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一輪に両手を  作者: リン
29/120

29.覚悟しろよ

 俺やテルを何度も励まし、力をくれたゴウさん。あのゴウさんが、不良グループに関与している?

 嘘、だろ……。

「行くぞ。もう遠藤は放っておけ」

「待って下さい、ゴウさん」

 俺の言葉に反応したのはゴウさんの隣の男だけ……だが、そいつが俺に掴みかかる前に止めてくれたってことは――

「答えて下さい。何を、やってるんですか」

「そんなことを聞いてどうする。どんな答えを期待してるんだ」

 信じられないが、隣の男との関係を考えても、それなりの立場にいることは間違いない。

「……そうですね。ゴウさんが何をしようとそれは自由です」

 ゴウさんの反応を見る限り、ゴウさんは自分の意思でそこにいる。

 テルは――

「質問を変えます。テルと村松、この二人ともう関わらないようにしてもらうには、どうすればいいですか」

「シュウ! 余計なことを言うんじゃねえよ!」

「その二人だけでいいのか?」

 二人だけでいいのか? 他に俺が知っているような誰かが絡んでいるのか?

「……どういう意味ですか」

 ゴウさんが一瞬、テルを見た。

「遠藤は何も話してないのか。わかっていてここにいるのかと思えば、早瀬は何も知らないんだな」

「教えて下さい」

「それは俺から話すことじゃないな。ただ――」

 今度ははっきりとテルを見た。

「遠藤とは元々縁を切るつもりでいた」

「そんな! ゴウさん!」

「遠藤。お前はこっち側には居られんぞ。弱いやつは、善人にも悪人にもなれん。大怪我しない内に火遊びをやめろ」

 ゴウさんの言う通り、テルは流されてしまっているのだろう。

「そっちの女は、こいつと遠藤の約束だから俺が口を出すことじゃない」

「約束ってどういうこと? テルくん! どういうこと?」

 ずっと黙ってしゃがみ込んでいた村松が、テルに詰め寄っている。話してやれよ。

 利用、用済み、隠し事……。どんな想像をしてみても、村松のことが好きだったらできないはずだろう。

 本当にテルは――

「ああ、もう面倒くせぇ! だから俺が話してやるっつうんだよ!」

 そうか、こいつは……! 雑木林でテルと話した時にいた内の一人だ。あの時は聞きそびれたが、今日はゴウさんもここにいる。

 テルは裏で何をやっていたんだ。

「遠藤はな、別で好きな女がいたんだよ。で、俺がそいつをモノにする知恵を貸してやった代わりに、メグちゃんは俺のモノって訳だ。いい話だろ」

「ふざけんな!」

 恭平が高校生を殴り飛ばした。少し、気分が晴れた気がする。

「女は物じゃねえんだよ!」

 テルも殴り飛ばすのかよ。

 恭平って、こんなに怖かったか?

「てめえ、調子に乗ってんじゃ――」

「もう、よせ」

 ゴウさんが止めてくれなかったら、危なかったな。

 恭平は息が上がっている。喧嘩になったら大変だった。助かった。テルは反撃するつもりも無さそうだ。

「おい、早瀬。そいつら全員連れて帰れ。俺達も、もう行くぞ」

「待って下さい、ゴウさん。まだ話は終わってません」

 『その二人だけでいいのか?』

 『好きな女がいたんだよ』

「テルと村松、それから、テルが好きだっていう女子。この三人と、もう関わらないって――もう関わらせないって、約束して下さい」

「早瀬、そんなお願いをこいつが納得すると思うのか?」

「俺と、タイマン張って下さい」

「は? 修治が喧嘩すんなって言ってたくせに。何だよ、やっぱりお前、男じゃん」

 恭平とやり合った方でも、俺が相手になるとは思えない。ゴウさんなら尚更……。

「俺は手を出さないんで。俺が倒れたらゴウさんの勝ち。倒れなかったら俺の勝ち。この勝負に俺が勝ったら約束守って下さい」

「高山さん、こいつ、この世界を舐めてますよ。教えてやったらどうです」

 震えるほど、怖い。それでも、村松に――女子に見られていると思うと、不思議と落ち着いてくる。情けない姿は見せられない。

 ゆっくりと、深く呼吸を……よし。震えは止まったな。

「一発、だ」

 一発?

「それで倒れなければ、お前の勝ちだ」

「……約束、守ってくれますよね?」

「当たり前だ。覚悟しろよ」

 ゴウさんの拳に力が込められるのがわかる。服で見えない腕も、何度も見たから知っている。あの砲丸を軽々と飛ばしていた腕だ。

 身長は俺の方があるのに、目の前に立ったゴウさんに見下ろされているかのような威圧感がある。

 ――――!!

「いっ……てぇ……」

 一瞬だった。まるで、砲丸投げ……動き出したら一瞬で拳が飛んできた。

 景色が眩む。立っているのが辛い。座り込んで休んだらどんなに楽だろう。

 『馬鹿野郎! 皆が整備をやっている時にお前達は何をしているんだ!』

 そうだ。今は休んでいる時じゃない。楽をするのは簡単だ。逃げるのも簡単だ。いつでもできる。そこをぐっと耐えるから、得られるものがあるんだよ!

 テル、俺は今度こそ踏み止まるぞ。

「……約束通り、もうこいつらの周りにちょっかいをかけるな。行くぞ」

 舌打ちをする高校生とゴウさんが去って行く。

 やっぱり、ゴウさんは……。

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