53.一途な想い6(村松恵・中島夏樹)
早瀬くんは、由希ちゃんのことが好き。その想いは大きくて、私の気持ちに応えてはもらえない。
「夏樹、来たよー」
「ごめんね、恵ちゃん。急に呼び出したりして」
「気にしないの。親友の頼みだったら、デート中でも来るよ」
「ふふ、ありがと。でも、遠藤くんに呼ばれたら、私といても行っちゃうよね」
「あ、バレた? だって、どっちも大事なんだもん」
もし、早瀬くんと由希ちゃんが付き合うことになったら、私が想いを伝える機会はきっと……もう、無い。
「恵ちゃん。私、今日、告白するよ」
「え?」
「だから、お願いがあるんだ。やっぱり辛いと思うから、夜に電話しても」
「ちょっとちょっと! 何で告白する前から辛いとか言ってんの」
「だって、早瀬くんは、由希ちゃんのことが好きなんだよ」
「いや、それは……」
「大丈夫、色々考えたから。私は、気持ちをちゃんと伝えたいの。早瀬くんの気持ちも聞きたいの」
「アタシ、何かできるかな」
「話、聞いて欲しいな」
「うん。アタシの胸で受け止めてあげる」
「私と違って、色々受け止められそうだもんね」
「違っ、そんなつもりじゃ」
「うん。わかってる」
恵ちゃんは、ずっと私の気持ちを応援してくれた。ずっとそばで見ていてくれた。
「アタシが背中押さなくても、シュウくんのところへ行けそうな感じ」
「もう、決めたからね。大会が終わったら、早瀬くんが時間くれるんだ」
「でも、震えてるね」
「相手の気持ちがわかれば、楽なのにね」
「好きなヒトほど、見えててもわからないんだよ」
「……信じるって、怖いもんね」
「付き合うとかは別にしても、夏樹の覚悟に応えない訳が無いでしょ。シュウくんだよ?」
「だから……余計、怖いのかな」
早瀬くんなら、気持ちを話してくれる。誰よりもそれがわかっているはずなのに、突き放される恐怖が、いつまでも消えない。
「ねえ、夏樹。アタシね、シュウくんのこと、好きなんだ」
「それは、見てればわかるよ」
「ううん、そうじゃなくて、好きなんだよ」
「……だって、遠藤くんと」
「テルくんと付き合って、シュウくんをそばで見てきて、凄く格好良いって思ったの」
これは、信じられない。私の背中を押す為に――
「アタシ、夏樹が思ってるほど、強くないよ。逃げたんだ」
「逃げた?」
「沙耶も、由希も、夏樹も。みんな、可愛いんだもん。シュウくんの一番になる自信なんて、無かった。告白して傷付くのも、テルくんとの関係を失うのも……アタシも、怖かったよ」
本当……なんだ。
「だから、シュウくんへの想いを伝える日は、これからも来ない」
「それで……いいの?」
「幸せなんだ、今。アタシを大切にしてくれる……そばにいてくれるヒトがいて」
一番を求めるだけが恋じゃない、他にも幸せはあるんだって――
「それが、恵ちゃんの出した答えなんだね」
「そう。でも、夏樹にそうしろって言ってるんじゃないよ?」
「……早瀬くんは、そういうタイプじゃないよ」
「……たぶん、ね。でも、わからない」
「恵ちゃん、ありがとね」
「そこのコンビニで待ってるからさ。終わったら、一緒に帰ろ」
「え、だって、遠藤くんが一緒に」
「何言ってんの。ちゃんと先に帰ってもらうから」
「そうじゃなくて、一緒に帰らなきゃ。私は大丈夫」
「あのね。デートはこれから何度でもできるの。けど、告白は違うでしょ。祝うにしろ、慰めるにしろ、電話なんてアタシはやだ」
「じゃあ、今日じゃなくても」
「ごちゃごちゃ言うな。夏樹が何言っても、アタシは待ってる。テルくんと一緒に帰れって言うなら、テルくんも一緒に待たせるからね」
無茶苦茶だよ。
「……じゃあ、恵ちゃんだけ……が、いいな」
「サイダーとチョコレート買って待ってるね」
「……ダメだったら?」
「アタシの胸で泣いていいよ」
「……グシュグシュにして、潰しちゃうからね」
「それは嫌だから……夏樹、頑張れ」
やっぱり、話して良かったよ。恵ちゃん、ありがとう。




