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一輪に両手を  作者: リン
55/120

55.本当のところなんて

 地区大会まで残り二週間。地区大会や県大会で全国標準記録を突破すれば、全国大会出場の権利が手に入る。

 必ずここで、掴み取るんだ。

「本当に優勝したね。流石だよ」

「藤井も優勝したじゃないか。お互い、頑張ったな」

「次が鬼門ですねえ」

「通過点だよ。大体、昨年は俺さえ結果出してれば」

「まだ言ってる。怒るよ」

「ま、いいさ。今年は女子が先かも知れないし、俺は優勝するからな」

「張り切ってますねえ」

「当たり前だろ。デートがかかってるんだから」

「そんな不純な動機で優勝はできないよ」

「知ってるよ。恭平がそうだろ」

「早瀬も同じなんでしょ」

「だとしたら、デートしたいレベルが違うんじゃないのか」

「何、それ」

 冗談を言い合って、普通に笑っている藤井を見たのは、久しぶりな気がする。

 ……やっぱり、安心するよ。

「さて。それでは、不純な動機をまた一つ増やしましょうか」

「は?」

「俺、今度の地区大会で全国標準記録を突破するからさ。そうしたら」

「やだ」

「まだ何も言ってないんだけど」

「じゃあ、私がそれ当てたら、デートの話を無しにしよう」

 いや、それは困る。

「わかるの?」

「キスしてくれとか言うんでしょ」

「そんなこと考えてたのか?」

 本当は、正解だよ。危ない、危ない。俺の冗談はもう、見抜かれているのかな。

「え、違うの?」

「そうかそうか。藤井がそれがいいならそうしよう。突破したらキスな」

「何バカなこと言ってんの」

「由希ちゃん、大胆だねえ」

「怒るよ」

「藤井」

「キスはしません」

「わかってるよ。キスじゃなくて、何かくれ」

 ミサンガやアクセサリは俺が勝手にお守りにしているが、ちゃんと、藤井からお守りとして何かを受け取りたい。

「何かって、何?」

「何でもいいよ。お守りにする」

「何でもいいようなものに、ご利益は無いよ」

「俺が言ったら、それをくれるのか?」

「あげられるものだったらね」

 そうだな……気持ちが欲しい。

「じゃあ、髪を縛ってるゴムがいい」

「そんなのでいいの? 何か、もっと凄いものを言うのかと思った」

「じゃあ商談成立だな。ちなみに、凄いものって何?」

「ん、下着とか?」

「あのさ、俺ってそんな風に思われてんの?」

「いつも見てるんじゃないの?」

 本気なのか冗談なのかわからない言い方だが、本気で言われていたらかなりショックだな。

「そういうこと言ってると、本当に見るぞ」

「そうしたら沙耶に言うからね」

「いや、本当にそんなことしてないからな。誤解で嫌われるとか、勘弁してくれよ」

「冗談でしょ」

「性質の悪い冗談だな」

「前に、恵が『シュウくんはムッツリに違いない』って言ってた」

 村松……何てことを言うんだ。

「開いた襟元を覗いたり、胸を触ったりしたんだって?」

 その通りかも知れないが、言い方が間違っている気がする。

「言い訳の機会を与えよう」

「いや、これ、言い訳なんかするほどややこしい話になるだろ」

「否定しないの? 本当にしたの?」

 あれ? 墓穴を掘ったのか?

「いや、あの、もう許して下さい」

「冗談でしょ」

 藤井が笑っているということは本当に冗談なんだろうが、俺にとっては笑い事じゃない。

「早瀬はわかってないかも知れないけど、本当にそんなことしたなら、恵は本気で怒ってるよ」

 そうなのか? そういうのは平気なコなのかと思っていた。どうも、俺は村松のことを色々誤解しているかも知れないな。最近わかってきた村松は、最初の頃の印象と全然違う。

 変わってきたんじゃなく、俺がわかっていなかっただけ、か。

「わからないもんだな」

「そんなものでしょ、人間関係なんて。ちゃんと付き合ってみなきゃ、本当のところなんて見えて来ないんじゃないかな」

 そうかもな。藤井のことだって、ちゃんとわかっている訳じゃないんだよな。

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