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一輪に両手を  作者: リン
21/120

21.何かもったいない

 カラオケボックスに女子二人と入る……こんなことは絶対に無いと思っていた。

「ねぇ、何でそんなに離れて座ってるの?」

「いや、俺はここでいいよ」

 柏木とはろくに会話もしていないのに、何でこんなことに――

「おい、ちょっ、放せって」

「照れ屋さんだね、シュウくん」

 照れ屋さんじゃないだろう。何で急に隣に座ってくっついて来るんだ。

 それに今の感触は……忘れるんだ。考えてはいけない。

「なぁ、村松。テルと付き合ってんだろ? 別の男と遊んでていいのかよ」

「シュウくんだって別の女と遊んでるじゃん。沙耶と付き合ってるんでしょ?」

 何で知っているんだ。いや、知っていようがいまいが、駄目なものは駄目だろう。

「俺、やっぱり帰るよ」

「沙耶に言っちゃおうかなー。アタシの胸を触ったって」

 それは村松が勝手に――

「……ごめん」

「素直なんだね。ねぇ、黙っててあげるから今日一日くらい付き合ってよ。いいでしょ」

 ここまで来てしまったんだ。帰るのが早くても遅くても、変わりはしないか……。


 店に入る前は明るかったのに、もう薄暗い。

「悪い悪い、メグ、待たせたな」

「テル! お前、何してんだよ」

「ん? メグを迎えに来たんだよ。シュウはその子を送ってやれよ」

「そういうことじゃなくて、何で女子と遊ぶってのを黙ってたんだよ。おまけに来ないし」

 先に聞いていればこんなことには……。

「俺の優しさだろ。何をそんなに怒ってんだよ。用事ができたのは悪かった、すまん」

 くそっ! 誰かのせいじゃないよな。俺がはっきりすれば良かったんだ。

「じゃあ、お先に。夏樹、シュウくん、バイバイ」

 テルと村松が腕を組んで離れて行く。

 誰にでもあれくらいできるものなのか?

「あの、早瀬くん。私、大丈夫だから。一人で帰れます」

「そういう訳にもいかないって。ちゃんと送るよ」

 気まずいな。何を話したらいいんだろう。

「あの、ごめんなさい。私、知らなかったんです。早瀬くんに彼女がいるって」

「いや、中島が謝ることじゃないだろ」

「私が恵ちゃんに頼んだんです、今日の」

「そんなにカラオケに行きたかったの?」

「違っ、早瀬くんと一緒に、あ!」

 は? 何で顔を逸らすの? そういうことなのか? そういう態度はこっちがドキドキする。

 何か言うべきなのか? でも、何を言えばいいのかわからない。

「その、迷惑をかけるつもりは無かったんです。早瀬くんに彼女がいるって聞いた時に帰れば良かったんですけど、あの、近くにいられる時間が終わっちゃうのが何かもったいないって思っちゃって、ごめんなさい」

 いい子だな。苦しい。傷付けたくない。

「ありがとう。中島が謝ることじゃないよ。俺がはっきりしなかったのがいけないんだ。その、気持ちには応えられないけど、嬉しいよ」

「やっぱり優しいですね……」

 やっぱり? 普段から俺を見て……?

「もう、家は近くだから、ここでいいです。わざわざありがとうございました。楽しかったです!」

 俺も、楽しかったんだよな。楽しんでいいはずが無いのに。

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