14.二人きりがいい?
長かった冬も終わり、待ちに待った春が来た。もう冬なんて来なければいい。
学年が一つ上がり、俺も先輩になるのか。あまり実感がないな。特に何も変わらない。
「これより、陸上競技部ミーティングを開始します。部員及び入部希望者は、視聴覚室に集合して下さい。繰り返します」
懐かしいな。去年はテルと一緒に、軽い気持ちで行ったんだよな。
今日は今年の初試合の選手発表もある。考えてみれば、昨年は一回しか大会に出ていないんだな。
「お、シュウじゃねーの。久しぶりだな」
「テル……誰、その子」
髪が伸びたテルの隣には、見慣れない女子……おい、まさか。
セットするのに随分時間がかかりそうな髪形が目を引いたが、どうしても着崩した制服の胸元に目が行ってしまう。目を逸らさないとバレる。
「バレンタインくらいから付き合ってんだ。シュウは、まだっぽいな」
陸上のことしか考えていなかったから、彼女なんているはずが無い。
バレンタインからか……。全然知らなかった。
「テルくんの友達?」
「そ。シュウってんだ。スポーツマンだぜ」
「へぇ。アタシ、村松恵。よろしく、シュウくん」
「あ、よろしく」
女子に名前で呼ばれたのは初めてかも知れない。妙にドキドキするな。いや、胸を強調するようにしてウインクなんかされたせいかも知れない。バレていたのかな……。
「シュウはこれからミーティングだろ? んじゃな。行こうぜ、メグ」
やっぱりテルは行かないのか。村松と楽しそうに話しているテルは、何だか羨ましい。
視聴覚室に到着っと。もう、結構集まっているな。
藤井はすぐに俺に気付いたな。軽く手を振ってくれるなんて、俺達の距離も縮まったものだ。一緒にいるのは、短距離の柏木だよな。あの二人、仲良いな。よく話しているし、大抵は一緒に帰っている。俺とテルみたい……いや、最近は違うか。
藤井より身長はかなり低いが、柏木は普通に可愛いし、藤井がモデルなら柏木はアイドル……いや、それは言い過ぎか。でも、二人とも彼氏くらいいても不思議ではないよな。
彼女、か……。俺にもそういうのは縁があるのかな。
選手発表から新入生の自己紹介。去年と同じ流れでミーティングは終わり、上級生は調整練習。試合が近い時は、バネを溜める為にも跳躍練習は控えたい。グラサンが言っていたのだから間違いない。
「どうしようね。早瀬、跳ばないよね?」
「うん。藤井は跳ぶ? やるならマット準備するの手伝うよ?」
「ううん、いい。何しようか」
「そうだなぁ。流し走でフォームの確認して、少しドリルやっておこうか」
「アレやるの? しょうがないなぁ」
基本的にはメニューは決まっているが、自分達で考えたものでも、的外れなことをしていなければ、グラサンは何も言わない。
「ねぇ、後輩来ると思う?」
「十人以上いただろ」
「走高跳に、だよ」
走高跳の後輩か。
「そうしたら二人じゃなくなるな」
二人……きり。そうか。今までは当たり前だったけど、後輩ができたら、今みたいに藤井と話す機会は減るんだろうな。それは寂しい気がする。
「私と二人きりがいい?」
やばい。これは絶対からかわれている。からかわれているんだぞ。何でこんなにドキドキするんだ。何て答えたらいいんだ。いや、だから、からかわれているんだぞ。ここは上手く返し――
「何か言ってくれないとこっちが困るでしょ。さ、そろそろ練習に集中しよっか」
完全にしてやられた。藤井、覚えてろよ。




