40.想うほど遠く2(中島夏樹・渡辺祐樹)
誰も来ないようなところへ呼び出されて、来るのは早瀬くんの友達だとしたら……渡辺くん、かな。
……当たり、か。
「あの、中島さん、待たせちゃってごめん!」
「ううん、来たばかりだから気にしないで」
走って来たみたいだけれど、この沈黙は息が切れているせいじゃない……。
渡辺くんから話してくれるのを待とう。
「えっと、今日はちょっと、渡したいものがあって」
「うん」
渡辺くん、少し震えているのかな。私にも、それが伝わるような感覚――
「これ、読んで欲しいんだ」
「……手紙? 今、開けてもいい?」
「うん。ゆっくりでいいよ」
――――!!
「これ、渡辺くんの気持ち?」
「……そうだよ。返事、くれる?」
「書いたのは、渡辺くんじゃない……よね?」
「え!?」
男子っぽいけれど丁寧で読み易い、整った書き方。
この字は、早瀬くん――
「こういう風に本当に思ってくれているなら、ちゃんと言って欲しいな」
「あ、その、僕が思ってることそのままだよ。書いてある通り」
隠そうとしている……のかな。
「……渡辺くんらしくないよ。これじゃ、気持ちは伝わらない」
「……ごめん。中島さんの言う通り、本当は頼んで代わりに書いてもらったんだ。ほら、僕って字が下手だから」
「そんなの、寂しいよ。好きって気持ちを本当に伝えられるのは、自分だけ。他のヒトには、想いの深さはわからないんだよ?」
私、何でこんなに一生懸命――
「こんなの……告白じゃないよ」
「……ごめん」
何で、こんなにイライラするんだろう。
「これ、返すね」
「……中島さん。僕が書いたんじゃないって、どうしてわかったの?」
「好きなヒトの字だから、わかる。それに、そのヒトならきっと、自分で書くように言ったと思う」
「そっか。中島さんは修治くんのことが――」
「渡辺くん。早瀬くんの気持ちを裏切らないで」
「……うん。何がいけなかったのか、わかった気がするよ」
「私は、返事、できない」
「うん。僕が間違ってたよ。ごめん」
「それじゃ、私は行くね」
「あ、待って! あと一つだけ、聞きたいんだ」
「何?」
「修治くんは、中島さんの気持ちを知ってるの?」
曖昧なかたちで、中途半端に知られてしまってはいるけれど――
「伝えてないよ。でも、気付いてると思う」
「そっか。中島さんも、これから……なんだね」
「……うん。いつか勇気を出せる時が来たら、ちゃんと伝えたい」
「恋って、難しいね。辛いことも多いのに、気持ちは止められない」
「だから、大切なんだよ。渡辺くんの気持ちは、渡辺くんにしかわからない」
「……よく、考えてみるよ。わざわざ来てくれて、ありがとう」




