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一輪に両手を  作者: リン
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05.上手くいくまでやるんだ

 専門練習が取り入れられて、陸上部の練習は三段階になった。

 まず、全体練習。ジョグから体操、ストレッチ、流し走、短距離ドリルまでが大体セットで、ほぼ毎日これは全員で行う。次がブロック練習。最後は専門練習。ブロック練習はブロック毎、専門練習は種目毎に、それぞれ様々な内容で、時間や試合のスケジュールに合わせてやったりやらなかったりする。

 朝練は全体練習しかない。三十分でできることは少ないんだよな。

 小学生の頃は何も考えたことがなかったし、ウォーミングアップなんてそもそもなかった。ジョグと体操とストレッチだけでも、しっかりやったら十五分はかかるなんて、思いもしなかった。

 放課後はブロック練習からゴウさんと一緒になる。投擲ブロックと跳躍ブロックは人数が少ないから一緒に活動するらしいが、俺としてはありがたい話だ。

 藤井と二人というのはやりにくいし、経験の長いゴウさんが引っ張ってくれるのは心強かった。

「早瀬、もう少ししっかり腕を振れ。藤井はいいな、その調子だ」

 専門練習になると、技術面での練習が増える。

 藤井は器用なんだな。俺には難しいよ。


 いつものようにテルとゴウさんと帰る。

「シュウはいいなぁ。俺もゴウさんと同じブロックが良かったよ」

 テルがふてくされた顔で言った。

 ゴウさんは少し考えていたが、テルに向き直った。

「遠藤。俺さ、グラサンに言ったんだよ。投擲ブロックにも後輩が欲しいって。そうしたらな、『一年には見込みのあるやつが多い。基礎をしっかり積んでじっくり育てる。特に輝彦は磨けば光るぞ』だってさ。お前、期待されてるんだぜ」

「は? マジっすか? 俺、怒られてばっかいるんすけど」

 確かに、テルはいつも怒鳴られてばかりいるが、元々器用なやつだった。生活態度などは何度も注意されてもなかなか直らないのに、ランニングフォームなどは指摘される度に良くなっている気がする。

 少し……妬けるな。

「ま、帰りはいつも一緒なんだ。愚痴くらい聞いてやるから、頑張ってみろよ。俺も期待してるぜ」

「俺、ゴウさんがいてマジ良かったって思うっすよ。うし! やるかぁ!」

 俺にも、見込みはあるのだろうか。

「なぁ、早瀬。上手くいかない時ってどうしたらいいと思う?」

「え? っと、いや、わかりません」

「難しく考え過ぎるなよ。上手くいかない時はな、上手くいくまでやるんだよ」

 ゴウさんが笑いながら言うと、テルも笑った。三人でいると元気が出る。

 俺も、負けていられないな。

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