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一輪に両手を  作者: リン
39/120

39.内容は同じ

 中島へのラブレター、か。祐樹は中島の何が好きなんだろうな。

 やっぱり、一番は優しいところか。大人しそうだが明るいところもあるし、色々なことによく気付く。順番があることは大抵譲るし、意外な行動力もある。

 あれ……凄くいいコだな。いや、いいコだっていうのはわかっていたが、これは、ほぼ完璧なんじゃないのか? 祐樹が好きになるのもわかる。

 祐樹も、俺と同じようなことを思っているだろうし、俺の思ったことを書けばいいのか。

 俺が中島にラブレターを書くとしたら――


 どうして祐樹の告白の為に俺が徹夜したんだろう。

 今度、おごらせてやる。

「修治くん。依頼したものはあるかね」

「おい。随分偉そうだな」

「冗談! 冗談でしょ! できてますか?」

「ほれ」

「ありがとう! ありがとう! あとは、中島さんを呼び出して欲しいんだけど……」

 やっぱり俺が行くのか。中島を呼び出す……何て言えばいいんだ。

「テニスコート裏とかでいいかな?」

「そこは駄目だ」

「そうなの? じゃあ、屋上への非常階段はどう?」

 つい、駄目だと言ってしまった。何となく、あの場所を渡したくない。

「いいんじゃないか」

「じゃあ、放課後に非常階段でお願いします! 先生!」

 俺も勝手だとは思うが、祐樹も自分で決めようって気は無いのか。お前の告白だろう。


 結局、中島を呼び出してしまった。俺もとことん甘いな。

 誰が来るのかすら言っていないのに、中島は笑顔で承諾してくれた。

 本当に祐樹みたいなやつに告白させていいのか……中島が断り切れずに付き合うなんてことになったりしないだろうな?

 まぁ、断ると決まっている訳でもないが――

「先生。男、渡辺。行って参ります」

 何が男だ。自分で呼び出すことも、直接言うこともできないくせに……そうだ。

「おい、祐樹。ラブレターはちゃんとできてんのか?」

「この通り」

「それ、俺が書いた――お前、書き直せってあれほど言っただろ!」

「だって、僕の気持ちと内容は同じだし、ほら、僕は字が下手だから、これを使わせてもらおうって思ったんだ」

「駄目だ! 返せ!」

「これはもう、僕のだよ。じゃあ、行って来るね」

「祐樹、待て!」

 くそっ! 追いかけたら中島と鉢合わせることになる。そこでラブレターを取り上げて俺が逃げれば、祐樹は間違いなく追ってくるし、そうしたら中島が放ったらかしになる。俺が中島に経緯を説明したら、祐樹の気持ちも俺が説明することになる。

 手詰まりだ。あんなもの、渡すんじゃなかった。

 もう、俺は知らないからな。

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