19.親友・前編3(藤井由希・柏木沙耶)
どうすれば良かったんだろう。わからないよ。
「ねえ、由希……あ、ごめんね」
「ううん、沙耶と話したかったから。ありがと」
「由希は自分のことじゃ泣かないよね。早瀬くんのこと、かな」
沙耶にはお見通し、か。
今、甘えてもいいのかな……。
「早瀬と、話した?」
「ううん。私、ダメだね。こんな日でも声掛けられなくて。由希がいてくれて良かったと思うよ、私。試合の直後と帰りで、早瀬くんの表情が違ったもん」
「私、何もできなかったよ。どうしたらいいのか、わからなかった」
「早瀬くんと、何かあったの?」
「ロッカールームで……何か殴ってた」
「早瀬くんが? 由希、それ見たの?」
見てはいないけれど、拳の傷と血は見た。音も、聞いた。
「由希、まさか、殴られたりしてないよね?」
「早瀬はそんなことしないのは、沙耶がよく知ってるでしょ。私は何もされてないよ。大丈夫」
「そう、だよね。早瀬くん、そんなに悔しかったんだね」
「だから、私、何かできない、かなって」
「由希、落ち着いて。ゆっくり、話そう」
本当は、早瀬を支えたいのは沙耶の方で、私はそれを支えてあげなければいけないのに。
「全部出しちゃえ。思い切り泣いたら、それからゆっくり、話そうね」
「沙耶、ごめ、んね」
「よし、よし」
弱いな、私。他の誰にも見せられないから、いつも沙耶に甘えて。
「そっか。今日、由希が記録無しだったのは、早瀬くんの為だったんだね」
「そんなの、喜ぶ、訳が、って、かって、のに」
「ごめんごめん、無理して話さなくていいの。でも、早瀬くんは、嬉しかったんじゃないかな」
早瀬は――
「私の、せいで、余計」
「由希、今はもう、いいから」
「私、ひどい、ことを」
「もし……もしもだよ。逆だったらどうかな。由希は、早瀬くんを責めるのかな」
そんなこと、絶対にしない。沙耶の言っていることはわかる。
「でも、それでも、私は」
「早瀬くんは、やるよ。由希が何を言ったのかはわからないけど、そんな風になったのは自分のせいだって、早瀬くんは思ってる」
「だから――」
「だから! もう、二度と、由希にそんなことを言わせないって、早瀬くんなら思ってる」
『しつこいなぁ。そこまで責任感じるんだったら、二度と負けないで』
『約束する』
沙耶の、言う通り……。
「沙耶、ごめ、んね。あり、がと」
「いいんだ、私が泣きたい時にちゃんと返してもらうからね。久しぶりだよね。由希がこんなに泣くのは」
「沙耶、ごめ、んね」
「……由希。無理、しないでね」
沙耶……ごめんね。




