表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一輪に両手を  作者: リン
46/120

46.ちゃんと見せて

 四月を迎えて学年が一つ上がり、俺も三年生か。早いものだな。

「これより、陸上競技部ミーティングを開始します。部員及び入部希望者は、視聴覚室に集合して下さい。繰り返します」

 この放送を聞くのも三度目になるんだな。懐かしいな。

 思えば、最初の頃はグラウンドすら満足に使えなかったんだよな。陸上競技に思い入れも無かったのに、ワクワクするっていう理由だけで早起きして、陸上部のグラウンドを作ったんだ。

 テルと、ゴウさんと、いつも一緒に下らない話をして、笑って、いつの間にか、俺も陸上が好きになったな。最初は嫌だった走高跳が、今では大好きなんだから……。

 グラサンに。ゴウさんに。みんなに感謝しないといけないな。


 今年の新入生は多くて自己紹介に時間がかかったが、恒例の選手発表も終えて、これで上級生は練習に入ることができる。

「まさか、大会前まで強練じゃないよね?」

「もちろん。ハイジャンパーは休むのも仕事だぜ」

「ねえ、何でそんなに気合入ってるの? いいことなんだけどさ」

「そりゃあもちろん、テッペン取る為に決まってる」

「本気、なんだね。頑張れ」

 藤井に応援してもらうと、頑張れる気がする。

「ねぇ、後輩来ると思う?」

「俺は二人きりがいいよ」

「先に言わないでよ」

 正直なところ、本当に二人のままがいいな。俺にとって、この時間は大切な居場所だ。

「早瀬」

「ん?」

「今日、帰りに時間ある? ちょっと渡したいものがあるんだけど」

「俺への愛に目覚めたの?」

「何バカなこと言ってんの」

「あの場所で期待して待ってるよ」

「期待はしていいけど、変な期待はしないで」

 藤井から渡されるものに心当たりなんて……無いな。何だろう。


 柏木と別れてからは来ていなかった、テニスコート裏。

 随分と懐かしい感じがする。

「お待たせ」

「部活中から期待して待ってたよ」

「はい、これ」

 マフラー、だよな。

「手編み……?」

「沙耶の、ね」

「は? それが何で俺に?」

「早瀬の為に作ったからでしょ」

 俺の為に……?

「それ、おかしくないか?」

「クリスマス前からずっと編んでたんだよ。できたら渡すんだって」

 それじゃあ、別れてからも、ずっと……?

「なかなか上手くいかなくて時間がかかったけど、良かったらもらって欲しいって」

「嬉しいけど……俺がもらっていいのか、本当に」

「沙耶がそう言うんだから、いいんじゃない。受け取らなかったら持って帰るって言ってあるけど、どうするの?」

 別れても編むのをやめなかったってことは……付き合っているからじゃなく、俺の為に……。

「欲しい。柏木には今度ちゃんとお礼言うけど、藤井からも言っておいてもらっていいかな」

「私から言わなくても、沙耶、いるよ。そこに」

「は?」

「ごめんね、早瀬くん。隠れてた」

 柏木! 全部聞いていたのか。

「じゃあ、私は先行ってるね」

「おい、藤井」

「早瀬くん、少しだけ、話、いいかな」

「ああ……」

 あの柏木が、自分から……?

「本当はね、受け取ってもらえなかったら、出て来ないつもりだったんだ」

「何で?」

「……迷惑だと、思ったから」

 迷惑だなんて、思うはずが無い。元々、俺の勝手な都合で柏木と別れたんだ。

「何で、ここまで……」

「私ね。別れたからそこでおしまい、じゃないと思ったんだ」

 俺は、そう思っていた。柏木との関係は終わったんだと。

「早瀬くんの気持ちを応援する友達として、近くにいられたらいいなって」

 俺は本当に……情けないな。

「だから、そのマフラーも彼女として贈るんじゃないよ。友達としての贈り物。ちょっと季節外れになっちゃったけどね」

「そんなこと、ないよ。いい時期に、もらった」

「お、何だ何だ。早瀬くん、そんなに感動したの?」

 あの柏木が、俺に冗談まで……。

「ああ。感動したよ。俺の気持ち、絶対見せてやるから。見てろよ」

「……うん。私より好きなんだって、ちゃんと見せて。応援してるからね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ