55.親友・後編3(藤井由希・柏木沙耶)
夏樹、振られたって言っていたのに、喜んでいたんだよね……。早瀬くんと何を話したのか気になる。
「由希、夏樹のこと、聞いたよね?」
「早瀬に告白したって話?」
「そう。何を話したのか気にならない?」
「気にはなるけど、そんなの突っ込むものじゃないよ」
「真面目だねぇ」
「沙耶、オバちゃんみたいだよ」
「やめてよ。まだピチピチの十四歳なんだから」
「もうすぐ十五だけどね」
「十五だってうら若い乙女でしょ」
そういえば、昨年は早瀬くんから素敵な誕生日プレゼントをもらったな。恵や夏樹と遊びに行ったことを知った時には辛かったけれど、あれは片手間で選んだものじゃなかった。
今年はきっと……少し、寂しいな。
「……まぁ、何となく、わかるじゃない」
「あ、悔しい。私がわかんないのに何で由希はわかるのさ」
「夏樹が何を伝えたくて、早瀬がどう受け止めるかを考えたら、大体わかるでしょ」
「うーん、でもさ、夏樹は振られたのに嬉しそうだったんだよ?」
「……沙耶も、そうだったでしょ」
「私は、凄く辛かったもん。嬉しいって思えたのは、少し時間が経ってからだよ」
「夏樹だって、そうだよ、きっと。その辛かった姿を、私達に見せてないだけなんじゃない?」
そうか。私にとって由希がそうだったように、夏樹は恵に受け止めてもらったのかも知れない。
「むぅ。じゃあさ、早瀬くんは、夏樹にも喜ぶようなことを言ったってことだよね」
「優しいからね」
「ずるいなぁ。妬けちゃうよ」
「早瀬は友達なんでしょ。文句があるなら言っちゃえばいいのに」
「優しいところがいいんだから、文句なんて無いよ。ただ、ちょっと思い出を大事にしてるだけ」
「早瀬はたぶん……同じことは言わないよ。沙耶には沙耶の、夏樹には夏樹の、それぞれに贈った言葉があるでしょ」
夏樹も由希も……早瀬くんのことを本当によく見ているんだね。
私は、気持ちの大きさから負けていたのかな。
「由希も、二人だけの約束してたもんね」
「あぅ……ん、その――」
「手作りのミサンガとかプレゼントしてたもんね」
「――ごめんなさい」
「だから、無理しないでって言ってたのに。やっぱり、好きだったんでしょ。私はそっちの方が怒ってるんだからね」
「……黙ってたから甘えてたって言ってたじゃない」
「あ、反省してないな。そっちがその気なら」
「ふふ、甘いね。早瀬に私の気持ちを伝えてやるとか言ったとしても、どうせ沙耶はそんなことできないんだから」
「残念でした。交換日記を早瀬くんに見せ」
「ああ! ごめん! 沙耶、ごめんね。凄く反省してるんだ、私」
ずっと、こんな風にしたかった。恋敵だって、構わなかった。本音で話して、冗談を交えて、一緒に笑って。欲を言えば、それで恋を勝ち取りたかったけれど……。
やっぱり、由希がいてくれて良かった。
「ふふ。最近は夏樹のページも増えてきたから、絶対、夏樹に怒られるよね」
「私だって怒るよ。大体、沙耶は恥ずかしくないの?」
「ふーん。それは私の胸が小さいって言ってるんだね?」
「言ってないでしょ。カップの話以前に、恥ずか」
「スタイルいいから目立たないけど、由希は結構あるもんね」
「結構って、やっとは――」
「は?」
「――何でもないよ」
「は、って言ったね、今。いつ大台に乗ったの? 聞いてないよ、私」
「そんなのいちいち言わないでしょ。もう、そういう話は恵としなよ」
恵は、見ているだけでも自尊心が崩れるから、あまり聞きたくない。
「あーあ。私の気持ちをわかってくれるのは夏樹だけかぁ」
「それ、結構失礼だよね」
「私は振られる気持ちのことを言ったの。失礼なのは由希だもんね」
「……嘘ばっかり」
「由希は仲間に入れてあげないからね」
「……ありがと。二人ともきっと、これから大きくなるんだよ」
「由希に言われると、嫌味に聞こえるんだけど」
胸が追いついても、仲間入りなんかさせないからね。ちゃんと、早瀬くんの隣にいるんだよ。




