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一輪に両手を  作者: リン
13/120

13.修行が足りない

 冬、だよな。授業を受けている教室でさえ寒いのだから、グラウンドが冷えるのは当然だ。寒いのが苦手な俺にとっては、冬なんて無くてもいい季節だった……が。

 これからは、寒いかどうかなんて関係ない。仮に暖かいとしても、俺は毎年、冬なんていらないと思うだろうな。

「修治! 遅れているぞ! 食らいつけ!」

 陸上部のグラウンドでは、全員が元気に走っている。長袖なんて一人もいない。みんな、若いな。

「根性見せろ! 一人遅れたら全員が一周追加だぞ!」

 ――――!!

 もう、何を言っているのか自分でもわからない。必死で追い着くしかない。

 六十分ジョグって、冗談でしょう。人間がそんなに走れる訳が無い。

 大体、千五百メートル走っただけで死にそうだったんだぞ、俺は。これ、何周しているんだよ。

「五十二周目! 七十一秒!」

「ペースが落ちているぞ! 七十秒を越えるな!」

 いやいや、グラサン。五十二周も走ったんだからそれで許して下さい。お願い、もうペース上げないで。もう、走っているというより脚が勝手に動いているだけなんですよ、俺は。

「よし! 次の周ラストだ! 六十秒越えたやつはペナルティだ!」

 いや、無理。何でみんなそんなに元気なんだ。俺以外に人間はいないのか。


 走り込みの後は専門練習。跳躍練習ではなく、ドリルの繰り返し。

「ねぇ、大丈夫?」

「そう聞かれるってことは、大丈夫には見えてないな。俺も修行が足りないわ」

「いや、ふざけてないで、無理なら休んだら?」

「俺が休んだら、藤井一人でやらなきゃなんないだろ」

「それ、関係ないでしょ。ちゃんと休みなよ」

「あるだろ。一人でやるの嫌だって言ってたじゃないか。俺も、このドリル一人でやるのはちょっと恥ずかしいからさ、気持ちわかるよ」

 傍から見たら踊っているみたいだからな。

「は? そんなの覚えてんの? どれだけ前の話だと思ってんの」

「夏合宿の前くらい」

 ゴウさんが抜けて、ブロック練習が俺達だけになった頃だったな。

「……もういい。無理はしないでよ」

 ああ、本当は死にそう。立っているのも辛い。吐きそうになる。でも――

「大丈夫。何か話してたら楽になったよ。サンキュ」


 クリスマスやら正月やら、そういう行事も何となく過ぎ、それでもまだ冬。走り込みの日々は続く。

 冬ってこんなに長かったっけ。いつになったら終わるんだろう。

「修治! 遅れているぞ! 食らいつけ!」

 陸上部のグラウンドでは、今日も全員が元気に走っている。当然のように、長袖なんて一人もいない。若い。みんな、若い。

「名倉先生! お電話です!」

「十分後にかけ直します!」

 十分後って、六十分ジョグ終わってからってことか。

「先生、大丈夫ですよ。僕達、きっちり走れますから」

 ナイスキャプテン! グラサンがいなければ少なくともペナルティは無い。

「そんなことはわかっている。気持ちの問題だ」

 グラサン、いい歳でしょう。何で話しながら平気で走っていられるんだ。ランニングシャツにランニングパンツは伊達じゃないってことか。

「修治! 全員追加にしたいのか! 電話かけ直すのが遅れるだろう! 根性見せろ!」

 ――――!!

 くそっ。口だけじゃなくて本人が走っている以上、何も反論できない。

 俺の冬は、長いな……。

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