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一輪に両手を  作者: リン
35/120

35.だらしないぞ

 体育の授業では、相変わらずサッカー。マラソンではないだけマシだと思うしかない。

 どちらにしろ、今は教室から眺めているだけの俺に関係無いが。

「それじゃあ、ここまでのまとめを次回までの宿題とする。今日はここまで」

 国語の授業は、相変わらず時間ぴったりに終わり、か。特に良い評判も悪い評判も聞かないが、実は凄い先生なんじゃないのか。

 祐樹がこっちに来る。嫌な予感がする。

「修治くん。やったよ!」

 祐樹の『やった』は、いつも何かずれているんだよな。

 一体何をやらかしたんだ。

「この間の話、決まったんだ」

「は? この間のって、四人で遊びに行くって話のことか?」

「そうそう。楽しみだよね」

「いや、一応彼女に話したけど、こっちはまだ返事をもらってないぞ」

「クリスマスイヴの日なんだよ。ロマンチックでしょ」

 話を聞けよ。この様子だと、本当に相手のコが来るのかどうかも怪しいじゃないか。

「当日は待ち合わせ場所まで一緒に行こうよ。寝坊しないようにね」

「いや、だから」

 そうだよな。祐樹はそういうやつだ。自分が伝えたいことを言ったら、話は終わりだと思っている。

 柏木が嫌だって言ったらどうするんだよ。相手のコが誰なのかくらい言えよ。まったく。


 冬なんて、無くなればいい。そうすれば、冬期練習などという厄介なものも一緒に無くなる。

「修治! 遅れているぞ! どうした! だらしないぞ!」

 わかってますよ、くそっ!

 グラサンが口だけだったなら、文句も言えたのに。もしかして、部のベストメンバーを揃えても、一種目も勝てないんじゃないだろうか。

 ……自然に言われたからつい流したが、だらしないとは何だ。俺はこれでも一生懸命走ってますよ!

「そうだ、やればできるじゃないか! 最初からついて来い!」

 長距離のエースが辛そうなのに、何でグラサンはあれだけ叫びながら走って平気なんだ……。


 空が、蒼い。地面に大の字で寝るのがこんなに気持ちいいなんて、やったことの無いやつはきっと知らないだろうな。

「ねえ、蒼いよ」

「そうだな。雲一つなくて綺麗だよな」

「いや、空じゃなくて」

 上から覗き込む藤井が、輝いて見え――

「どうしたの? 急に飛び起きて」

 疲れなんて吹き飛んだ。いや、何か色々吹き飛んだ気がする。

「あ、いや、シャツはズボンにしまった方がいいんじゃないかな」

 しまった。こんなことを急に言ったら勘の鋭い藤井はすぐに――

「……ふーん」

 やっぱり、な。

 言い訳が無い。どうするんだ。

「ほら、礼儀というか、身だしなみというか、大事だろ、そういうの」

「ふーん」

 どうすればいいんだ。ごまかしようが無い。

 いや、ごまかす意味も無いな……。

「……ごめんなさい」

「いいよ。わざとじゃないんだし」

 なるほど。今度から毎回死にそうな振りをして大の字に――

「ねえ。本当に悪かったって思ってる?」

「え、あ、そりゃもちろん!」

「何色だった?」

「ピン……」

 それを答えたら――

「結構しっかり見たんだね」

 手遅れだった。

「いや、その、体操着って白いから、結構透けるだろ? だから――」

「いつもそんなところばかり見てるんだ?」

 どんどん墓穴が深くなっていく。

 俺はさっきから何を言っているんだ。

「それは違……ごめん」

「ま、いいよ。男子ってそんなもんなんでしょ。そんなことより、また女子と遊びに行くんだって?」

 最初からあまり怒っていなかったよな。良かった。

 ……また女子と遊びに?

「ちょっと待ってくれ。何のこと?」

「沙耶と、もう一組で、ダブルデートするんじゃないの?」

 柏木が藤井に話したのか。

 あれ? ということは――

「それ、柏木が言ったんだよな?」

「うん。良かったね。ついにちゃんと向き合えるじゃない。今日の手紙、そのことじゃないかな」


 『Dear早瀬くん ずっと待たせてごめんね。いい機会だから、勇気を出すよ。クリスマス、楽しみにしてるね☆ 沙耶』

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