24.全国で勝負するなら
夏合宿の季節がやってきた。予想通り、今年もやるらしいな。
今年の会場は、地区大会で使われた競技場。全天候型の競技場で練習できるというのは、贅沢な気もする。
今回の走高跳の専門練習は、男子四人に女子四人で計八人。今年の指導者もグラサン。
今年はペア練習で藤井と組むことはなさそうだな。少し残念……いや、これが普通なんだ。そもそも男女でペアっていうのがおかしかったんだ。
普段から藤井と二人で練習しているから、それが当たり前になっているんだよな。
「よし。修治、ちょっと跳んで見せてやってくれ。全員よく見ておくように」
お、今年の見本は俺なのか。俺も成長したものだ。
跳べるはずが無いと思っていた時期もあった170cm。今は、跳べない気がしない。
完璧なイメージ通りの助走から踏み切り、これは行ったな!
……あれ?
「これが悪い見本だ。次、佐野。良い見本を見せてやってくれ」
おーい。みんな笑ってるよ。俺は噛ませ犬かよ、くそっ。
夜、宿舎でグラサンに呼び出された。
昨年を思い出すな。あの時に、グラサンが俺のことを認めてくれていたことに気付いたんだ。
「修治。佐野の跳躍を見てどう思った」
聞かれているのは――
「勝てると思います」
「そうだ。お前はもう、佐野を超えた。それでも試合で完勝できないのはなぜか、わかるか?」
経験は変わらないはず。練習量は俺が上だろう。やっぱりセンスなのか?
「才能の差、ですか?」
「お前と佐野の才能の間に、努力で埋まらない程の差は無い」
じゃあ何だろう。わからない。
「お前は、タータントラックに慣れていないんだ。土とは反発が全然違う。地区大会の時に、何かおかしいと感じただろう」
確かに、自分でもどうなっているのかわからない落とし方をした。身体も信じられないほど浮いていたようだった。
「今日の跳躍を見ても感じたが、お前は185cmは跳べる」
は? 185cmなんて、バーをかけてみたことすら――
「そんなものは通過点だ。全国で勝負するなら、大台に乗せろ」
「190cmですか」
「何を言っているんだ。200cmだ。二メートルだよ。良い響きだろう」
二メートル! 夢みたいな世界だな。跳んでみたい。
「この合宿を無駄にするなよ。お前の為にこの競技場にしてもらったんだ。しっかりと必要なものを得て帰るぞ。ゆっくり休んでおけよ」
その為に全天候型の競技場を……。
グラサンの期待に応えたい。やるぞ。
合宿最終日。最後の専門練習の時間は、やはり今年もペアでの練習だったか。
昨年は藤井とペアだったが、今年は恭平か。いや、不満は無いだろう。やりやすいのだから。
……いや、どうなんだろう。
「何だよ、修治。俺とペアじゃ不満みたいだな」
「いや、別にそんなことは」
「なぁ、修治。お前の学校の子、可愛いよな。由希ちゃんだっけ」
由希ちゃんとか、馴れ馴れしいな。可愛いというのは同感だが、少しイライラする。
「いいよなぁ、いつも練習一緒なんだろ? そうだ、紹介してくれよ」
恭平と藤井が仲良くしている画が浮かぶ。イライラする。
「何で俺が。自分で声掛ければいいだろ」
「それもそうか。そうするわ」
おいおい。こういうところが本当に凄いと思う。本当に声を掛けるつもりなんだろうな、恭平は。
昨年は長く感じた気がするが、今回はあっという間だったな。
そういえば昨年はテルと一緒に怒られたんだよな。感謝の気持ちがわからない後輩がいたら、俺が教える側にならなきゃな。同じ失敗は繰り返しちゃいけない。
今年の新人戦は、先輩としての姿をしっかりと見せてやる。




