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一輪に両手を  作者: リン
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48.親友・後編2(藤井由希・柏木沙耶)

 早瀬くんは絶好調に見えるのに、由希の様子がおかしいな。

「ねえ、由希。何か、心配事?」

「そう見える? あの調子なら早瀬は優勝するし、心配するようなことなんて何も無いじゃない」

「でも、あの競ってるヒト、凄いね。二人ともまだ、一回も失敗してないよ」

「浮いてる高さは、早瀬の方が、少しだけ余裕あるよ」

「へぇ。素人目には、全然わかんないよ。やっぱり、やるのと見るのとじゃ違うん――」

 早瀬くんが……失敗した。

「由希、大丈夫だよね? 今の、惜しかったよね?」

「跳べるよ、三回もチャンスがあるんだから。早瀬なら、跳ぶ」

「188cmなんて、どんな世界なん――由希?」

 そこまで心配なら、そう言えばいいのに。

 ……もう、私に遠慮してくれなくてもいいんだよ。

 でも、こんなに真剣に見ているのを邪魔しちゃうのも悪いのかな。

「あ、由希、あのヒトも失敗したね」

「うん」

 ほっとしたように……は見えないけれど、そう感じた。

「ねえ、由希。もう、隠すのやめようよ。辛いでしょ?」

「何の話?」

「由希の気持ち。ずっと抑えててくれたんでしょ」

「だから、何のこと?」

 いつもより、ガードが固い? 何かを思い詰めている?

「早瀬くんのこと、好きだよね」

「そう見える? だったら気を遣わせちゃってごめんね」

「だから、もういいんだってば。いつからなのかはわからないけど、少なくとも私と別れるより前から好」

「沙耶、考え過ぎだよ。今はそんな話してないで試」

「今、話さなきゃダメだから言ってるんだよ。気持ちを抑えたままじゃ、私の前で素直に応援できないでしょ」

「……ほら、早瀬、跳んだよ」

 何を抱えているの? 私も一緒に抱えさせてはくれないの?

「由希、ごめんね。私、甘えてたんだ。由希の気持ちに気付いてからも、早瀬くんを争ったら負けそうで……黙っててくれる由希に、甘えてた」

「早瀬も言ってたでしょ。沙耶のことが好きだって。私の気持ちに関係無く、出る幕なんて無かったじゃない」

「ううん。もし、由希が私と並んでいたなら、早瀬くんはきっと、私達を比べてた」

 でも、由希が気持ちを抑えてくれていても、早瀬くんは――

 『柏木がいてくれるのに、それでも俺は、柏木と同じくらい好きだって思うコがいるってことに、気付いたんだ』

 ――結局は、同じことだったんだよね。

「由希に甘えて、早瀬くんに縋って、何とかそばにいたいって、自分のことばかり考えてた。別れたから今更だと思うかも知れないけど、今は、由希を応援したいの。ずっと我慢させてきて……ごめんね」

「沙耶……確かに、私は早瀬のことが好きなんだと思う。でもね」

「……でも?」

「それを早瀬に伝えて、付き合ったりしたいのか……わからないんだ」

「好きなのに?」

「出来上がった距離と関係が心地良くて、私はそれで満足だった。告白して、それが壊れるかも知れないって思うと、怖かったよ。だから、沙耶に遠慮してただけじゃないの」

 早瀬くんは、由希のことが好き。でも、由希にはそれがわからなくて――わかったとしても信じ切れなくて、告白には踏み切れない……。

「けど、部活が終わっちゃったら……その関係も終わるんだよ?」

「うん、わかってる。でも、やっぱり怖いの」

 付き合っていた時の私と同じ、なのかな。

 少しでも長く、今を大切にしたかった。幸せな時間の中にいたかった。

「……沙耶。今日はね、私にとって大事な日になるかも知れないんだ」

「なる?」

「佐野くんが優勝したら、デートする約束なの」

「佐野くん?」

「今、早瀬と競ってるヒト」

「何で、そんな約束しちゃったの? ううん、そんなの守らなくたって」

「その時から決めてたんだ。早瀬が負けた時には、早瀬への想いを諦めるって」

「……その時は、私に遠慮してたからでしょ」

「それが、私のケジメ。最初は、佐野くんの中に早瀬を見てたんだと思う。でも、佐野くんもいいかも知れないって、思ったこともあったんだ」

 それって、やっぱり早瀬くんが好きってこと……。

「どれだけ似てたとしても、代わりにはならないんだよ?」

「わかってる。デートの約束は守るけど、そこまで。佐野くんとその先は考えてないよ」

「そんなの、おかしな意地でしょ? どうして素直にならないの?」

「早瀬のことが好きなはずなのに、私は佐野くんに少なからず揺れたんだよ? 早瀬が自分の半端な気持ちを許せないって言って沙耶と別れたのに、私が半端じゃ告白どころじゃないよ」

「じゃあ、早瀬くんが優勝し続ければいいの? あのヒトに優勝させずに部活が終わる日が来たら、その時は素直になるんだね?」

「……去年の地区大会の日、約束してくれたんだ。二度と負けないって。私は、早瀬なら約束を守ってくれるって信じてる。だから、佐野くんとも約束できた」

 そんなに前から……もしかしたら、もっと前から……ずっと、好きだったんだね。

「やっと、由希の本音が見えた。今度は、私と約束。早瀬くんが約束守ったら、素直になるんだよ」

「……うん。ありがとう」

 『ああ。感動したよ。俺の気持ち、絶対見せてやるから。見てろよ』

 早瀬くんもきっと、最後の時まで約束を守るつもりなんだ。その為に、ずっとあんなに必死で練習して……。

 早瀬くんの気持ち、十分見えるよ。やっぱり、由希には敵わないや。応援するから、幸せになってね。

「約束したなら、早瀬くんは負けない。一緒に優勝を信じて、応援しよう」

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