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一輪に両手を  作者: リン
47/120

47.二位はやるよ

 今年最初の試合。小規模で単発の大会とはいえ、一つ一つを大事にしていきたいな。

「シュウ。これからアップか?」

「テル! 村松も。応援に来てくれたのか」

「そだよー。由希から聞いてるよ。優勝するくらい凄いんだってね」

 藤井から見てもそう思ってもらえているのは、心強いな。

「優勝するさ。俺は誰にも負けないぜ」

「んじゃ、優勝できなかったら、坊主な」

「優勝したらテルが坊主にするなら、乗るぞ」

「バーカ。そんな分の悪い賭けに乗るか。ま、頑張れよ」

「上で見てるからね。シュウくん、ガンバ!」

 応援してもらえるっていうのは、嬉しいものだな。より跳べそうな気がしてくる。


 時間に余裕を持って自由練習を終えたし、不安は何も無い。

 あとは競技開始を待つだけだ。

「修治、調子はどうだ?」

「良くても悪くても、俺が勝つよ」

「良さそうだな。安心したぜ。絶好調の修治に勝たないと意味が無いからな」

「どうせ俺は負けないから、調子の言い訳もいらないんだよ」

 恭平の身体が一回り大きくなった気がする。

 これは、身長が伸びたせいだけじゃないな。筋力もしっかりつけてきたってことか。

 『佐野はセンスの塊だ』

 『全国で闘うには、佐野のレベルでもまだまだだ。だが、これから身体も成長する。そうしたら全国に届く選手になるかも知れないな』

 『佐野はほとんど練習していないそうだ。そんなやつに負ける訳にいかないだろう。』

 今の恭平は、才能に溺れた選手じゃない。才能の上に努力を積んだ、本当の強敵になったんだ。

 それでも……俺は、負けない。


 170cmまではパス。175cmを一回でクリア。練習通りの動きができている。調子も問題無い。

「おいおい。いきなり175cmで、しかも一発クリアかよ」

「それは恭平も同じだろ」

「他は残ってないし、良かったな。二位が決まったぞ」

「良かったな。二位はやるよ」

「高さ180cm、一回目の試技に入ります。975番」

 180cmか。公式記録ではまだ跳んだことが無い高さ。それでも、跳べない気がしない。

 自分に合わせて調整した独特のステップから、マークに合わせて助走を開始。このテンポを保って腰を安定させる。中間マークを確認したら、あとはバーを見据えるだけ。コーナーから踏み切りまでにスピードを限界まで上げて――!!

「よし!」

 この瞬間が、最高なんだ。バーに触れることも無く、広がる青空を映しながら、マットに沈み込む感覚。何度感じても、いいものだ。

「凄いな、修治。よくあんなスピードでコーナー行けるもんだ。しかも踏み切りで潰れてないし」

「バネで圧倒的に恭平に負けてるからな。俺には別の武器が必要だったんだよ」

「ま、俺もすぐクリアするからな。一人で先には行かせないぜ」

 俺とは逆で、一見適当にすら見える助走。バウンディングを思わせる動きから、コーナーで徐々にテンポアップ。最後の踏み切りだけが、一瞬。

 あれほどの踏み切りは、恭平以外に見たことが無い。土のグラウンドにも関わらず、踏み切った音がはっきりと響く。地面から恭平を発射したかのような跳び上がり方だ。

「よし!」

 審判の声と共に白旗……そうだよな。俺達の決着はこんなところじゃない。

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