28.親友・前編5(藤井由希・柏木沙耶)
遠藤、か。ちょっと悪ぶっているだけで、本当に悪いヒトだとは思わないんだけれど――
「由希、また聞いてない」
「え、ごめん。何だった?」
「何か、おかしいよ。恵と一緒に何か隠してるでしょ」
鋭いなぁ。でも、一緒には隠していない。
恵も何かを隠しているとは思うけれど。
「そんなことする理由が無いよ。考え過ぎだって」
「じゃあ、別々に何か隠してるね」
やっぱり、鋭いね。
「乙女は隠し事くらいするんじゃないかな」
「ふーん。じゃあ、いい。早瀬くんから聞くから」
「早瀬にも言ってないよ。大体、何でそこで早瀬が」
「うん。それじゃ、私には、言おうね」
時々、沙耶の機知が怖くなる。
「もうちょっと隙がある方が、沙耶は可愛いと思うんだ」
「由希、帰るのが遅くなるでしょ」
どうしようかな。
普通の相談なら、聞いてもらいたいって、いつも思う。でも、今回のは――
「もし、逆の立場で私が悩んでた時、由希が放っておいてくれるなら、話さなくていいよ」
「……その言い方、ずるいよね」
「そんなことないでしょ。話すかどうかは由希が決められるんだから」
「……私、遠藤と付き合うんだ」
「……恵はどうしたの?」
「わかんない」
「それ、おかしいよね。ちゃんと全部話して」
「遠藤がつるんでるグループあるじゃない」
「恵も最近行ってるよね、遠藤くんと一緒に」
「そこのヒトに言われたんだ。遠藤と付き合えって」
「ってことは、由希にその気は無かったんでしょ。それだけなら断れば済んだよね。何か断れない理由があるんじゃない?」
やっぱり、ここまで話すことになっちゃうよね。
「断ったら恵を……って」
「……ひどいね。遠藤くん、そんな風にして付き合って、嬉しいのかな」
「でも、遠藤は私に何も言って来ないんだよ」
「けど、遠藤くんの名前が出て来たってことは、何か関わってるんだよね」
「たぶん、ね」
あのヒト達に初めて絡まれた時、確かに遠藤はいた。ただ、腕を掴まれた時は止めようとしてくれたみたいだった。
「早瀬くん、何か知らないかな。遠藤くんと仲良いから、力になってくれると思うんだ」
早瀬に頼んだのは恵のことだったけれど、遠藤と話してくれても結果的に何も聞けなかったみたいだった。早瀬はもう、力になってくれているから――
「恵にも聞いてみよう。何かわかるかも知れない」
「そうだね。できたら、遠藤くんとも話してみようよ。とりあえず、明日、朝練終わったら恵をつかまえようね」
「沙耶、ありがとね」
「何言ってんの。これくらい当たり前なんだから、隠してちゃダメだよ」
「……そうだね」




