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一輪に両手を  作者: リン
16/120

16.お邪魔なのかな

 『早瀬くんへ 好きです。早瀬くんは私のことどう思ってますか? お返事待ってます。 柏木沙耶』

 はい。早瀬くんですよ。俺も……柏木?


 恒例の二人きりの専門練習の時間。昨日とは違うが、今日も練習どころではない。

「藤井、あれはどういうこと?」

「手紙、読んだ?」

 藤井は普段通りの表情をしている。とりあえず頷いておこう。

「早瀬が跳んでるの見てて、格好良いと思ったんだって。私にはわからないけど」

 一言多いよ! ちょっと傷付いた。

「いや、そこはわかろうよ。跳んでる時くらいは格好良いでしょ」

「で、どうしても直接話す勇気が出ないから、手紙にしたんだって。返事書いてあげてよ」

 スルーですか。

「由希ちゃん。俺、跳べなくなるよ」

「はいはい。修治クン、カッコイイヨ」

 あれ。名前で呼ばれるの新鮮だな。冗談でも藤井にそう言われると何か嬉しい。

「今日は180cm跳べる気がしてきた」

「それは良かったね。返事、忘れないでね」


 夢じゃないのか? 俺に彼女ができるなんて、考えもしなかった。

 柏木は可愛い。性格はよく知らないが、藤井と仲良くしているくらいだから、俺が嫌うようなことは無いだろう。

 それらしい返事を書いて、藤井に渡した。柏木からはまた手紙が届き、俺達は直接話すことも無く付き合うことになった。

 こんなに簡単でいいのだろうか。


 部活の時間になると、自然と柏木の姿を追ってしまう。俺に気付くと、照れくさそうに小さく手を振る。

 可愛い。可愛過ぎる。

「早瀬センセ。もう私は用済みなの?」

「あ、そんなことはない。きみも大切なんだ」

「幸せそうだね」

 藤井が笑う。こうして冗談を言い合って笑える時間は、本当に大切だ。

「いつも、悪いな。手紙頼んじゃって」

「いいよ、そんなの。沙耶が恥ずかしいって言うんだからしょうがないでしょ」

 結局、柏木と直接話すことはできていない。藤井を挟んで、手紙でやり取りを繰り返している。

「ちゃんと二人で話せるようになれたらいいのにな。そうすれば藤井に頼まなくても済むのに」

「やっぱり私はお邪魔なのかな」

「いや! そういう意味じゃないんだ。ただ、何か悪いっていうか、さ」

 何でそこで黙っちゃうんだよ。何か言ってくれよ。

「藤井。俺はこの時間も」

「試合、頑張ってよ。今年は上を狙えるでしょ。応援してあげる」

 何か上手いこと言えよ。何で俺は大事なところで何も言えないんだよ。

「そうそう。今日もあるよ、手紙。はい」

「ありがとう。本当、ごめんな」

「何で早瀬が謝るの? 大丈夫。私だって嫌だったらやらないよ」

 そうだ、何で謝ったんだ。くそっ、何かモヤモヤするな。

 優しく笑う藤井を見ると、苦しくなる。


 『Dear早瀬くん 試合頑張ってね。応援してるよ! 沙耶』

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