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一輪に両手を  作者: リン
25/120

25.もう一つあるけど

 『Dear早瀬くん 体育大会の優勝、凄いね! 格好良かったよ! 秋季大会も頑張ってね☆ 沙耶』

 学校の体育大会に専門種目で出るのは反則のような気もしたが、出て良かった。間違いない。

「シュ、ウ、ジ、クン」

「あ、もちろん由希ちゃんのことをだね」

「だから、練習中はやめなって言ってるのに」

「じゃあ練習中に渡さないでくれよ」

 受け取ったらすぐに見たいじゃないか。

「しょうがないでしょ、他に渡す時が無いんだから」

「いや、普通に教室とか来て呼んでくれれば」

「誤解されたらどうすんの」

「俺は全然構わないけど」

「私は構うの」

 何でだろう。冗談のやり取りなのに、寂しい。

「ねえ、早瀬」

 この感じは、真剣な話。

「約束、守るよね」

「約束を破ったら男じゃないだろ」

「守るよね」

「……もちろん」

 何か、あったのか?

「ブランドのバッグ、まだかなぁ」

「は?」

 藤井は本気でこういうことを言ったりはしないし、そもそもブランドのバッグなんて欲しがらない。

「何かあったのか?」

「冗談でしょ」

 さっきの感じは真剣な話だと思ったんだが……気のせいなのか?

「渡したいものがあるから、今日の帰り、ちょっと残ってくれる?」

「うん。いつものところでいいよな? 終わったら待ってるよ」

 何だろう。柏木の手紙ならここで渡せば済むし。


 武道場の脇の隙間を抜けて行けばテニスコート裏、と。ここの景色も見慣れたな。

 いつものところ、か。いい響きだ。

「お待たせ」

「俺も来たばかりだから気にしない」

 鞄から何か出そうとして……熊のアクセサリが無いな。お気に入りだって言ってたはずなのに、どうしたんだろう。別の場所に付けたのかな。

「はい。誕生日おめでとう」

「は?」

 誕生日おめでとう。

 ……そうか、俺の誕生日だ! 藤井が祝ってくれるなんて思っていなかったから、何を言っているのかと思った。

「……ありがとう! まさ」

「沙耶からだよ」

 いや、言われてみればそうに決まっているのに、俺は何度このパターンで勘違いするんだろう。

「もう一つあるけど、いる?」

「柏木、二つも用意してくれたの?」

「もう一つは私から」

 何だよ、あるじゃないか。何で、『いる?』とか言うんだよ。

「もらってもいい?」

「何か、そう言われると渡しにくいんだけど」

「開けていい?」

「ダメ。帰ってから。それに、まだあげてないんだけど」

「せっかく用意してくれたんだろ。下さい」

「……はい。じゃあね」


 柏木からは手作りの菓子。藤井からは手作りのミサンガ。

 手作りのプレゼントなんて初めてもらったよ。

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