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一輪に両手を  作者: リン
19/120

19.二度と負けないで

 グラサンに。柏木に。藤井に。どう顔向けすればいいんだ。

「修治。悪いけど、これは勝負だからな。恨むなよ」

 恭平が失敗すれば……俺が六位。

 俺が県大会へ行く為には、恭平が――

「よし!」

 どんなにバーが揺れても、白旗が上がった以上、俺の……負けだな。

 俺は何を考えているんだ。最低だ。


 競技終了までピットにいる気にはなれなかった。

 ロッカールームには誰もいない。静かで、ありがたい。

「跳んで、勝つんだよ!」

 声に出して、確認する。俺に、聞かせる為に。

「ヒトの失敗を願って、負けから逃げてどうすんだよ!」

 俺は、最低だ。

 痛みが腕を走ったのも一瞬だけ、か。身体中を這い回るようなこの気持ち悪さは、どうすれば消せるんだ。

「終わった、んだよな……」

 応援に行かないとな。今日が大事な試合なのは俺だけじゃない。みんな同じなんだ。

 今、ドアの向こうに――

「藤井? アップはどうしたんだよ? もうすぐコールだろ。こんなところで何やってんの?」

「アップは済んでるよ。偶然通りかかっただけで、これからコール行くところ」

 女子のロッカールームは反対側の通路だし、こっちの奥にはシャワールームしか無い。

「俺に、用事?」

「え? あ、惜しかったよね。ずっと身体は越えてたのに。最後は跳んだと思ったんだけどなぁ」

「藤井は頑張ってくれよ。絶対行けるからな」

「ねぇ。何で右手隠してるの?」

「隠してないよ? そろそろ行かないと遅れるぜ。俺は一旦ベンチ戻ってから見に行くから」


 女子の走高跳がもうすぐ開始。自由練習から見ていたが、跳び抜けた実力のある選手は見当たらない。

 順当な記録なら藤井は上位に入るはず……なのに、ずっと、藤井の跳躍がおかしい。フォームがでたらめだ。どちらかと言えば器用で、あんな跳び方はしないはず。

 あれは、俺の跳躍の違和感とは違う。何をやっているんだ。まさか――


 あっという間に競技終了……。ベンチに戻る前に引き止めて話を聞かなければ。

「あ、早瀬。やっちゃったよ。記録無し。これ、まずいよね」

「おい。あんな跳躍のはずが無いだろ。怪我とかしてんじゃないだろうな?」

「私が怪我するほど練習するはずが無いでしょ。さ、一緒に怒られに行きますか」

「藤井、まさかわざと」

「違う」

 今、一緒にって言われて、一瞬だけ救われた気がした。

 でも、その為に藤井がわざとこうしたのだとしたら――

「何考えてんだよ! 大事な試合をわざと」

「違う!」

 開始の高さは120cm。自己記録が140cmの藤井が跳べないなんてことは、まずあり得ない。

「俺の、せいで」

「いい加減にしてよ! 違うって言ってるでしょ! もし、わざとだったとしても、私がやったことで、早瀬は関係無い」

「関係無くないだろ! 何でそこまで」

「しつこいなぁ。そこまで責任感じるんだったら、二度と負けないで」

「約束する」

 藤井の声が震えているのなんて、初めて聞いた。

「何か、怒鳴ってごめんね。悔しくて当たっちゃったかも。ロッカールーム寄って来るから、それから怒られに行こう。じゃあ、また後でね」


 地区大会は多くの悔いを残して終わった。

 結局、県大会には誰も出場できない。三年生はここで正式に引退となり、キャプテンの引き継ぎも行われた。グラサンは怒ることはなく、目標を示してくれた。

 すべては、来年か――

「よう、シュウ。今帰りだよな?」

「テル? 来てたのか、ってそれ、頭大丈夫なのか?」

 随分明るい色の髪だ。抜いているだけではなく、染めている気がする。

「大丈夫だよ、これくらい。ちょっと話そうぜ」

「ああ……」

「今度の休みに遊びに行くんだけど、シュウも来いよ。陸上ばっかで遊んでねーだろ」

 テルの言う通り、陸上に夢中になって遊びになんて行ってなかったな。たまにはいいか。

「今度の休みだな。いいよ」

「場所と時間はまた連絡するわ。んじゃな。お疲れさん」

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