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一輪に両手を  作者: リン
26/120

26.男なんだよ

 秋季大会当日。昨年は出られなかったから、その分も今日跳ぶんだ。

 俺の得意な雨。気合も十分。今日はもう、負ける要素が無い。

「新人戦は新生チームの力試しみたいなものだ。お前達の成果を見せてみろ!」

 俺の成果をグラサンに見せるんだ。目標は優勝のみ。


 競技はあっという間に終わった。

 土のグラウンドで、雨。グラウンドコンディションは最悪で、まともに本来の跳躍ができた選手は、ほとんどいなかったからな。

「相変わらず修治は雨に強いな。この雨男が」

「晴れてても俺が勝ってたよ。恭平じゃ俺にはもう勝てないぜ」

 どうでもいいが、雨男って使い方が違わないか。

 恭平は170cmで二位。俺は175cmで優勝。ついに……恭平に完全に勝った!

「言うじゃん。猛練習して、春にはこの借りを返してやるからな。待ってろ!」

「その頃には俺は更に上だけどな。恭平、お前、喧嘩でもしたの?」

 頬骨の辺りの傷が気になる。近くで見ると、結構目立つな。

「ん、これか。この間、由希ちゃんに絡んでたのがいてさ。ちょっとな」

 何だと。

 こいつ、いつの間に……。

「まさか、本当に藤井と?」

「お、気になるか? なるだろぉ」

 く、この野郎……。

 気になる。

「心配すんな。何もねえって。ただ、ちょっと話したくらいかな。喧嘩の話も、俺が偶然見かけただけで、由希ちゃんと一緒だった訳じゃない。安心したか?」

「何言ってやがる。最初からそんな心配なんかしてねえよ。けど、絡まれてたってのは気になるな」

「俺を殴ったやつの顔は覚えてるからな。あの時は高山とかいうリーダーっぽいのが止めたせいで逃げられたけど、この傷の分はきっちり返してやる」

「やめとけよ。スポーツマンが喧嘩で怪我なんて洒落にならないぞ」

「俺は男なんだよ」

 気になるな。藤井に確認したいが、どうしたものだろう。


 絶好のタイミングで藤井に呼び止められたが――

「お疲れ様。凄いね、優勝なんて。おめでとう」

「ありがとう」

 聞きたいことはあるものの、どう切り出せばいいのかわからない。

「ミサンガ、してたんだね。練習の時はジャージで隠してたからわからなかったよ」

「壮大な願い事を叶えてもらう為に、いつもしておくんだ」

「ふーん。早く切れるといいね」

「まだ願い事が無いけどな」

「何それ」

 いつもの笑顔。やっぱり、どう切り出せばいいのかわからない。

「そういえばさ、何か困ってることとか、無いか?」

「何、急に?」

「いや、夢でお告げがあったんだよ。困ってるヒトを助けなさいって」

「何バカなこと言ってんの」

「悩みとかあるんじゃないのか?」

「そりゃあたくさんありますよ」

 駄目だ。やっぱり無理があった。

「聞いてくれるの?」

 あれ? もしかして、いけるか?

「そりゃあもちろん」

「恵が遠藤と付き合ってるって、知ってた?」

「知ってた」

 藤井は知らなかったのか? 交換日記していたはずだろう。村松が隠していたのか?

「遠藤が性質の悪いのとつるんでるみたいで。恵もよくそのグループに連れて行かれてるんだよね」

 見た目の変化から、何となくそうだろうとは思っていた。

 テルは、何を考えているんだ。

「恵って、根は悪い子じゃないんだ。けど、ほら、ああいう子じゃない。放っておくといつか何かされちゃうんじゃないかって」

 男を挑発しているようなところがあったからな。性質の悪い連中相手にそんなことをしていれば、確かに何かあってもおかしくはないよな。

「俺からテルに話してみるよ。つるんでる連中のことも聞いてみる」

「ありがと。お願いね」

 藤井にお願いなんて、初めてされた気がする。

 いや、駄目だ。これはこれで嬉しい気もするが、問題が増えただけで、肝心なことは何も聞けなかったじゃないか。

 とりあえず、まずはテルと話してみるか。

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