52.友達だからね
市大会当日。セミが全力で鳴く真夏日。じっとしていても汗が流れるくらい、蒸し暑い。
「体調管理をしっかり行うように。水分補給はこまめに、ただし、適量を守れ。飲みたいだけ飲んでいれば、疲労につながるぞ。上に繋がる試合だ。全員が入賞を狙うつもりで行け! いいな!」
グラサンの言葉。最初の頃は、あまりわかっていなかったな。いつも適切な指示を出してくれていたんだよな。
『ただひたすらに言われた練習をできているのはお前だけだ。辛くても恥ずかしくても、信じてついて来い。必ず結果は出る。出してやる』
このヒトについて来て、良かった。
さて、アップしながら、中島を探すか。
「早瀬くん」
柏木? 随分、息が上がっているな。
「そんなに走って大丈夫か? もうすぐ予選のコールだろ?」
「うん。これから行くから、急いで来た」
アップじゃなくて、ここまで走って来たのか?
「俺に、用事?」
「頑張ってね」
「ああ、ありがとう。頑張るよ」
……続きは?
何でここで沈黙なんだ。柏木は何も言わないが、何か待ってるのか?
「早瀬くん。私には?」
「え?」
「私、これから試合なんだよ。ひどいなぁ」
そうか!
「何か、いつも応援してもらってばかりいて、それが当たり前になってたよ。柏木、頑張れ」
「うん、頑張る。ありがと」
「普通に、話せるようになったよな」
「友達だからね。じゃあ、私、行くよ」
友達だから、か。
そうだ。まともに会話ができなかったのは、俺とだけだったんだよな。
『その、理由はないというか、自然に、そうなっちゃうんです』
中島も……そうか。悪いことしたな。
「あの、早瀬くん。こんにちは」
「中島! 何でそんなところに隠れてるんだよ」
「沙耶ちゃんと話してたから、邪魔しちゃいけないと思って……」
気を遣い過ぎじゃないのか。それが良いところでもあるが。
「試合、頑張って。応援して……るよ」
「ありがとう。ちゃんと約束守ってくれたんだな」
「うん」
「よし。頑張る」
「あ、早瀬くん」
「ん?」
「今日、終わったら話がしたい……んだけど、時間、ある?」
中島からこんなことを言うなんて意外だな。大切な話なんだろうな。
「競技が全部終わってからでもいいかな。結構遅くなっちゃうんだけど」
「うん。近くの公園で待って……るから」
「ん。できるだけ急いで行くよ。じゃ、アップ行ってくる」
「うん」
今日も、跳べる。今の俺は、誰にも負けない。
それだけの練習をしてきた。自信を持てるだけの結果も出してきた。
まずは、一つ目を取る。




