26.天秤2(遠藤輝彦・村松恵)
最近は、デートの約束もほとんどキャンセル……テルくんらしくない。
「ねえ、テルくん」
「デート潰したのは悪かったって」
「そろそろ、話して」
「……何をだ?」
あの高校生と、絶対に何か関係がある。
「テルくんと友達だっていう高校生に話し掛けられたんだ」
「なっ! いつ? 何もされてないだろうな?」
「ねえ、ちゃんと話してよ。アタシに隠したら、誰に弱音吐くの?」
「……正直に話しても、いいか?」
「それを、待ってるんだよ。ずっと」
「あいつらをメグから遠ざけたかったんだ。何をするかわからない連中だからな」
「テルくんの様子がおかしかったのは、随分前からだよね」
「俺は目の敵にされてるからな。周りのやつがどんどん巻き込まれちまう」
だから、アタシに冷たかったのかな。流石に、最近はちょっと不安だったんだよね。
嫌われていたんじゃなくて、良かった。
「もっと早く、言ってくれれば良かったのに」
「言えなかったんだよ。俺は弱いからな」
「テルくんは、強いよ」
「情けねえけど、ビビってんだ。身体が言うこと聞かねえんだよ」
「それでも、アタシに何かあったら守ってくれる」
「もう少しだけでいい。時間をくれないか」
「何の?」
「俺にはまだ、自信が無いんだ。いざって時にメグを守ってやれるかどうか」
「もう、嫌だよ。アタシはテルくんのそばにいる。あのヒト達と会う時だって、一緒に行くからね」
「……どうしても、か?」
「どうしても」
アタシは、守ってもらうだけの女じゃない。テルくんの辛さや痛みも、ちゃんと知りたい。
「わかったよ。連れて来るって話を通すから、次からな」
「絶対だよ。約束破ったら、一人で行くからね」
「絶対守るから、やめてくれ」
「うん。じゃあ、これでデートもできるよね」
「来週末は秋季大会、か」
やっぱり、陸上が好きなんだよね。素直になればいいのに。
「シュウくんの応援に行こっか」
「……いや、まだ、ダメだ」
「何でなのさ。そんなに意地張らないで、好きなことやろうよ」
何をここまで気負っているんだろう。
「何だよ、俺とデートするより、シュウを見てる方がいいのか?」
「アタシは、好きなことやってるテルくんが見たいの!」
「俺が好きなのは、お前だよ」
あまり言ってくれないから、急に言われると困る。
何か、恥ずかしいな。
「ごまかそうったって、そうは」
「メグ。俺が陸上やりたいって言ったら、応援してくれるか?」
「当たり前でしょ」
「それで、メグとの時間を削ることになったとしても、か?」
それが迷っている理由だったなら嬉しいけれど、そうじゃない気がする。
「アタシのことも考えてくれるなら、それでいいよ」




