25.もう一つあるけど
『Dear早瀬くん 体育大会の優勝、凄いね! 格好良かったよ! 秋季大会も頑張ってね☆ 沙耶』
学校の体育大会に専門種目で出るのは反則のような気もしたが、出て良かった。間違いない。
「シュ、ウ、ジ、クン」
「あ、もちろん由希ちゃんのことをだね」
「だから、練習中はやめなって言ってるのに」
「じゃあ練習中に渡さないでくれよ」
受け取ったらすぐに見たいじゃないか。
「しょうがないでしょ、他に渡す時が無いんだから」
「いや、普通に教室とか来て呼んでくれれば」
「誤解されたらどうすんの」
「俺は全然構わないけど」
「私は構うの」
何でだろう。冗談のやり取りなのに、寂しい。
「ねえ、早瀬」
この感じは、真剣な話。
「約束、守るよね」
「約束を破ったら男じゃないだろ」
「守るよね」
「……もちろん」
何か、あったのか?
「ブランドのバッグ、まだかなぁ」
「は?」
藤井は本気でこういうことを言ったりはしないし、そもそもブランドのバッグなんて欲しがらない。
「何かあったのか?」
「冗談でしょ」
さっきの感じは真剣な話だと思ったんだが……気のせいなのか?
「渡したいものがあるから、今日の帰り、ちょっと残ってくれる?」
「うん。いつものところでいいよな? 終わったら待ってるよ」
何だろう。柏木の手紙ならここで渡せば済むし。
武道場の脇の隙間を抜けて行けばテニスコート裏、と。ここの景色も見慣れたな。
いつものところ、か。いい響きだ。
「お待たせ」
「俺も来たばかりだから気にしない」
鞄から何か出そうとして……熊のアクセサリが無いな。お気に入りだって言ってたはずなのに、どうしたんだろう。別の場所に付けたのかな。
「はい。誕生日おめでとう」
「は?」
誕生日おめでとう。
……そうか、俺の誕生日だ! 藤井が祝ってくれるなんて思っていなかったから、何を言っているのかと思った。
「……ありがとう! まさ」
「沙耶からだよ」
いや、言われてみればそうに決まっているのに、俺は何度このパターンで勘違いするんだろう。
「もう一つあるけど、いる?」
「柏木、二つも用意してくれたの?」
「もう一つは私から」
何だよ、あるじゃないか。何で、『いる?』とか言うんだよ。
「もらってもいい?」
「何か、そう言われると渡しにくいんだけど」
「開けていい?」
「ダメ。帰ってから。それに、まだあげてないんだけど」
「せっかく用意してくれたんだろ。下さい」
「……はい。じゃあね」
柏木からは手作りの菓子。藤井からは手作りのミサンガ。
手作りのプレゼントなんて初めてもらったよ。




