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一輪に両手を  作者: リン
65/120

65.ソフトクリームでいいよ

 噴水を中心に芝が広がり、青々と葉が茂った木々に囲まれた空間。

 競技場の近くにこんな場所があるとは、驚いたな。日光浴とか、気持ち良さそうだ。

「お待たせ」

 シンプルなグレーのカットソーに、黒に近い紺のワイドパンツ。ジャージとは違って、身体のラインがいつもよりわかりやすい。スタイルが良いとは思っていたが、これは――

「ねえ、あまり見られると恥ずかしい」

「ああ、悪い……」

「ねえ、本当に恥ずかしいんだけど」

 どうすればいいんだ。藤井から目を離す方法が無い。

「結構、シンプルな服着るんだな」

「観光じゃないし、そんなに荷物増やせないと思って」

「普段はスカートとかワンピースとか、そういうのも着るのか?」

「……ふーん」

「え、何その反応」

「……ムッツリ」

 何でそうなるんだよ。

 別に、そういう目で見ている訳じゃ……あるかも知れない。

「いいよ、もう。どうせ、男はそんなもんだよ」

「好きなの? スカートとか」

「うーん。特に好きって訳じゃないんだけど、藤井には似合うと思うよ」

「そうかな。あまり自信無いなぁ」

「ソフトクリームやめて、服とか見に行こうか」

「早瀬と? やだ。何か恥ずかしい」

「藤井。これから俺ら、デートするんだよ?」

「ソフトクリームでいいよ。行こ」

 まぁ、これはこれで、嬉しいかも知れない。


 二人でソフトクリーム持って、遊歩道を歩く。うん、正にデートだよ。

 口、小さいんだな。ソフトクリームが大きく見える。

「あれ、食べないの? とけちゃうよ」

「食べて見るか? バニラも」

 まだ口をつけていないから、大丈夫だろう。

「うん。じゃあストロベリーも一口あげる」

「ありが……は?」

 一口? 俺が食べた後でまた食べるの?

 ストロベリー、か。食べていいのかな……?

「苺、嫌いなの?」

「いや、好きだけど」

「じゃあ食べなよ。おいしいよ」

 俺だけ、気にしているのか? いや、藤井が良ければ俺は構わないが……。

 うん、食べよう。

「ん。旨いな」

「でしょ。バニラもおいしいね」

「明日、また食べようか。俺がおごるよ」

「はーい」

「やけに素直だな」

「男がおごるって言った時はそれでいいって言われたからね。はい、バニラ」

 俺をからかっている時の藤井と、違う。

 何か……可愛いぞ。

「口元、クリームついてるぞ」

「え? んん」

「嘘だよ。そんな慌てて隠さなくても大丈夫だよ」

「もう! 早瀬もついてるよ」

「そこはもうちょっと捻らないと、引っかからないだろ」

「ほら、ここ」

 藤井の指が俺の口元を……何かドキドキするな。

 おい、それ……! いいのか? いや、ソフトクリームを交換するくらいだから、それくらいしても不思議じゃ……。

 駄目だ。これ以上この時間を過ごしたら、試合どころじゃなくなりそうだ。

「そろそろ、戻るか」

「もういいの?」

「楽しみは取っておくんだ」

「優勝できなかったらそれどころじゃないでしょ」

「するんだよ。で、楽しくデートして帰るんだ」

「今日もちょっと危なかったね」

 ゴウさんの声援をもらえなかったら、落としていたかも知れないな。

「明日は秘密兵器があるから、大丈夫だよ」

「何それ」

「お守り」

「いつ渡せばいいの?」

「試合の直前。代わりのはしないで欲しい」

「髪を下ろしたままでいればいいってこと?」

「そう。ちゃんと試合が終わったら返すからさ」

「ふーん。じゃあ、今回は特別に私も秘密兵器を使ってあげよう」

「お、どんな兵器?」

「お祈り」

「は?」

「雨乞いしてあげる」

「雨を祈るのか?」

「得意でしょ、雨の試合」

「そうだな。心強い。期待してるぜ」

 その気持ちが、背中を押してくれる。俺、頑張るからな。

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