39.親友・前編6(藤井由希・柏木沙耶)
早瀬も言っていたけれど、何でまた手紙に戻っちゃうかな。せっかく会話できたのに。
「ねえ、沙耶。やっぱり、頑張って早瀬と普通に話した方がいいんじゃない?」
「私だって、そうしたいんだよ。でも、言ったでしょ。やっぱり恥ずかしいの」
「じゃあ、何でクリスマスの時は大丈夫だったの?」
「よくわかんないけど、逃げ場が無かった……のかな?」
そんなに難しいことなのかな。沙耶も自分でわからないみたいだし、無理じゃないはずなんだけれど。
「昨日、早瀬とその話をしたんだけど……不安そうだったよ」
「早瀬くんが、不安? どうして?」
『俺の、何が好きなんだろうな』
『自信が、無いんだ。何か、具体的に聞いて安心したいのかも知れない』
『好きって、どういうことなんだろうな』
あんな表情は、見たことが無かった。
「沙耶の気持ちが届いてないのかも知れないね」
「由希は……どうしたらいいと思う?」
「話した方がいいと思うよ。手紙じゃ沙耶の表情も仕草も見えないんだから」
「早瀬くん、ずっと……待ってくれてるんだよね」
「たぶんね。いつも、返事は間を置かないでくれてたでしょ」
「……ダメだね、私。何でこんな風になっちゃうんだろう」
ただ恥ずかしいのとは、どこか違うようにも感じられる。何かに怯えているようにさえ見える。
私から無理に何かさせるのは、やめておこう。
「……早瀬、遅いね。もう、ストレッチ終わっちゃうよ」
「遅れたことなんて無かったのにね。先生も指示だけ出して中に入っちゃったから、もしかしたら二人で何か話してるのかもね」
メニューの相談かな。最近の専門練習は早瀬がメニューを組んでいることが多いし、本気で打ち込んでいるのがよくわかる。
私は私なりに、置いて行かれないように頑張ってみようかな。
「そういえば、一人だと何したらいいのかわかんないや」
「頼り切りなんだ? 早瀬くん、凄いんだね」
言われてみれば、そうかも知れない。どの練習がどこの筋力を使うとか、どのくらいの分量が効果的だとか、何の為にやるのかとか……教えてくれても適当に聞いていたけれど、よく考えたら凄いことなんだよね。
ずっと、そこまで考えて本気で打ち込んで来ていたんだ。凄いよ。
「自慢の彼じゃない。良かったね」
「何か、手の届かないヒトになっちゃいそうだよ。私なんかがそばにいていいのかな」
「そう思うなら、もっとそばにいなよ。早瀬も待ってるでしょ」
「むぅ。由希は痛いところを突くね」
手の届かない……か。




