41.一途な想い5(村松恵・中島夏樹)
間違ったことは言っていないはず……でも、言い過ぎ……?
やっぱり、渡辺くんには謝った方が――
「恵ちゃん。こんな時間まで、どうしたの?」
「テルくんと一緒に帰ろうと思って待ってるの。夏樹こそ、こんな時間まで何やってたの?」
「図書室で、勉強してたんだ」
「そんな風には、見えないよ」
恵ちゃんは、いつも鋭いね。
「遠藤くんは何してるの? 陸上部の練習、終わってるじゃない」
「部活はね、今日で辞めるんだって。今は、シュウくんと話してるよ」
辞める? 何かあったのかな。前に恵ちゃんが悩んでいたことと、何か関係があるのかな。
「そうなんだ。走るの速かったのに、もったいない気がするね」
「たぶん、アタシのせい……ううん、アタシの為、かな」
「何があったの?」
「アタシね、悩んでるコには悩みを相談しないって決めてるの」
「……恵ちゃんが誰かに相談したっていうのは、聞いたことが無いよ」
いつも、自分で解決してきたのかな? 全部抱え込むって、きっと、凄く辛いよね。
「アタシの周りは、みんな何かで悩んでるからね」
「たまには話してみた方が、楽になると思うよ」
「だったら、早くシュウくんに告白しないと、ね」
「……そう、だね」
告白、か。
気持ちは伝えたいし、恵ちゃんは応援してくれているけれど、沙耶ちゃんと付き合っているのを知っているのに言うのは、やっぱり簡単に決められることじゃない。それに、きっと由希ちゃんも早瀬くんのことを……。
沙耶ちゃんや由希ちゃんのこと……私が気持ちの整理をつけられるまでは、やっぱり早瀬くんに想いは伝えられないよ。
「夏樹の悩みを無理に聞き出そうとは思わないけどさ、考えてるだけじゃ解決はしないよ」
「うん。わかってる。私って、そんなに悩んでるように見える?」
「ううん、今日は隠すの上手かったと思う。プロの顔だね」
「じゃあ、どうして悩んでると思うの?」
「アタシ、さっきまで図書室にいたからね」
早瀬くんも、恵ちゃんも……相手のことを真剣に考えて、ちゃんと話を聞いているから、色々気付くんだね。
「ねえ、恵ちゃんと遠藤くんって、どっちから告白したの?」
「お、夏樹もそういうことに興味がある年頃になったの?」
「前からあるよ、失礼だなぁ」
「どっちだと思う?」
恵ちゃんは、普段の印象からだと、絶対に自分から告白するようなタイプじゃないけれど……遠藤くんのことを話していた時の感じだと――
「恵ちゃんから、かな」
「よくわかったね。正解したから、アタシ達がどこまで進んでいるのか」
「待って待って! その先は、いいから」
興味はあるけれど、私にはまだ……早いような気がする。
「本当は興味あるんでしょ。大体、付き合ってれば少しくら」
「もう! いいんだってば!」
「何で夏樹が赤くなるの? あ、何かヤらしいことを思い浮か」
「恵ちゃん。怒るよ」
「可愛いね、夏樹は。そんなんじゃ、沙耶みたいになっちゃうよ」
「沙耶ちゃんみたい?」
「あの二人ね、未だに手を繋いだことも無いんだってさ」
もう、付き合って半年以上になるはずだよね……?
「あの、男子って、それでもいいというか……そういうものなのかな?」
「シュウくんは特別でしょ。沙耶のことを考えて、さ。本当は色々したいに決まってるじゃない」
「あの……色々って……?」
「そりゃあ、ねぇ。シュウくんだって男の子なんだよ。何に興味があるかくらい、わかるでしょ」
「……やっぱり、私のじゃ……」
「あのさ、夏樹の何をどうするつもりなの? シュウくんはそんなにエ」
「わ! わ! 違うの、違うんだよ? そんなこと、考えてないの」
「どんなこと考えてたの?」
「……恵ちゃん。もう、許して」
「どう? 悩んでばかりいるより、すっきりしたでしょ」
「あ……私の為に……」
適当な冗談を言っているように見える時でも、ずっと、色々考えてくれているんだね。
……早瀬くんも、きっと、そうなんだね。
「アタシは夏樹の笑顔が見たかっただけ。そろそろテルくん来るだろうし、アタシ、行くね」
「恵ちゃん、いつもありがとう」
「早く、アタシの悩みも聞いてね。じゃあ、バイバイ」




