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一輪に両手を  作者: リン
89/120

33.向こう側の世界4(遠藤輝彦・高山剛)

 ここまで随分、時間がかかったな。今日で全部……終わらせる。

「先輩、フライングとか勘弁して下さいよ」

「何の話だ」

「メグか藤井か、決めたらはっきり言うって約束だったでしょ。河原でのあれは、頂けないっすわ」

「お前がいつまでもはっきりしねえからだろうが。どっちにしろ、あいつらには手を出すなって高山さんが――」

「あんたはそれで手を引いたりはしないっすよ。だから、俺が言いに来たんすわ」

「手を出すなってか? 笑わせんな、雑魚が」

「群れなきゃ何もできねえやつが調子に乗ってるとイタイっすね。今日は誰も来ねえっすよ。邪魔が入らないようにゴウさんに頼んであるんでね」

「てめえとタイマン張って俺が負けるとでも思ってんのか。今なら許してやるから、黙って帰れや」

 あの日、こいつとやり合ったやつのパンチは、そこまで重くなかった。負けはしない。

 どちらにしろ、こいつが強いかどうか、そんなことは関係無く――

「もし、メグや藤井に手を出したらどうなるか……教えてやるって言ってんだ。黙ってタイマン張れよ!」


 踏み出してしまえば、どうってことはなかったんだな。

「もう立てねえっしょ。口の割には大したことなかったね、先輩」

「てめえもフラフラだろうが。調子に乗るなよ」

「俺は、どれだけやられようが絶対に倒れねえよ。あんたとは覚悟が違うんでね」

「糞が! 覚えておけよ、遠藤……」

「わかってねえな、あんたは。俺は、手を出すなって言ったんだよ」

「二人の女を同時に、か。守れるといいなァ!」

「俺はゴウさんと違って、優しくないぜ」

「次はタイマンなんて面倒なことはもう、しねえからよ。精々ビビって過ごすんだな」

 面倒なこと、か。同感だな。もう、こいつとタイマンを張る理由も無くなった。

「……わかってねえな、あんたは。次なんてあってみろ。その時は……殺すぜ」

「そんな脅しに俺が――」

「あんたとは覚悟が違うって言ってんだ」

「――わ、わかった! わかったから待て! 冗談だよ、だから、そんな物騒なモンはしまっとけ、な」

「俺のは、冗談じゃねえぜ。二度と、手を出すなよ」


 色々あって、本当に疲れたな。痣も増えたし、またメグに心配かけるのか。

「よう、遠藤。いい男になったじゃないか」

「いや、顔はそんなにやられてないんすけど」

「見た目の話じゃねえよ」

 認めて……くれたんだな。

「どうっすか。俺と一緒にグループ抜けませんか」

「当たり前だ。あんなところに、もう用は無い」

「長いこと……すみませんでした」

「お前は、俺に頭を下げるようなことは何もしてないよ」

 俺のケジメ、つけられたかな。

「陸上、やるんすか?」

「そうだな。まぁ、まずは周りの目をどうにかするところからだけどな」

「どう見ても、ヤンキーっすからね」

「遠藤もだろ」

 ゴウさんと、シュウと、バカ話で盛り上がっていた頃を思い出すな。

「また、三人で陸上話でもしたいっすね」

「早瀬には随分差をつけられたぞ。秋季大会は優勝したみたいだしな」

「ま、ちょうどいいハンデっすよ」

 これで、シュウの隣に立つ時が来ても、胸を張って陸上ができるんだ。

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