47.二位はやるよ
今年最初の試合。小規模で単発の大会とはいえ、一つ一つを大事にしていきたいな。
「シュウ。これからアップか?」
「テル! 村松も。応援に来てくれたのか」
「そだよー。由希から聞いてるよ。優勝するくらい凄いんだってね」
藤井から見てもそう思ってもらえているのは、心強いな。
「優勝するさ。俺は誰にも負けないぜ」
「んじゃ、優勝できなかったら、坊主な」
「優勝したらテルが坊主にするなら、乗るぞ」
「バーカ。そんな分の悪い賭けに乗るか。ま、頑張れよ」
「上で見てるからね。シュウくん、ガンバ!」
応援してもらえるっていうのは、嬉しいものだな。より跳べそうな気がしてくる。
時間に余裕を持って自由練習を終えたし、不安は何も無い。
あとは競技開始を待つだけだ。
「修治、調子はどうだ?」
「良くても悪くても、俺が勝つよ」
「良さそうだな。安心したぜ。絶好調の修治に勝たないと意味が無いからな」
「どうせ俺は負けないから、調子の言い訳もいらないんだよ」
恭平の身体が一回り大きくなった気がする。
これは、身長が伸びたせいだけじゃないな。筋力もしっかりつけてきたってことか。
『佐野はセンスの塊だ』
『全国で闘うには、佐野のレベルでもまだまだだ。だが、これから身体も成長する。そうしたら全国に届く選手になるかも知れないな』
『佐野はほとんど練習していないそうだ。そんなやつに負ける訳にいかないだろう。』
今の恭平は、才能に溺れた選手じゃない。才能の上に努力を積んだ、本当の強敵になったんだ。
それでも……俺は、負けない。
170cmまではパス。175cmを一回でクリア。練習通りの動きができている。調子も問題無い。
「おいおい。いきなり175cmで、しかも一発クリアかよ」
「それは恭平も同じだろ」
「他は残ってないし、良かったな。二位が決まったぞ」
「良かったな。二位はやるよ」
「高さ180cm、一回目の試技に入ります。975番」
180cmか。公式記録ではまだ跳んだことが無い高さ。それでも、跳べない気がしない。
自分に合わせて調整した独特のステップから、マークに合わせて助走を開始。このテンポを保って腰を安定させる。中間マークを確認したら、あとはバーを見据えるだけ。コーナーから踏み切りまでにスピードを限界まで上げて――!!
「よし!」
この瞬間が、最高なんだ。バーに触れることも無く、広がる青空を映しながら、マットに沈み込む感覚。何度感じても、いいものだ。
「凄いな、修治。よくあんなスピードでコーナー行けるもんだ。しかも踏み切りで潰れてないし」
「バネで圧倒的に恭平に負けてるからな。俺には別の武器が必要だったんだよ」
「ま、俺もすぐクリアするからな。一人で先には行かせないぜ」
俺とは逆で、一見適当にすら見える助走。バウンディングを思わせる動きから、コーナーで徐々にテンポアップ。最後の踏み切りだけが、一瞬。
あれほどの踏み切りは、恭平以外に見たことが無い。土のグラウンドにも関わらず、踏み切った音がはっきりと響く。地面から恭平を発射したかのような跳び上がり方だ。
「よし!」
審判の声と共に白旗……そうだよな。俺達の決着はこんなところじゃない。




