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一輪に両手を  作者: リン
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08.いつの間にか

 市大会が終わった。チームは六校中五位。ゴウさんは砲丸投げで優勝、走高跳で六位。テルはコール漏れで記録無し。俺は最初の高さがクリアできず記録無し。

「早瀬、あんま気にすることないよ。私も最下位になっちゃった」

 藤井……。女子に気遣ってもらって、格好悪いな、俺。

「サンキュ。藤井は自己記録更新して、凄かったな。俺も頑張らないとな」

「早瀬も頑張ったでしょ。これからこれから」

 そうか。俺達はこれから先があるが、今日入賞できなかった三年生は実質引退みたいなものか。そんなことも考えてなかったな。

 コール漏れだったテル達が叱られている。俺も、ゴウさんがいなかったらあそこにいたかも知れない。

 泣いている先輩がいる。入賞できなかった三年生、か。ゴウさんは優勝したのに悔しそうだ。

 試合って、甘くないんだな。陸上競技って個人競技だと思っていたが、俺、一人じゃ何もできなかった。結果も、自分の記録だけを気にするんじゃない。もしかしたら、藤井が優勝していたとしても、俺のせいで喜べなかったかも知れない。

 悔しい。もっと、強くなりたい。負けたくない。

「集合! お願いします!」

「まず、入賞した者、おめでとう。ここまでの積み重ねの成果だ。より上を目指して精進してもらいたい。それから――」

 どうすれば強くなれる? 俺はこれから何をすればいい?

「いいな。今日失敗した者も、同じ失敗を繰り返すな。その成長の繰り返しが必ず結果に繋がる」

 そうか。まずは、今日の失敗を思い返そう。俺は失敗だらけだった。まだまだ成長できる。


 いつもの三人で帰り道を歩く。今日はみんな口数が少ない。テルが何かを言いかけてはやめて、そんなことを繰り返している。

「遠藤、どうした。何か言いたいことがあるんじゃないのか?」

「あの、俺」

 続きを待つ、か。ゴウさんも言葉を挟む素振りは無い。

「俺、やめようと思うんすよ」

「……何を」

 ゴウさんはもっと別の反応をするかと思ったが、静かに言ったな。

 答えは予想が付く……。

「部活、を」

 テルのやつ、何でこんなことを言い出したんだ。

「何か、何も知らないまま放り出されて、よくわかんない内に失格になって、んで、俺が怒られるとかないっすよ!」

 それは……わかる、気がする。

 俺も、どうしていいのかわからなかった。俺がテルみたいにならずに済んだのは、ゴウさんがいてくれたからだ。

「遠藤、ごめんな」

「ちょ、ゴウさんが謝ることじゃないっすよ!」

「グラサンはさ。基本的に自主性を重視してるんだよ。俺ら上級生はそれを大体わかってた。だから、グラサンは敢えて黙ってることが多いんだ。それなのにちゃんと一年のケアができてなかったのは、俺らが悪い。すまん」

「いや、その。俺がやめようと思ったのは、それだけじゃないんすよ」

 初耳だ。テルはやめようと思いながら、今まで黙っていたのか?

「何か、先輩が泣いてるの見たりとか、ゴウさんももうすぐいなくなるとか考えると、色々キツイんす」

「遠藤。お前さ、何で陸上やってんだ?」

 そんなのもちろん……何でだろう? 俺もわからない。

「何となく、っすかね。よくわかんないっす」

「俺もそうだったよ。最初の頃な」

「ゴウさんが? 陸上が好きだからじゃないんですか?」

「もちろん、今は好きだよ。でも、最初はな、何となくやってたんだ。遠藤と同じだな」

 そういえば俺も、そんな感じだな。小学校でやってたから、とりあえず選んだんだ。

「初めて出た試合で、何もできなかった。先輩にあれこれ言ってもらって、何とか試技だけこなして、気がついたら試合は終わってた。記録なんて恥ずかしくて言えやしない」

 今日の俺と……同じ。

「悔しかったよ。悔しくて悔しくて自分に腹が立った。俺は一人じゃ何もできないのかって。それで、必死で練習してたら、いつの間にか陸上が好きになってたよ」

 俺も、いつか陸上が好きで続けたいと思うようになるんだろうか。今は、ただ悔しい。

「遠藤。早瀬もだけど、もし、本当に陸上をやめたくなったら俺は止めるつもりはない。けど、嫌いじゃないなら、しばらくやってみるのもいいもんだぞ。よく考えてみろよな」

 俺は、やってやる。テルはどうなんだろう。

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