24.プライド1(藤井由希・佐野恭平)
今年の合宿は、最後まで早瀬とペアでの練習は無かったな。少しだけ、残念な気もする。
「ねえ。ちょっと、いいかな」
「……佐野くん、だっけ」
早瀬とペアだったヒトだ。
「お、俺も有名なんだな。名前でいいよ、恭平。俺も由希ちゃんって呼んでいい?」
「何か、用事?」
「あれ、名前……まぁそんなのはいいか。ちょっと仲良くなりたいと思ってさ」
それはつまり、そういうこと、だよね。
「由希ちゃんって彼氏とかいるの?」
「いないけど」
「けど、好きなヒトはいるんだ?」
いいかげんな感じなのに、よく相手を見ている。
……早瀬と、似ているタイプかも知れない。
「佐野くんじゃないけどね」
「知ってるよ。そこを俺にする為に声掛けてんだから」
「私のこと、知ってるの?」
「これから、知りたいんだよ」
やっぱり、似ている。
「合宿はもう、終わったよ」
「プライベートで会おうよ。どう?」
私がいつまでもフラフラしていたら、また沙耶を不安にさせるようなことになるかも知れない。
でも、私はやっぱり、早瀬が――
「条件付きでなら、いいよ」
「お、いいね、そういうの。燃えるよ」
「早瀬が出てる試合で優勝できたら、ね」
自分で線を引かなければ、いつまでも踏み切れない。
私の気持ちだけは、誰にも相談する訳にいかないから。
「修治か。俺とあいつの対戦成績、知ってる? その条件でいいの?」
「いいよ」
早瀬は約束を守ってくれる……そう期待している自分がいる。
このヒトが優勝した時は……早瀬への気持ちを、諦める。
「よし。次は秋季大会になると思うからさ。その次の週末、空けておいてくれよ」
「ちょっと、聞いてもいいかな」
「もちろん。俺のことも知って欲しいからね」
早瀬よりも、ストレートなんだよね。
「佐野くんは、約束って守る?」
「約束を破ったら男じゃないだろ」
「そっか」
「大丈夫。すぐ優勝するよ。約束するって」
「ううん、その約束は、いい」
「つれないね。まぁ、由希ちゃんもデートの約束は守ってくれよ」
「優勝、できたらね」
早瀬も……男、だよね。
やっぱり、本当は私、諦めたくないってこと、か。
「そうだ、バッグに熊のアクセサリ付けてるじゃん。ああいうの、好きなの?」
「うん。気に入ってるよ」
「よし、んじゃデートの時は小物を見に行こう。いい店を探しておくよ」
「無理だと思うよ」
「笑ってるけどさ、後でやっぱり無しってのはダメだぜ? 嫌だったら今、断ればいいんだから」
「佐野くんは、優勝できないよ。たぶんね」




