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蒼き閃滅のドラゴンハート  作者: ドラソード
成長と苦悩編
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第16話 鬼神と呼ばれたその少女

悠里過去回です。話の進展はありませんが悠里の過去についての説明で終わります。

第16話

鬼神と呼ばれたその少女



彼女は小さい時から毎日を空手と共に過ごしてきた。同世代の女の子がおしゃべりやおままごとをしている中彼女はひたすら父親と空手の稽古だ。別に彼女曰くそこまで苦な毎日では無かったらしくむしろ他の女子のやってることの方が退屈そうで嫌だったらしい。


そんな環境で育った彼女は男勝りな、でも女子らしい、そんな元気で活発な少女に成長した。別に誰からも嫌われるわけでも無く誰からも好かれ毎日を楽しく過ごしていた。


丁度幼稚園の最終学年で俺、隼人、悠里は知り合った。まあ出会いといっても幼稚園児だとただお互いによくわからずそこにいたから話して遊ぶ位だった。

この頃から彼女は既に空手をしていたらしい。


やがて小学校も一緒でそこから更に仲良くなりよく町中を不思議探しと称して徘徊して迷子と間違われてよく補導された。実際小学1年生からすると目に映るもの全てが不思議で楽しくてたまらなかったのだろうな。


だがそんな彼女にもついに野望が出来た。それは空手での世界一だ。父親はかつて空手で世界一を取った空手家だった。それに憧れを抱いていた彼女は知らず知らずのうちに自らも世界一を目指すようになって行っていた。


やがて小学3年生辺りになると空手以外の事を削ってでも強くなる事に彼女は執着を始めた。この頃から不思議探しには一旦行かなくなった。

俺達とも滅多に遊ぶことは無くなり彼女はごく少しの睡眠時間と食事、学校への通学程度だけを残しそれ以外を全て空手に費やした。


一般人の俺からすると考え方がいまいちわからないがその手に携わってみないとどちらにしろ知ることがない感覚なのだろうな。


たしか彼女が小学6年の時の辺りだろうか、日本中が衝撃に震えたのだ。

普通に男も居るし年上も居る、果ては当時の期待のエースと呼ばれていた日本代表候補の中学生も居る空手の大会の優勝者が小学6年生の少女だったのだ。


その少女こそ彼女、こと鈴原悠里だった。


そのニュースを見た俺はそれはぶったまげた。普段学校で普通に会って話していた幼なじみで同級生が空手の、しかも日本で一、二を争う強さの少女だったのだ。普段はそんな素振りを見せず普通に過ごしていたし本人も周りにそんな事は言っていなかったから更に周囲の人間は混乱していた。


しかも大会の勝ち方も人間離れしていたから驚かされた。対戦相手の日本期待のエースと呼ばれていた中学生をワンパンで、5秒足らずで倒してしまったのだ。その一撃が相手選手に決まった瞬間既に相手は意識を失っていたそうだ。


たちまち日本中で悠里については話題となり多数のメディアに注目された。将来は有望な空手家になり日本代表もすぐそこだろうとまで言われ『鬼神』と呼ばれ毎日テレビや新聞を騒がせた。しかし彼女は全ての取材を断ったらしい。

彼女にとっては既に取材を受ける時間すら無駄になっていたのだ。


彼女はその一撃に全てを込めるべく自らのあらゆる事を犠牲にして、毎日を過ごしていった。やがて肉体はその過酷状態にすら慣れて更に上を目指し更に肉体を追い詰め日々を過ごしていた。もはやこの時点で彼女の肉体は人ならざるものに近づいていたのかもしれない。


その大会からしばらくした辺りから彼女には全日本空手大会での優勝、果てはオリンピックでの優勝、いや、人類最強を目指す夢ができた。彼女はそれを目指しいつも通りまた肉体を、拳を鍛え始めていた。


しかしある時から彼女は変わった。突然理由も解らず空手を全くやめてしまった。丁度俺達が中学一年になってすぐの頃だ。これから更に伸びるだろうと言われていただけに俺も驚いた。

一切の大会への出場をやめ彼女は目的を失ったように毎日を過ごし始めた。理由は聞いても解らず、彼女は二ヶ月程ほとんど喋らなくなり人が変わったようになってしまった。

俺達ですらも空手の話題を少し振っただけでしばらくは口を利いてくれなくなった程だ。


それからしばらくしたある日、ちょっと悠里を元気づける為に久々に昔の例の不思議探しに3人で行こうという話になった。最初は彼女も乗り気にならなかったがやがて中学生になり行ける場所が増えた足で様々な場所へ行くうちに彼女の表情は見る見る変わっていった。


そうして彼女は失っていた小学校の頃のまた無邪気な心を、日常を取り戻しつつあった。


世界も残酷な物で悠里が試合にでなくなった瞬間話題にすら上がらなくなった。やがて彼女の空手は世間でもあっという間に忘れ去られ彼女も空手を闇に封印し俺達も無かった事としてある意味その過去から逃げるように、紛らわすように不思議探しをして毎日を過ごした。


結果的にそれがあの悲劇を招いてしまった様にも思えるが。



だが今、その彼女が苦しんでいる親友の為に自らの意思でその闇の封印を解こうとしている。

恐らく彼女の方が今の俺なんかよりも絶対に強いはずだ。俺も彼女の一撃を見た事は何回かあるが明らかに人間のそれとは違う。彼女の一撃は銃弾、あるいは悪魔の一撃に匹敵するかもしれない。


俺としては今回の彼女の行動は空手を忘れていなかったことが嬉しい様な、男としてのプライドが丸潰れな様な、そして何よりも俺達のせいで無理に彼女に空手をさせてしまっている気がしてしまって複雑な気分だ。

正直悠里に対して兵器とか、そんなみたいな扱い方をしたくない。彼女の力を使わなくても悪魔と戦えるのが理想だ。


俺は拳を握り締める、でもやっぱり震えが止まらない。どうするべきなのかもわからない。


ただ、半壊したリザードマンを眺める事しかできない自分に悔しさを覚えていた。




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