06.親友・前編1(藤井由希・柏木沙耶)
何で私だけ専門種目が決まっちゃったんだろう。沙耶とは練習が別になっちゃうし、男子と二人だから本当にやりにくい。
「何を悩んでるの?」
「沙耶はいいよね。部活、みんなと一緒でさ」
「男子と二人きりなんて、良かったじゃない」
「じゃあ、交代しよっか」
「早瀬くんが嫌いなの?」
「そうじゃないんだけど、ほら、高山先輩とか遠藤とかといつも一緒でしょ。あの三人、揃って熱血って感じでちょっと苦手なんだ」
「由希は冷めてるもんね」
そんなに笑わなくてもいいのに。
「私が頑張るのは苦手なだけで、頑張るヒトは嫌いじゃないよ」
「お。熱愛発覚かなぁ」
沙耶はこういう話、好きだよね。
「はいはい。沙耶だって、本気で陸上に打ち込みたい訳じゃないでしょ」
「まぁね。何となくやってるけど、正直、辛いよね、練習」
やっぱり、沙耶もそう思ってたんだ。ただ、私も手を抜いたことはあるけれど、ペナルティを受けたことは無い。バレていないのかな。
「早瀬や遠藤は特に辛そうだよね」
「あ、愛しの早瀬くんが心配なんだね。うんうん」
「あのさ、この短期間で私が早瀬を好きになる要素がどこにあったの?」
「冗談だってば。でも、デコイのお陰で助かってるよね、実際」
「デコイ? 何、それ」
「あの二人のこと。あ、由希は知らないんだっけ。専門練習で早瀬くんと二人きりだったもんね」
何でこんなに嬉しそうに笑うの。何も無いって言っているのに。
「デコイって何だっけ? 囮?」
「そうみたい。あの二人のお陰で休めたりするから、いつの間にかそう呼ばれてたよ。誰が名付けたんだったかな?」
何だか、頑張っているヒトに失礼な気もするけれど。
……余計なことを言うと、また沙耶が喜んで突っ込んで来そうだからやめておこう。
「そのお陰で、私達もここまで続けていられたのかもね」
「試合も近いし、今日もちょっとピリピリしてて怖かったよ、先生」
「高山先輩、怒鳴られてたね。でも、あれ見てやる気になったヒトもいたみたいだけど」
……しまった。
「よく見てるんだね、由希。誰のことかなぁ」
しょうがないでしょ、二人で練習しているんだから。
「誰だろうね。沙耶、ちょっと引っ張り過ぎ」
「ごめんごめん。でもさ、そういう出会いとか、ちょっと期待しちゃうよね」
「じゃあ、同じ短距離ブロックの遠藤にでもアタックしてみたら?」
「えー、何か適当な感じじゃない? 私はもうちょっと、真っ直ぐって感じのヒトがいい」
小学生の頃から、沙耶の好みって私と似てるんだよね。今はお互いに気になるヒトがいないからいいけれど、同じヒトを好きになったり……しないか。
「ヒトを見かけで判断しちゃいけないよ。もしかしたら超真っ直ぐかも知れないでしょ」
「そう言うってことは、由希だってそう見てるってことでしょ。遠藤くんは無さそうだね」
恋、か。ちょっと憧れるな。




