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一輪に両手を  作者: リン
61/120

61.頑張れ

 全国大会は目前。調子のピークをここに合わせられるように、調整もきっちりやってきた。あとは、試合を待つだけ。

 部活の貴重な時間も、残り僅かだな。

「修治クン。思ったより居辛いんだけど」

「何で?」

「いや、早瀬は練習してるからいいけど、私、見てるだけだから、ね」

「一緒にやればいいだろ」

「そうだけど……邪魔しちゃ悪いし」

「どうやったら邪魔になるんだよ。大体、俺だって、やることなんか動きの確認くらいだぞ」

「何か、本当にトップジャンパーって感じの貫禄があるよね」

「お、そう見える? それは嬉しいな」

「後輩にも大人気だもんね」

「全国出場ってのは、ブランドみたいなもんなのかもなぁ」

「何か色々渡されてたみたいだけど、良かったね、お守りたくさんできて」

「いや、一つも受け取ってないんだけど」

「は? 何で?」

 まぁ、本当に気持ちが込められたものだったら受け取っていたかも知れないが。

「言わせるのか?」

「何を言うのか何となくわかったから、いい」

「由希ちゃんも可愛いところがあるじゃないか」

「調子に乗ってると、怪我するよ」

「藤井」

「いつも思うんだけど、何でそんなに突然真剣モードになれるの?」

「俺はいつも真剣だよ」

「はいはい。何?」

「俺さ、全国大会で優勝する。そうしたら、俺と……」

「……うん」

「キス」

「しません」

「いや、まだ途中なんだけど」

「真剣に何を言うかと思えば、何それ。真剣に聞いちゃったじゃない」

「いや、真剣に聞いてくれればいいだろ。一回くらいしてもバチは当たらんよ、由希ちゃん」

「しなくても当たりません」

「その発想は無かったわ。別の手を考えるか」

「いや、下らないこと考えてないで、集中したら? 沙耶が見てるよ」

「あのな、そんな手に俺が引っかかるとでも」

「ほら、呼んでるよ。行って来たら?」

 本当だ。

 懐かしいな、遠くで小さく手を振っているのは。

「久しぶり、ってほどでもないか。今、帰り?」

「うん。全国大会行っちゃう前に、一言応援しようと思って」

「わざわざ、ありがとう」

「早瀬くん。頑張れ」

「ああ。優勝してみせる」

「ううん。早瀬くん……頑張れ」

「……ありがとう。頑張るよ」

「うん。練習の邪魔しちゃって、ごめんね。それじゃ」

 ずっと、応援してくれているんだ。

 頑張らないと、な。

「もう済んだの?」

「一言もらっただけだからな。あ、妬いてるね、由希ちゃん」

「いえいえ。修治クンのことを信じてますから、全然」

「本当は、少しだけ気になるだろ?」

「沙耶のことは私の方がよく知ってるんだよ? 言いそうなことくらい、わかるよ」

 そう言われれば、そうだな。

 藤井と、柏木と、村松と、中島。みんな、お互いのことをよくわかっているからな。それこそ、俺にはわからないことだって、通じたりするんだろうな。


 最近は一人で帰ることにも慣れたが、ゴウさんやテルと帰っていた頃は楽しかったな。

 何でこんなことを思い出したんだろう。

 テルと村松は一緒に帰るかと何度か誘ってくれていたが、そんな野暮なことを俺が――

「中島……!」

「早瀬くん、お疲れ様」

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