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一輪に両手を  作者: リン
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37.想うほど遠く1(中島夏樹・渡辺祐樹)

 どうしよう。突然一人で帰る訳にもいかないし……。

「ああ、楽しかったなぁ! 中島さんはどう? 楽しかった?」

「うん。思い切り遊べたね」

 適当なところで――

「僕、女子と二人で歩くのとか初めてなんだ。緊張するよね」

「そうだね」

 ……言い難いなぁ。

「修治くん、あんなに可愛い彼女がいて羨ましいな。あ、中島さんも可愛いよね」

「ありがとう。ちょっと照れるね」

 沙耶ちゃんが可愛いのはわかるけど、そんなオマケみたいに言わなくてもいいのに。でも、気を遣ってくれているのかな。

「付き合ったら手を繋いだり、キスしたりするんだよね? 中島さんはそういうの、経験ある?」

「え……無い、かな」

 こういう話を男子とするのは、何だか嫌だな。渡辺くんは平気なのかな?

「僕も無いんだ。そういうのって憧れるけど、やっぱり好きな相手としたいよね」

「うん、そう思うよ」

 やっぱり、どこか適当なところで――

「えっと、あ、そうだ。この間の授業の時に――」

 無理やり話題を探している感じがする。渡辺くんも気まずいなら、大丈夫だよね。

「あの、渡辺くん。この辺りまででいいよ。ありがとう」

「あ、ごめんね」

「何で謝るの?」

「あの、ほら、やっぱりつまらなかったのかなって。僕が無理やり誘ったのに来てくれたし、会話も上手く続けられなかったし」

 そう、か。私の為……だったんだね。私が返事しかしないから、何とか話題を作ってくれて。

 自分のことばかり考えちゃったな。渡辺くんは、楽しく遊ぼうと誘ってくれたのに、それを利用したりして――

「私の方こそ……ごめんね」

「え、そんな! 僕は中島さんが来てくれただけでも嬉しいよ。もうちょっと一緒にいたかったけど、学校始まればまた毎日会えるしね」

「やっぱり、家の近くまで送ってもらってもいいかな? もうちょっと話したいな」

「うん! 僕って何やってもダメだから、嫌われたんじゃないかって心配だったんだ。良かった」

「そんなことないよ。渡辺くんがいると楽しいって、クラスのみんなが言ってるよ」

「みんなが笑ってると、僕も楽しいんだよね。そう考えると、色々苦手で良かったのかもって思ったりするんだ」

 裏表が無くて、真っ直ぐな優しさ……早瀬くんは隠そうとするけれど、同じ優しさだね。

「今日もムードメーカーだったよね。早瀬くんも沙耶ちゃんもあまり喋らないから、大変だったんじゃない?」

「僕も修治くんみたいに、普段は大人しいのに喋ると面白いっていうキャラになりたいんだけどね」

「渡辺くんは渡辺くん、だからね。早瀬くんは逆に、大事なことまで黙ってたりするから真似しちゃダメだよ」

「へえ、そうなんだね。僕は隠し事してもすぐバレちゃうし、何か隠されたら全然わからないよ」

 そこが、いいところなんじゃないかな。自分を素直に見せられるって、凄いことだよ。

「でも、勉強は早瀬くんみたいにできたらいいよね」

「あ、ひどいなぁ。僕だって、得意な科目は修治くんの半分くらいの点数は取ってるんだよ」

 え、得意科目で半分って……冗談のつもりだったのに、笑えないよ。

「あの、同じくらい取れたら……いいね」

「順位は十倍くらいあるよ。もう、笑い事だよね」

 楽しそうだけれど、それは笑っていたらダメなんじゃ……でも、卑屈にならないし、だからみんなが集まるのかな。

「渡辺くんと話してると、元気になれる気がするよ」

「うん、そうやって中島さんが笑ってくれると、僕も元気が出るよ」

 早瀬くんみたいな冗談じゃなくて、気持ちをそのまま言われていると思うと……恥ずかしいよ。

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