35.だらしないぞ
体育の授業では、相変わらずサッカー。マラソンではないだけマシだと思うしかない。
どちらにしろ、今は教室から眺めているだけの俺に関係無いが。
「それじゃあ、ここまでのまとめを次回までの宿題とする。今日はここまで」
国語の授業は、相変わらず時間ぴったりに終わり、か。特に良い評判も悪い評判も聞かないが、実は凄い先生なんじゃないのか。
祐樹がこっちに来る。嫌な予感がする。
「修治くん。やったよ!」
祐樹の『やった』は、いつも何かずれているんだよな。
一体何をやらかしたんだ。
「この間の話、決まったんだ」
「は? この間のって、四人で遊びに行くって話のことか?」
「そうそう。楽しみだよね」
「いや、一応彼女に話したけど、こっちはまだ返事をもらってないぞ」
「クリスマスイヴの日なんだよ。ロマンチックでしょ」
話を聞けよ。この様子だと、本当に相手のコが来るのかどうかも怪しいじゃないか。
「当日は待ち合わせ場所まで一緒に行こうよ。寝坊しないようにね」
「いや、だから」
そうだよな。祐樹はそういうやつだ。自分が伝えたいことを言ったら、話は終わりだと思っている。
柏木が嫌だって言ったらどうするんだよ。相手のコが誰なのかくらい言えよ。まったく。
冬なんて、無くなればいい。そうすれば、冬期練習などという厄介なものも一緒に無くなる。
「修治! 遅れているぞ! どうした! だらしないぞ!」
わかってますよ、くそっ!
グラサンが口だけだったなら、文句も言えたのに。もしかして、部のベストメンバーを揃えても、一種目も勝てないんじゃないだろうか。
……自然に言われたからつい流したが、だらしないとは何だ。俺はこれでも一生懸命走ってますよ!
「そうだ、やればできるじゃないか! 最初からついて来い!」
長距離のエースが辛そうなのに、何でグラサンはあれだけ叫びながら走って平気なんだ……。
空が、蒼い。地面に大の字で寝るのがこんなに気持ちいいなんて、やったことの無いやつはきっと知らないだろうな。
「ねえ、蒼いよ」
「そうだな。雲一つなくて綺麗だよな」
「いや、空じゃなくて」
上から覗き込む藤井が、輝いて見え――
「どうしたの? 急に飛び起きて」
疲れなんて吹き飛んだ。いや、何か色々吹き飛んだ気がする。
「あ、いや、シャツはズボンにしまった方がいいんじゃないかな」
しまった。こんなことを急に言ったら勘の鋭い藤井はすぐに――
「……ふーん」
やっぱり、な。
言い訳が無い。どうするんだ。
「ほら、礼儀というか、身だしなみというか、大事だろ、そういうの」
「ふーん」
どうすればいいんだ。ごまかしようが無い。
いや、ごまかす意味も無いな……。
「……ごめんなさい」
「いいよ。わざとじゃないんだし」
なるほど。今度から毎回死にそうな振りをして大の字に――
「ねえ。本当に悪かったって思ってる?」
「え、あ、そりゃもちろん!」
「何色だった?」
「ピン……」
それを答えたら――
「結構しっかり見たんだね」
手遅れだった。
「いや、その、体操着って白いから、結構透けるだろ? だから――」
「いつもそんなところばかり見てるんだ?」
どんどん墓穴が深くなっていく。
俺はさっきから何を言っているんだ。
「それは違……ごめん」
「ま、いいよ。男子ってそんなもんなんでしょ。そんなことより、また女子と遊びに行くんだって?」
最初からあまり怒っていなかったよな。良かった。
……また女子と遊びに?
「ちょっと待ってくれ。何のこと?」
「沙耶と、もう一組で、ダブルデートするんじゃないの?」
柏木が藤井に話したのか。
あれ? ということは――
「それ、柏木が言ったんだよな?」
「うん。良かったね。ついにちゃんと向き合えるじゃない。今日の手紙、そのことじゃないかな」
『Dear早瀬くん ずっと待たせてごめんね。いい機会だから、勇気を出すよ。クリスマス、楽しみにしてるね☆ 沙耶』




