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一輪に両手を  作者: リン
40/120

40.本当に思ってくれているなら

 祐樹は、告白が終われば必ず俺に報告に来る。俺にも責任はある以上、ちゃんと話す必要がある。

 あの姿は……結果は聞かなくても、わかる。

「修治くん。駄目だったよ」

「当たり前だ。こんなの、告白じゃねえよ」

「同じことを、中島さんにも言われたよ」

「は?」

 俺があのラブレターを書いたことを、中島は知らない。

 どうして中島が……?

「お前が何か話したのか?」

「僕は手紙を渡しただけだよ。でも、書いたのが僕じゃないっていうのは、読んだだけで中島さんが気付いた」

 中島が……気付いた?

「それで、『こういう風に本当に思ってくれているなら、ちゃんと言って欲しいな』って言われたよ」

 あの優しい笑顔で言う中島が、目に浮かぶ。

「……そこまで言ってもらって、お前は言わなかったのか?」

「言えなかったんだ。修治くんが書いてくれたのを読んだ時は、全部その通りだって思ったんだよ。本当に。でも、言えなかった。中島さんの何が好きなのか、うまく言葉にできなかった」

「だから……書き直せってあれほど言っただろう」

 俺が言う前に、大事なことは中島が言ってくれたな。祐樹にも、俺が言うより伝わっただろう。

「僕が書いた手紙じゃないって何でわかったのか、聞いたんだ」

「……中島は、何だって?」

「『好きなヒトの字だから、わかる』って」

 中島は、そこまで俺のことを……。

 好きって、そういうことなのか? 好きっていう気持ちは、何なんだろう。

「修治くん。僕、中島さんのことをどう思ってるのか、ちゃんと言えるようになったら、もう一回告白するよ。今度は、ちゃんと」

 中島が自分の方を向いていないってわかっていても……か。

「それじゃ。修治くん、今日はありがとう」

 俺が祐樹の立場だったら、それができるのか? 失敗が怖くて逃げる? 傷付きたくない?

 大事なことがわかっていないのは、俺も同じなのか?

 好きっていうのは……俺は、本当に柏木のことが好きなのか……?

 よく、考えるんだ。性格も容姿も、柏木に文句なんて無い。直接話せないのは少し寂しいが、我慢できないことじゃない。やっぱり、好きなんじゃないか。

 いや、待てよ。そう考えると、藤井だって、性格にも容姿にも文句をつけるところなんか無い。中島だってそうだし、村松だって少し軽そうなところに嫉妬はしそうだが、許せなくも無さそうだ。

 つまり、四人とも……好き? いや、確かに好きなのは間違いないだろうが、そういうことじゃない。そのコにしかない、そのコだからこそ好きなところ……?

 柏木は、いつも俺のことを心配してくれていたな。笑顔に元気をもらって、手紙に元気をもらって、思えば、ずっと支えてもらって来たんだな。いつの間にかそれが当たり前になって、ちゃんと感謝もしていなかった。凄く大切なコじゃないか。何でそんなことにもっと早く気付かなかったんだ。

 じゃあ、藤井は? 冗談を言い合えて、厳しいこともちゃんと言い合える。話していると落ち着くし、近くにいると安心する。一緒に喜んだり、苦しんだり、同じ時間を共有してきたからこそ、気持ちもわかり合える。柏木と同じくらい、大切なコなんじゃないのか?

 思えば、中島だってそうだったのかも知れない。近くにいたら、大切なコになっていたんじゃないのか? 柏木と付き合っていたから――

 柏木と付き合っていたから……? じゃあ、付き合っていなかったら……? 俺は中島を選んだのか?

 選ぶ……?

 そうだ。そういうことだったんだよ。俺は柏木を選んだんじゃない。柏木が俺を選んでくれたんだ。俺のことを好きだと言ってくれたから、俺のそばにいてくれたから、だから大切になったんだ。

 俺への気持ちを知ってから大切になった……じゃあ、それが何かのきっかけで別の方向を向いたら、そのコは大切なままなのか? 俺は、好きでいられるのか?

 そうだよ。好きだと言ってくれたから、そばにいてくれるから、だから好きっていうのは本物じゃない。自分の方を向いてくれなくても、それでも一緒にいたい、大切だって、そう思える相手が、本当に好きなんだ。

 中島が、そうだったじゃないか。やっと……俺にもわかったよ。

 今、俺が柏木のことを好きなのは、間違いない。でも、それは柏木の気持ちに甘えていたからできた気持ちで、俺の本当の気持ちじゃない。そんな中途半端な気持ちで、柏木と付き合い続ける訳にはいかない。

 俺が、本当に好きなのは――

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