってきた。
今度は相手の動き方、速さ、力も把握していた為に簡単に拳が命中した。そしてすぐさまに掌底、からの三連撃を当てる、そこにトドメの蹴りを食らわせる。篭手の熱波が一層強くなり拳の速さだけでなく全ての動き、威力に加速がかかる。
打撃を食らった悪魔はシャッターに打ち付けられ力無く伸びる。
『あー・・・もしもし、司令?仕留めたわよ、悪魔。動かなくなっちゃった』
『慢心はするな、トドメは刺したのか?』
『あー・・・トドメ?わかった、ちょっと待ってて、今・・・』
とシャッターの方を見ると悪魔の姿は既に無かった。咄嗟に気配を感じて空を見上げる、そこには更に輝きを増した赤い閃光があった。
すぐさま篭手の盾を展開し悪魔に対して構える、次の瞬間悪魔の全体重を乗せた一撃を受けた。
攻撃は食らわなくても流石にそれは支えきれず押し潰される様な形になる。
すぐに悪魔を押し返すも体勢を直すのに時間がかかり次の瞬間悪魔の拳を受けた。幸い爪で裂かれなかった為に致命傷は免れたが今度はこちらが壁にのめり込む事となり意識が薄れていった。
「あちゃー・・・やっちゃったか・・・」
『悠里、応答しろ、鈴原悠里!!そちらに援護が向かっている、持ちこたえろ!!』
「へいへーい・・・」
しかし持ちこたえられる訳もなく意識が急激に遠のいていった。
あ、ダメな奴だこれ、調子に乗りすぎてしまったと気付いた時にはもう手遅れだった。
目が覚めた時、そこは工場か何かの跡地で良くあるシチュエーションで柱に鎖で縛り付けられていた。そして後ろ側から声が聞こえる。
「よーくやったぞワンちゃん、いい子だ」
「うーん・・・」
「お、起きたみたいだね、目覚めの気分はどうだい」
声からして先程の悪魔とは違う悪魔だろうか。顔が見れないためにどんなヤツなのかわからない。
「誰よあんた、これを解きなさいよ、ぶっ潰すわよ!!」
「はいはい、大丈夫大丈夫、奴らがダーインスレイヴの欠片を持ってきたら開放するよ」
そうだ、篭手の熱で鎖を焼き着れば脱出できる、しかしそこで篭手が無いことに気が付いた。
「あー、君の武器なら僕が預かっているからね、奴らへの身代金要求の通信に使わして貰ったよ」
そう奴が言うと篭手を私の目の前に投げてきた。
「取れるものなら取ってみなよ、鎖から抜け出せるならね!!ヒャハハハハ」
「こんにゃろ・・・!!」
すると後ろから足音が聞こえてきた。
そして声の主が目の前に現れた。その姿は道化師の様な、悪魔の様な姿をしており仮面をつけているために素顔は解らない。
「いや〜、やっぱり美人さんだなぁ・・・人質にしておくのは勿体ない、奴らが倒れたら僕のお嫁さんにしちゃおうかなぁ〜?」
奴らを倒す、つまりは交渉する気など端からなかったと言う事だろうか。どちらにしろこのままではヤバいのは確かだ。
「誰がお前何かの・・・!!」
「ああ、そうそう。もし反抗なんてしたら奴らの前に君がエサになってもらうからね」
すると目の前に先程の悪魔が現れた。こいつはあの仮面の悪魔に従っているという事なのだろうか。
「フヒヒ、いや〜可愛いなぁ、食べるんならやっぱり僕が食べちゃおうかな?ほらほらそしたらさ、くっ殺せって言ってみてよ、ほらほらほら!!」
すると仮面の男はこちら側に手を伸ばしてきた。
嫌だ・・・こんなやつに好き放題にされるなんて、殺されるなら構わないと思っていた。だがここまできて自分の性別が仇となるとは・・・もう嫌だ。 とにかく助けてとしか言えなかった。
「助けて・・・」
「だーれも助けなんて来ないよ、そんな姿も可愛いなぁ・・・」
結局カッコつけたこと言って出てきた割にその名前を、姿を思い浮かべてしまった。結局あいつを巻き込んじゃうんじゃない、私。あー!!クソ人間、馬鹿馬鹿馬鹿!!でも、もう出かかってしまった叫び声は止まらなかった。
「助けて・・・助けて隆成ッ!!」
次の瞬間その叫びに答えたかの様に工場の入口が爆発し吹き飛んだ。その砂埃の先に見えたその影、光は紛れもなくあいつだった。
「待たせたな、悠里」
「誰だ・・・テメェ、悠里ちゃんとの甘い時間を邪魔しやがって、ブチ殺」
次の瞬間隆成は無反応で銃弾を仮面の男に撃ち込んだ。
「ヒィッ!?」
「命乞いをしろ、3分間待ってやる」
「い、命乞いィ?命乞いをするのはどっちだ、立場を弁えろよな!!」
仮面の男は指示を出した様に見えた、すると先程の悪魔は隆成の前に立ちはだかった。
「殺っちまえ、そんなガキひねり潰しちまえ!!」
悪魔はその巨大な腕で隆成に襲いかかる。隆成も病み上がりながらその一撃一撃を左手に出現させた光の剣で受け止め右腕の銃剣で応戦する。
「ッ!!」
しかし悪魔の方が力の押しが強く隆成少しずつ後退していく。
「まだだ!!」
すると隆成は銃を構え力を溜め込んだ。そして引き金を引くと巨大な光の弾が分裂して飛んでいった。それを受けた悪魔は後ろにのけずる。
「・・・くっ、止むを得ん!!」
次の瞬間仮面の男は懐から拳銃を取り出し隆成に向けた。咄嗟に私が叫んで隆成は弾を回避したがそこに畳み掛ける様に悪魔の連撃が直撃した。隆成は地面に叩きつけられ動かなくなった。
「ほーら!!ざまあみろバーカバーカ!!言いザマだ、そのまま殺っちまえ!!」
隆成が悪魔なか一方的に殴られていく。力なくその場から吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、また吹き飛ばされる。
「やめて・・・」
「フハハハハハハ!!」
その時だろうか、体中に力が再び溢れ出てきた。それに頭の中に言葉がいきなり強く浮き出てきた。
「やめろ・・・」
「あー?なんだい悠里ちゃん、ちょっとうるさいから黙ってなさい」
「やめろや・・・」
「ほーら、言葉が汚いぞ、もっと女子らしく・・・」
「やめろっつってんだろクソ野郎がァ!!」
次の瞬間私は体に力を込めた。すると私を繋いでいた鎖を柱ごと吹き飛ばした。
「フギャッ」
その衝撃波に仮面の男は吹き飛ばされ地面を転がっていった。
『求めるは強さ、他者を圧倒し頂きに立つ王者の力。何をも恐れず、ただ純粋にその拳を振るい、悪を挫く。受け継がれし正義、繋がれし勇気、我が魂属は勇。この拳によりて制裁を下す』
「悠・・・里・・・!?」
「オラァ・・・テメェらさっきから調子に乗りやがってよォ・・・骨の1本?いや、100本は折られる覚悟はあるかクソッタレが!!」
「あーあ・・・悠里がキレちまったか」
もう理性が効かない、止まらない。
とりあえずぶっ壊そう、目の前のあいつも、あのクソ犬も。まとめて地獄に返品してやる。
「テメェら・・・鬼神様が通るぜ・・・」
どうやら久しぶりに暴れられそうだ。
「今夜は・・・犬鍋だァ・・・!!」
あーあ、キレちゃったよ・・・