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一輪に両手を  作者: リン
14/120

14.二人きりがいい?

 長かった冬も終わり、待ちに待った春が来た。もう冬なんて来なければいい。

 学年が一つ上がり、俺も先輩になるのか。あまり実感がないな。特に何も変わらない。

「これより、陸上競技部ミーティングを開始します。部員及び入部希望者は、視聴覚室に集合して下さい。繰り返します」

 懐かしいな。去年はテルと一緒に、軽い気持ちで行ったんだよな。

 今日は今年の初試合の選手発表もある。考えてみれば、昨年は一回しか大会に出ていないんだな。

「お、シュウじゃねーの。久しぶりだな」

「テル……誰、その子」

 髪が伸びたテルの隣には、見慣れない女子……おい、まさか。

 セットするのに随分時間がかかりそうな髪形が目を引いたが、どうしても着崩した制服の胸元に目が行ってしまう。目を逸らさないとバレる。

「バレンタインくらいから付き合ってんだ。シュウは、まだっぽいな」

 陸上のことしか考えていなかったから、彼女なんているはずが無い。

 バレンタインからか……。全然知らなかった。

「テルくんの友達?」

「そ。シュウってんだ。スポーツマンだぜ」

「へぇ。アタシ、村松恵。よろしく、シュウくん」

「あ、よろしく」

 女子に名前で呼ばれたのは初めてかも知れない。妙にドキドキするな。いや、胸を強調するようにしてウインクなんかされたせいかも知れない。バレていたのかな……。

「シュウはこれからミーティングだろ? んじゃな。行こうぜ、メグ」

 やっぱりテルは行かないのか。村松と楽しそうに話しているテルは、何だか羨ましい。


 視聴覚室に到着っと。もう、結構集まっているな。

 藤井はすぐに俺に気付いたな。軽く手を振ってくれるなんて、俺達の距離も縮まったものだ。一緒にいるのは、短距離の柏木だよな。あの二人、仲良いな。よく話しているし、大抵は一緒に帰っている。俺とテルみたい……いや、最近は違うか。

 藤井より身長はかなり低いが、柏木は普通に可愛いし、藤井がモデルなら柏木はアイドル……いや、それは言い過ぎか。でも、二人とも彼氏くらいいても不思議ではないよな。

 彼女、か……。俺にもそういうのは縁があるのかな。


 選手発表から新入生の自己紹介。去年と同じ流れでミーティングは終わり、上級生は調整練習。試合が近い時は、バネを溜める為にも跳躍練習は控えたい。グラサンが言っていたのだから間違いない。

「どうしようね。早瀬、跳ばないよね?」

「うん。藤井は跳ぶ? やるならマット準備するの手伝うよ?」

「ううん、いい。何しようか」

「そうだなぁ。流し走でフォームの確認して、少しドリルやっておこうか」

「アレやるの? しょうがないなぁ」

 基本的にはメニューは決まっているが、自分達で考えたものでも、的外れなことをしていなければ、グラサンは何も言わない。

「ねぇ、後輩来ると思う?」

「十人以上いただろ」

「走高跳に、だよ」

 走高跳の後輩か。

「そうしたら二人じゃなくなるな」

 二人……きり。そうか。今までは当たり前だったけど、後輩ができたら、今みたいに藤井と話す機会は減るんだろうな。それは寂しい気がする。

「私と二人きりがいい?」

 やばい。これは絶対からかわれている。からかわれているんだぞ。何でこんなにドキドキするんだ。何て答えたらいいんだ。いや、だから、からかわれているんだぞ。ここは上手く返し――

「何か言ってくれないとこっちが困るでしょ。さ、そろそろ練習に集中しよっか」

 完全にしてやられた。藤井、覚えてろよ。

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