33.向こう側の世界4(遠藤輝彦・高山剛)
ここまで随分、時間がかかったな。今日で全部……終わらせる。
「先輩、フライングとか勘弁して下さいよ」
「何の話だ」
「メグか藤井か、決めたらはっきり言うって約束だったでしょ。河原でのあれは、頂けないっすわ」
「お前がいつまでもはっきりしねえからだろうが。どっちにしろ、あいつらには手を出すなって高山さんが――」
「あんたはそれで手を引いたりはしないっすよ。だから、俺が言いに来たんすわ」
「手を出すなってか? 笑わせんな、雑魚が」
「群れなきゃ何もできねえやつが調子に乗ってるとイタイっすね。今日は誰も来ねえっすよ。邪魔が入らないようにゴウさんに頼んであるんでね」
「てめえとタイマン張って俺が負けるとでも思ってんのか。今なら許してやるから、黙って帰れや」
あの日、こいつとやり合ったやつのパンチは、そこまで重くなかった。負けはしない。
どちらにしろ、こいつが強いかどうか、そんなことは関係無く――
「もし、メグや藤井に手を出したらどうなるか……教えてやるって言ってんだ。黙ってタイマン張れよ!」
踏み出してしまえば、どうってことはなかったんだな。
「もう立てねえっしょ。口の割には大したことなかったね、先輩」
「てめえもフラフラだろうが。調子に乗るなよ」
「俺は、どれだけやられようが絶対に倒れねえよ。あんたとは覚悟が違うんでね」
「糞が! 覚えておけよ、遠藤……」
「わかってねえな、あんたは。俺は、手を出すなって言ったんだよ」
「二人の女を同時に、か。守れるといいなァ!」
「俺はゴウさんと違って、優しくないぜ」
「次はタイマンなんて面倒なことはもう、しねえからよ。精々ビビって過ごすんだな」
面倒なこと、か。同感だな。もう、こいつとタイマンを張る理由も無くなった。
「……わかってねえな、あんたは。次なんてあってみろ。その時は……殺すぜ」
「そんな脅しに俺が――」
「あんたとは覚悟が違うって言ってんだ」
「――わ、わかった! わかったから待て! 冗談だよ、だから、そんな物騒なモンはしまっとけ、な」
「俺のは、冗談じゃねえぜ。二度と、手を出すなよ」
色々あって、本当に疲れたな。痣も増えたし、またメグに心配かけるのか。
「よう、遠藤。いい男になったじゃないか」
「いや、顔はそんなにやられてないんすけど」
「見た目の話じゃねえよ」
認めて……くれたんだな。
「どうっすか。俺と一緒にグループ抜けませんか」
「当たり前だ。あんなところに、もう用は無い」
「長いこと……すみませんでした」
「お前は、俺に頭を下げるようなことは何もしてないよ」
俺のケジメ、つけられたかな。
「陸上、やるんすか?」
「そうだな。まぁ、まずは周りの目をどうにかするところからだけどな」
「どう見ても、ヤンキーっすからね」
「遠藤もだろ」
ゴウさんと、シュウと、バカ話で盛り上がっていた頃を思い出すな。
「また、三人で陸上話でもしたいっすね」
「早瀬には随分差をつけられたぞ。秋季大会は優勝したみたいだしな」
「ま、ちょうどいいハンデっすよ」
これで、シュウの隣に立つ時が来ても、胸を張って陸上ができるんだ。




