14.向こう側の世界1(遠藤輝彦・高山剛)
今日はメグと約束があったのに、何でこういうタイミングで呼び――
「そろそろ遠藤も使おうぜ。あの店はザルだ。初めてでもヘマするようなことはねえだろ」
「もう少し慎重に行った方が良くないか? バレたら俺らもヤバイだろ」
……俺を利用して何かしようっていうのか。
「万引きくらいでビビってんじゃねえよ」
盗みかよ――!!
「おい。てめえ、何を盗み聞きしてやがる」
くそっ、腹を……。後ろにもいたなんて、油断した。
「何だ、誰かいたのか――そいつ遠藤じゃねえか。聞いてたならちょうどいいや。あそこ。ちょっと今から行って来いや」
「流石にそれはマズイっしょ、先パっ!」
こいつ、また腹を……。
「マズイかどうかはどうでもいい。やれって言ってんだよ」
「……悪いっすけど、そこまでできないんで、もう、抜けさせて下さいよ」
「ちょっと頭が悪いらしいな。こいつでもわかるように教えてやろうぜ」
高校生相手で、腹に蹴りを二発もらっている……オマケに三対一、か。これは詰んだかな。
「さて。一応もう一回だけ聞いてやろうか。行くか?」
前の俺だったら、やっていたかも知れないな。でも、今は――
「女にダセェところ見せる訳にいかないんで。盗みとか、ショボいことはやらないっすわ」
「ふーん。お前、女いんの。今度、紹介しろよ……なっ!」
息が……!
調子に乗ったことを言いながら、こいつらも顔に傷が残るのをビビっている。俺がチクるとでも思っているのか。情けないやつらだぜ。
最近はもう、殴られたりするのは慣れていたはずだったのに、結構痛い……が、こいつらが顔以外ばかり狙ってくれるお陰で、余計な心配はさせずに済みそうだな。
「何だ、てめえ!」
祭り好きのバカが増えたか?
「中坊相手に三対一ってのは情けないだろ。ウチの学校の評判を勝手に落とすんじゃねえよ」
聞き覚えのある声だな。まさか――
「よう、遠藤。何とも無さそうだけど、これからやられるのか?」
「ゴウさん! 複数相手に何考えてんすか!」
……こいつら、全然、相手になっていないな。
「お前こそ何考えてんだ。フラフラ遊んでるだけのやつ三人くらい、何が怖いってんだ」
そう思うのはあんただけじゃないですかね。
一人は不意打ちだとしても、残り二人を相手に圧勝……恐ろしいヒトだな。
「とりあえず、助かりましたよ。あざっす」
「気にするなよ。偶然お前を見かけただけだからさ。先輩は、ちゃんと選べよ?」
「いや、まぁ、俺が選んだ訳じゃないっすけどね……」
「おい。お前ら、もう遠藤に手を出すな」
「ぐっ……わかったよ! 約束するから、放せって」
嘘くさいな。まぁ、これでしばらくは静かになるか。
おいおい……昨日の約束はどうなったんだよ。
「もしもし。先輩、昨日ので懲りたんじゃなかったんすか」
「高山がバックにいると思って調子に乗るなよ。ま、ちょっと出て来いや。いつもの場所な」
まだ高校入学して間も無いのに、昨日のことでグループ内の有名人になったか。ゴウさん、すみません。
「せっかくのお誘いっすけど、俺は」
「彼女、待ってるぜ」
何だと……!?
「ちょっと! メグには手ぇ出さんで下さいよ! すぐ行くんで」
何でメグが……くそっ、しつこいやつらだな!
「はい、ストップ。お出かけか?」
「何でアンタがこんなところに……ハメたんすか」
「彼女は後でゆっくり探してやるよ。名前はメグちゃんね」
しまった……! まずい……。
「ま、とりあえず、昨日の続きをしに行こうぜ。今日は高山はいねえけどな」
「よう、遠藤。お出かけか?」
ゴウさん……?
「高山!? 何でてめえがこんなところに――」
「お前の連れが『遠藤を迎えに行った』とか言ってたからな。俺も手伝いに来てやったんだ」
「連れって、おい! あいつらはどうしたんだよ!」
「溜まり場で休んでるよ。お前も少し休んだ方がいいんじゃないか?」
無茶苦茶だな、このヒト。格好良いわ。
「や、ちょっと待て! 高山! 高山さん! 俺らもこいつと仲良くしようと思ってたんですよ」
本当かよ。どう仲良くするんだ。
「それがいいな。下らないことを繰り返さないように、お前ら、これから定期的に俺のところに顔出せ。それから、遠藤につまらんことをさせるな。やりたい連中だけでやれ」
「わかった! わかりました! 連れにも言っておくんで。じゃあ、俺はこれで」
何か、哀れだな……。
「すみません、ゴウさん。色々巻き込んじゃって」
「気にするなって言っただろ。まぁでも、お前ももう少し男になってもいいかもな。体格のハンデはキツイだろうが、男に大事なのはそれだけじゃないしな」
正直、ビビっていないつもりでも、身体は動かないんだよな。このままだと、メグを守りたい瞬間が来た時に俺は……。




