26.男なんだよ
秋季大会当日。昨年は出られなかったから、その分も今日跳ぶんだ。
俺の得意な雨。気合も十分。今日はもう、負ける要素が無い。
「新人戦は新生チームの力試しみたいなものだ。お前達の成果を見せてみろ!」
俺の成果をグラサンに見せるんだ。目標は優勝のみ。
競技はあっという間に終わった。
土のグラウンドで、雨。グラウンドコンディションは最悪で、まともに本来の跳躍ができた選手は、ほとんどいなかったからな。
「相変わらず修治は雨に強いな。この雨男が」
「晴れてても俺が勝ってたよ。恭平じゃ俺にはもう勝てないぜ」
どうでもいいが、雨男って使い方が違わないか。
恭平は170cmで二位。俺は175cmで優勝。ついに……恭平に完全に勝った!
「言うじゃん。猛練習して、春にはこの借りを返してやるからな。待ってろ!」
「その頃には俺は更に上だけどな。恭平、お前、喧嘩でもしたの?」
頬骨の辺りの傷が気になる。近くで見ると、結構目立つな。
「ん、これか。この間、由希ちゃんに絡んでたのがいてさ。ちょっとな」
何だと。
こいつ、いつの間に……。
「まさか、本当に藤井と?」
「お、気になるか? なるだろぉ」
く、この野郎……。
気になる。
「心配すんな。何もねえって。ただ、ちょっと話したくらいかな。喧嘩の話も、俺が偶然見かけただけで、由希ちゃんと一緒だった訳じゃない。安心したか?」
「何言ってやがる。最初からそんな心配なんかしてねえよ。けど、絡まれてたってのは気になるな」
「俺を殴ったやつの顔は覚えてるからな。あの時は高山とかいうリーダーっぽいのが止めたせいで逃げられたけど、この傷の分はきっちり返してやる」
「やめとけよ。スポーツマンが喧嘩で怪我なんて洒落にならないぞ」
「俺は男なんだよ」
気になるな。藤井に確認したいが、どうしたものだろう。
絶好のタイミングで藤井に呼び止められたが――
「お疲れ様。凄いね、優勝なんて。おめでとう」
「ありがとう」
聞きたいことはあるものの、どう切り出せばいいのかわからない。
「ミサンガ、してたんだね。練習の時はジャージで隠してたからわからなかったよ」
「壮大な願い事を叶えてもらう為に、いつもしておくんだ」
「ふーん。早く切れるといいね」
「まだ願い事が無いけどな」
「何それ」
いつもの笑顔。やっぱり、どう切り出せばいいのかわからない。
「そういえばさ、何か困ってることとか、無いか?」
「何、急に?」
「いや、夢でお告げがあったんだよ。困ってるヒトを助けなさいって」
「何バカなこと言ってんの」
「悩みとかあるんじゃないのか?」
「そりゃあたくさんありますよ」
駄目だ。やっぱり無理があった。
「聞いてくれるの?」
あれ? もしかして、いけるか?
「そりゃあもちろん」
「恵が遠藤と付き合ってるって、知ってた?」
「知ってた」
藤井は知らなかったのか? 交換日記していたはずだろう。村松が隠していたのか?
「遠藤が性質の悪いのとつるんでるみたいで。恵もよくそのグループに連れて行かれてるんだよね」
見た目の変化から、何となくそうだろうとは思っていた。
テルは、何を考えているんだ。
「恵って、根は悪い子じゃないんだ。けど、ほら、ああいう子じゃない。放っておくといつか何かされちゃうんじゃないかって」
男を挑発しているようなところがあったからな。性質の悪い連中相手にそんなことをしていれば、確かに何かあってもおかしくはないよな。
「俺からテルに話してみるよ。つるんでる連中のことも聞いてみる」
「ありがと。お願いね」
藤井にお願いなんて、初めてされた気がする。
いや、駄目だ。これはこれで嬉しい気もするが、問題が増えただけで、肝心なことは何も聞けなかったじゃないか。
とりあえず、まずはテルと話してみるか。




