58.向こう側の世界6(遠藤輝彦・高山剛)
結構、色々なところで見かける気がする……暇なのか?
「ゴウさん、シュウの応援に来てたんすか?」
「よう、遠藤。グラサンから全国を狙えそうだって聞いてたからな。本当に掴みやがって、凄いよな」
「俺らもヒトの応援してる場合じゃないっすね」
「今日は一人で応援に来たのか?」
「いや、メグも一緒っすよ」
「まさか、また早瀬と二人にしてるのか?」
「当たりっすけど、その辺の問題はもう解決したんすよ。今日は、メグがシュウと大事な話があるらしいんで」
「おいおい、二人きりで大事な話って、今がまさに修羅場なんじゃないのか」
「メグは、俺のこともシュウのことも、どっちも好きなんすよ」
「お前は、彼女が他の男と二人でいて心配じゃないのか?」
多少の嫉妬はある。それでも、メグが自分から言い出したら、止めるつもりは無い。
「あいつが自分で俺の隣に戻って来る限り、俺はあいつを信じるって決めてるんで」
「……何か、俺もそういう気の利いたことを言えば、少しはモテるのかね」
「ゴウさんは、硬派な感じがいいと思うんすけどね」
「お前、この間は垢抜けた感じの方がモテるとか言ってただろ。適当だな」
実際、いいヒトなんだよな。俺には、寧ろ、なぜモテないのかがわからない。
「周りでいいコはいないんすか?」
「どうも、俺は怖いヒトってイメージがついてるみたいでな。妙に距離があるんだよ」
「それにしたって、もう随分経つんすよ? ゴウさんから寄って行くのはダメなんすか?」
「そんなこと、できたらとっくにやってるよ」
「男なら、ビシっと決めるトコは決めて下さいよ」
「遠藤、お前は自分から告白したのか?」
「いや、メグからっすよ」
「じゃあ、ダメだ」
じゃあ、の意味がわからない。面倒臭いヒトだな。
もしかしたら――
「あの、一人、心当たりができたんで、機会があったら紹介しますよ」
「また適当なこと言ってるな。本気で期待してる訳じゃないんだから、そんなに気を遣うな」
「いや、上手くいくのかは責任持てないんすけど、何となく合いそうなんすわ」
シュウのことを忘れるのは、無理だろうな。それでも、ゴウさんなら時間をかけて……いや、難しいか?
包容力やら優しさやら、シュウと似たような性格で真っ直ぐなゴウさんなら、好みのタイプには合いそうだよな。
今度、メグが恥ずかしいことを言い出したら、この話題で逸らしてやろう。
「遠藤の心当たりって言うと、まさか、藤井か?」
「いや、藤井は売り切れっす。陸上部員じゃないっすね」
「じゃあ、俺にはわからんな……ん? 藤井は彼氏がいたのか?」
話すとややこしいことになりそうだな。
「青春っすねぇ」
「向こう側にいたら、縁の無い話だっただろうな」
「あっちはあっちで、青春って感じも……まぁ、あんなのはもう、ごめんっすけどね」
「そんなことやってる間に、早瀬は反対の向こう側へ行っちまったしな」
「俺らも行くんすよ、向こう側の世界へ。青春はこれからっすわ」
「ウチに来るなら、それなりに勉強しとけよ? 学年で真ん中よりは上にいないと厳しいぞ」
「優秀な女教師がついてるんで大丈夫っす」
メグにも、一生懸命になれる何かを見つけてやりたい。一緒に悩みながら、並んで探そうな。




