38.一途な想い4(村松恵・中島夏樹)
冬休みが明けてから、渡辺くんの様子がおかしい気がする。私、何かしたのかな。
「夏樹、テストの結果出た?」
「うん。恵ちゃんのクラスは昨日出たんだっけ?」
「そうだよ。さあ、勝負だ」
恵ちゃんって、普段の様子からは勉強できそうな感じがしないのに、凄いんだよね。
「夏樹。何か失礼なことを考えてたでしょ」
「ううん、全然! 私は三十二位だったよ。恵ちゃんは?」
「勝った! 二十六位! さあ、頑張ろうか」
「え、何を?」
「負けたらシュウくんに告白する約束でしょ」
「してないよ、そんなの! それに、まだクラスのみんながいるんだから、もう少し小さな声で」
「いいじゃん、公認にしちゃえば。何なら今、シュウくん呼んじゃおっか」
「わぁ! ねえ、お願いだからやめて」
「冗談でしょ。顔、真っ赤だよ。可愛いなぁ」
恵ちゃんは、本当にやりそうな気がするから怖い。
「そういえば、ナベちゃんとはどうなのよ」
「ナベちゃん?」
「クリスマスにデートしたんでしょ?」
「……渡辺くんのこと? 恵ちゃん、仲良かったっけ?」
「ううん、話したことも無いけど。渡辺はナベでしょ」
何か失礼な気がする。それより――
「どうって、どういうこと?」
「わかるでしょ。何も無いの?」
「……うん」
「どのヒト? もう帰っちゃった?」
「早瀬くんと話してるヒトだよ。窓のところにいるでしょ」
「何か……普通だね。うーん、可哀相だけど、シュウくんには敵わないな、これは」
もの凄く、返事がし難い。
「大事なのは見た目だけじゃないよ。渡辺くんは――」
「アタシは、見た目が負けてるなんて言ってないけどね」
見ただけで敵わないって言ったのに。でも……失礼なのは私も同じ、か。
「――とにかく、いいヒトなんだよ」
「でも、夏樹はシュウくんが好きなんでしょ?」
「うん」
「だったら、色々気を遣っても彼にとってはみじめなだけかもよ? まぁ、夏樹に言わせたらほとんどの男子がいいヒトなんだろうけどさ」
そうか……好意を持ってくれているのかも知れないって意識すると、どうしても早瀬くんと比べちゃう。
「私も……比べられてたりするのかな」
「……誰に?」
「早瀬くん」
「夏樹を誰と比べるの? 沙耶?」
「うん。もし比べられたら、私なんて、勝ち目が無いよね」
渡辺くんも、沙耶ちゃんが可愛いって言っていた。
「あのさ。何を比べてんの?」
「……色々」
「例えばさ、沙耶と夏樹と由希とアタシを比べるとするじゃない。で、アタシが順番をつけるなら――」
何だか、聞くのが怖い。
「――顔なら沙耶、スタイルなら由希、色香ならアタシだと思うのよ」
「私……全部、負けてるね」
「何で? 性格なら夏樹だと思うんだけど」
「え……?」
「大事なのは見た目だけじゃないって自分で言ってたのに。まぁ、シュウくんが何をどう見てるのかは知らないけどね」
沙耶ちゃんや由希ちゃんと比べても、私が上のものが……あった?
「夏樹。何か失礼なことを考えてたでしょ」
「あ、その、恵ちゃんも可愛いよね」
「何でオマケみたいに言うの。そもそも、比べる対象がダメなの。夏樹やアタシだって、どっちかと言えば可愛い方じゃないかなぁ。まぁ、夏樹の胸はちょっと残念だと思うけど」
「早瀬くんは、胸で選んだりしないもん」
「お、それはアタシに対する挑戦だね? よし、わかった。シュウくんに声を」
「待って待って! お願い、やめて」
「……アタシが男だったら、今の言葉だけでも夏樹にメロメロだけどなぁ」
よくわからないけれど、それはそれでどうかと思う。
「ちょっとだけ、自信ついたよ。ありがとう」
「余計なことを考え過ぎ。アタシだって、もうちょっと身長があったら由希よりスタイル良かっただろうし、もうちょっと目がパッチリしてたら沙耶より可愛かったんだよ」
「ふふ、そうだね。私も、もうちょっと胸が大きかったら恵ちゃんより……」
「……より、何? 胸が大きくて何が変わるのか、続きが気になるんだけど」
もの凄く恥ずかしいことを言ったことに、今更――
「ねえ、夏樹。シュウくんはそんなにエ」
「わかってるってば!」




