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一輪に両手を  作者: リン
24/120

24.全国で勝負するなら

 夏合宿の季節がやってきた。予想通り、今年もやるらしいな。

 今年の会場は、地区大会で使われた競技場。全天候型の競技場で練習できるというのは、贅沢な気もする。


 今回の走高跳の専門練習は、男子四人に女子四人で計八人。今年の指導者もグラサン。

 今年はペア練習で藤井と組むことはなさそうだな。少し残念……いや、これが普通なんだ。そもそも男女でペアっていうのがおかしかったんだ。

 普段から藤井と二人で練習しているから、それが当たり前になっているんだよな。

「よし。修治、ちょっと跳んで見せてやってくれ。全員よく見ておくように」

 お、今年の見本は俺なのか。俺も成長したものだ。

 跳べるはずが無いと思っていた時期もあった170cm。今は、跳べない気がしない。

 完璧なイメージ通りの助走から踏み切り、これは行ったな!

 ……あれ?

「これが悪い見本だ。次、佐野。良い見本を見せてやってくれ」

 おーい。みんな笑ってるよ。俺は噛ませ犬かよ、くそっ。


 夜、宿舎でグラサンに呼び出された。

 昨年を思い出すな。あの時に、グラサンが俺のことを認めてくれていたことに気付いたんだ。

「修治。佐野の跳躍を見てどう思った」

 聞かれているのは――

「勝てると思います」

「そうだ。お前はもう、佐野を超えた。それでも試合で完勝できないのはなぜか、わかるか?」

 経験は変わらないはず。練習量は俺が上だろう。やっぱりセンスなのか?

「才能の差、ですか?」

「お前と佐野の才能の間に、努力で埋まらない程の差は無い」

 じゃあ何だろう。わからない。

「お前は、タータントラックに慣れていないんだ。土とは反発が全然違う。地区大会の時に、何かおかしいと感じただろう」

 確かに、自分でもどうなっているのかわからない落とし方をした。身体も信じられないほど浮いていたようだった。

「今日の跳躍を見ても感じたが、お前は185cmは跳べる」

 は? 185cmなんて、バーをかけてみたことすら――

「そんなものは通過点だ。全国で勝負するなら、大台に乗せろ」

「190cmですか」

「何を言っているんだ。200cmだ。二メートルだよ。良い響きだろう」

 二メートル! 夢みたいな世界だな。跳んでみたい。

「この合宿を無駄にするなよ。お前の為にこの競技場にしてもらったんだ。しっかりと必要なものを得て帰るぞ。ゆっくり休んでおけよ」

 その為に全天候型の競技場を……。

 グラサンの期待に応えたい。やるぞ。


 合宿最終日。最後の専門練習の時間は、やはり今年もペアでの練習だったか。

 昨年は藤井とペアだったが、今年は恭平か。いや、不満は無いだろう。やりやすいのだから。

 ……いや、どうなんだろう。

「何だよ、修治。俺とペアじゃ不満みたいだな」

「いや、別にそんなことは」

「なぁ、修治。お前の学校の子、可愛いよな。由希ちゃんだっけ」

 由希ちゃんとか、馴れ馴れしいな。可愛いというのは同感だが、少しイライラする。

「いいよなぁ、いつも練習一緒なんだろ? そうだ、紹介してくれよ」

 恭平と藤井が仲良くしている画が浮かぶ。イライラする。

「何で俺が。自分で声掛ければいいだろ」

「それもそうか。そうするわ」

 おいおい。こういうところが本当に凄いと思う。本当に声を掛けるつもりなんだろうな、恭平は。


 昨年は長く感じた気がするが、今回はあっという間だったな。

 そういえば昨年はテルと一緒に怒られたんだよな。感謝の気持ちがわからない後輩がいたら、俺が教える側にならなきゃな。同じ失敗は繰り返しちゃいけない。

 今年の新人戦は、先輩としての姿をしっかりと見せてやる。

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