38.そのヒトの為に
冬休みはいつの間にか終わり、実力テストの結果にクラス全体が一喜一憂している。
「修治くん。学年何位だった?」
「十七位。祐樹は?」
「はは。お揃いだね。僕も十七位なんだ、ほら」
嘘を吐くな、嘘を。親指で隠れているところにもう一桁あるだろう。
二百人もいない二年生の中でその順位は、そろそろ危機感を持った方がいいんじゃないのか。
「何か、用事か?」
「流石、鋭いね。実は」
「断る」
「まだ言ってないよ」
どうせ厄介な用事だろう。
「実は、告白しようと思うんだ」
「は? 中島にか?」
「うん。もう、あれから中島さんのことばっか考えちゃって、何も手につかないんだよ」
元々、何かが手についていたとは思わないが。
でも、中島のことばかり考えるっていうのは、わからなくもない。
「そうか。頑張れ」
「だから、手伝って欲しいんだよね」
「断る」
告白を手伝うって、何だ。
「ラブレターを渡そうと思うんだけど、何書いたらいいのかわからないし、教えてよ」
話を聞かないのも相変わらずだな。まぁ俺も、何だかんだで放っておけないのは、あまり良くないのかな。
「で、話しかけるのもドキドキするくらいだから、渡す時に呼び出して欲しいんだ」
この間、突然遊びに誘ったやつが何を……いや、恋っていうのはそんなものかも知れないな。
「そうだ、これに書いておいてよ。明日、持って来てね」
便箋と封筒……やけに準備がいいな。『そうだ』じゃないだろう。
案の定、言いたいことを言ったら話は終わりか。どうしたものかな。
六十分ジョグが楽に感じられる。散々、長距離ブロックと走らされたお陰かも知れないな。
ラブレターのことを考えていたら、いつの間にか終わった。
『Dear早瀬くん 最近、走った後も元気だね。いつも心配だったから、良かった☆ 沙耶』
「藤井、あのさ」
「うん」
「何でまた、手紙なんだろうな」
「やっぱり恥ずかしいんだってさ。クリスマス効果だったんじゃない?」
そんなのありなのか? あれだけ話せたのに、また手紙って……。
仕方ない、か……。少しずつ、少しずつ。
「あのさ、どんな男が好み?」
「は?」
「性格とか、容姿とか、さ」
「何で急にそんなこと」
柏木も、中島も――
「俺の、何が好きなんだろうな」
「そんなこと気にしてるの? 沙耶は今の早瀬が好きなんでしょ。それじゃダメなの?」
それは、わかる。
「自信が、無いんだ。何か、具体的に聞いて安心したいのかも知れない」
「……何かに一生懸命になれるヒト。あと、約束を守るヒト。これでいい?」
「……それだけ?」
「私は、そう。細かいことは色々あるけど、大事なのはそれだけ」
「俺のこと、どう思う?」
「何バカなこと言ってんの。つまらないこと気にしてないで、練習するよ」
一生懸命で約束を守る男なんて、いくらでもいる。でも、それが片っ端から好きって訳でもないよな。
「藤井」
「ずるいなぁ、真剣モードは」
「付き合ってるヒトとかいるの?」
「……いない」
「じゃあ、好きなヒトは?」
「……いるよ」
藤井が好きになる男……誰なんだろう。気になる。
「好きって、どういうことなんだろうな」
「私だってよくわからないよ。ただ、そのヒトの為に――何の話をしてるの? もういいでしょ」




