32.天秤3(遠藤輝彦・村松恵)
頬の傷……痛そう。昨日より腫れている気がする。
「テルくん、顔、大丈夫?」
「ああ、慣れてるからな。心配すんな」
慣れて……?
「ちょっと! そんなに今まで殴られてたの? 聞いてない!」
「あ、大丈夫だから、落ち着け。その、心配かけたくなかったんだよ」
そう言われると、今後が余計に心配なんだよね。
「ねえ、もう嫌だよ。テルくん、せっかくグループも抜けたんだし、知らないトコで怪我とかしないで」
「いや、俺はまだグループ抜けてねえよ」
「え? だって昨日――」
「まだ大事な用事が二つ、残ってるんだ。抜けるのは、それが済んでからだ」
早速、嫌な予感がする。
「用事って、何?」
「一つは、ゴウさんがグループにいる理由を無くすこと、だな」
「誰かに無理やり入れられたの?」
「ああ、俺が入れたんだ。だから、俺が責任持って追い出すんだよ」
「何それ。だったら、抜けるように言えば済むんじゃないの? 大体、昨日テルくんをそのゴウさんが追い出したんでしょ」
「男には、口だけじゃ伝えられないこともあるんだよ」
もう、喧嘩するつもりにしか聞こえない。
「よくわからないよ」
「男の世界のことだから、わからなくてもいいんじゃねえの」
「アタシがやめてって言ったら?」
「言わねえよ。メグは、俺を信じてるからな。だから、言わずに確認だけしてるんだろ」
「……もう一つは?」
「ケジメをつける。巻き込んだものは、きっちり片付けないとな」
テルくんが巻き込んだって思っているのは、ゴウさん、シュウくん、アタシ、由希……かな。
ゴウさんは一つ目の話の方だし、シュウくんにはもう解決したと思わせたって言っていたから、あとは……。
「どっちも、喧嘩するの?」
「喧嘩するのは一回だけだ。それで片を付ける。そうしたら――」
「……そうしたら?」
「――今まで潰した分、デートしよう」
本当は、部活に戻りたかったんじゃないのかな……。
「陸上……好きなんだよね?」
「俺が好きなのは、お前だよ」
アタシがいると、邪魔しちゃうかも知れない。
でも、離れたくないよ。そばに、いたい。
「テルくん、アタシと陸上を比べてくれたの?」
「……俺はそんなに器用じゃねえよ」
「部活してても、アタシは――」
「メグ。遊園地が嫌いなのか?」
「……大好きだよ、テルくんが」
「そうやって、笑ってればいいんだ。余計なこと考えるのは、俺らには似合わねえよ」
「テルくん……」
本当に好き。信じて待つから――
「負けないでね」
「ああ。もうちょっとだけ、待っててくれ」




