65.ソフトクリームでいいよ
噴水を中心に芝が広がり、青々と葉が茂った木々に囲まれた空間。
競技場の近くにこんな場所があるとは、驚いたな。日光浴とか、気持ち良さそうだ。
「お待たせ」
シンプルなグレーのカットソーに、黒に近い紺のワイドパンツ。ジャージとは違って、身体のラインがいつもよりわかりやすい。スタイルが良いとは思っていたが、これは――
「ねえ、あまり見られると恥ずかしい」
「ああ、悪い……」
「ねえ、本当に恥ずかしいんだけど」
どうすればいいんだ。藤井から目を離す方法が無い。
「結構、シンプルな服着るんだな」
「観光じゃないし、そんなに荷物増やせないと思って」
「普段はスカートとかワンピースとか、そういうのも着るのか?」
「……ふーん」
「え、何その反応」
「……ムッツリ」
何でそうなるんだよ。
別に、そういう目で見ている訳じゃ……あるかも知れない。
「いいよ、もう。どうせ、男はそんなもんだよ」
「好きなの? スカートとか」
「うーん。特に好きって訳じゃないんだけど、藤井には似合うと思うよ」
「そうかな。あまり自信無いなぁ」
「ソフトクリームやめて、服とか見に行こうか」
「早瀬と? やだ。何か恥ずかしい」
「藤井。これから俺ら、デートするんだよ?」
「ソフトクリームでいいよ。行こ」
まぁ、これはこれで、嬉しいかも知れない。
二人でソフトクリーム持って、遊歩道を歩く。うん、正にデートだよ。
口、小さいんだな。ソフトクリームが大きく見える。
「あれ、食べないの? とけちゃうよ」
「食べて見るか? バニラも」
まだ口をつけていないから、大丈夫だろう。
「うん。じゃあストロベリーも一口あげる」
「ありが……は?」
一口? 俺が食べた後でまた食べるの?
ストロベリー、か。食べていいのかな……?
「苺、嫌いなの?」
「いや、好きだけど」
「じゃあ食べなよ。おいしいよ」
俺だけ、気にしているのか? いや、藤井が良ければ俺は構わないが……。
うん、食べよう。
「ん。旨いな」
「でしょ。バニラもおいしいね」
「明日、また食べようか。俺がおごるよ」
「はーい」
「やけに素直だな」
「男がおごるって言った時はそれでいいって言われたからね。はい、バニラ」
俺をからかっている時の藤井と、違う。
何か……可愛いぞ。
「口元、クリームついてるぞ」
「え? んん」
「嘘だよ。そんな慌てて隠さなくても大丈夫だよ」
「もう! 早瀬もついてるよ」
「そこはもうちょっと捻らないと、引っかからないだろ」
「ほら、ここ」
藤井の指が俺の口元を……何かドキドキするな。
おい、それ……! いいのか? いや、ソフトクリームを交換するくらいだから、それくらいしても不思議じゃ……。
駄目だ。これ以上この時間を過ごしたら、試合どころじゃなくなりそうだ。
「そろそろ、戻るか」
「もういいの?」
「楽しみは取っておくんだ」
「優勝できなかったらそれどころじゃないでしょ」
「するんだよ。で、楽しくデートして帰るんだ」
「今日もちょっと危なかったね」
ゴウさんの声援をもらえなかったら、落としていたかも知れないな。
「明日は秘密兵器があるから、大丈夫だよ」
「何それ」
「お守り」
「いつ渡せばいいの?」
「試合の直前。代わりのはしないで欲しい」
「髪を下ろしたままでいればいいってこと?」
「そう。ちゃんと試合が終わったら返すからさ」
「ふーん。じゃあ、今回は特別に私も秘密兵器を使ってあげよう」
「お、どんな兵器?」
「お祈り」
「は?」
「雨乞いしてあげる」
「雨を祈るのか?」
「得意でしょ、雨の試合」
「そうだな。心強い。期待してるぜ」
その気持ちが、背中を押してくれる。俺、頑張るからな。




