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一輪に両手を  作者: リン
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47.先輩の姿4(名倉浩介・高山剛)

 グラサンは、本当に目立つな。ここのように小さな競技場なら、確実に見つけられる気がする。

「名倉先生。お久しぶりです」

「おお、剛か。せっかくの休みにこんなところに来て、相変わらず暇なのか」

「卒業生が応援に来たんですから、少しは歓迎して下さいよ」

「まあ座れ。今日は、私が最初から見てきた教え子の、三年目初試合だ」

「全員、見違えるほど伸びたんでしょうね。俺達も最初から」

「剛。気持ちは嬉しいが、それは胸にしまっておけ。前任の先生にも、やり方や考え方はあっただろう。すべては、めぐり合わせだ」

「……そうですね」

 遠藤と早瀬でも、道が分かれてしまったんだ。何がどうなるのかなんて、その時まではわからない。

 ただ、それでも俺は……お前達が羨ましいよ。スタートに立った時に、ここまで陸上を愛している指導者にめぐり会えたんだからな。

「見てみろ。今、脚合わせで跳ぶのが修治だ」

「あれって150cmですか。それをはさみ跳びだなんて、135cmを跳べなかったとは思えませんね」

「底辺を知っているからこそ、あいつは、強い」

「……今年は、全国に行けますか?」

「修治が連れて行ってくれるだろうよ。それだけのものを、積んできたからな」

 凄いな、早瀬は。立派な先輩になったじゃないか。

 遠藤も部活を続けていたなら……いや、あいつが選んだこと、か。

「他は難しいですか?」

「由希がなかなか面白いかも知れないな。ムラっ気があるが」

「藤井、ですか?」

「意外か?」

「まぁ、正直なところ、そうですね。そういうタイプではないと思ってました」

「どういうタイプだと思っていたんだ?」

「よくいる女子というのか、お洒落やら恋愛やらに夢中になって部活はそれなり、のような」

「今年のクリスマスも独り、か」

 嫌な独り言だな。

「あの、聞こえてますよ」

「部活に熱心な者だって、他が疎かになるとは限らないだろう。その逆だってある。実際――」

 グラサンが口篭るなんて、珍しいな。

「藤井は、お洒落や恋愛を楽しみながら、部活にも熱心だってことですか?」

「――今のは忘れてくれ。喋り過ぎた」

 余計、気になるな。誰かの名前を出そうとしたのなら、グラサンはその誰かのことを、よく知っているということになる。

 グラサンなら、そこまで見抜いていても不思議じゃない、か。

「何だか、誰が誰のことを好きなのかとか、そういうのまでわかりそうですね」

「剛でも、男子なら見ていればすぐにわかるだろう。単純だからな」

「……女子は?」

「このくらいの年頃になると、色々と複雑でな。何となくならわからなくもないが、女子の機微は男子ほど単純ではない」

「先生でもわからないことがあるんですね」

「当然だ。私も男だからな。男子の中に女子にはわからないことがあるように、その逆もある」

 言われてみれば、当然か。それでも部員の心を掴むのは、流石だとしか言いようが無い。

「二人とも、走高跳ですね。やっぱり、先生の専門種目だっただけあって、指導もレベルが高いんでしょうね」

「本来は、そういう差があってはならないんだがな。技術はもちろん、心情も知る為に共に活動しているが、やはり経験の差はなかなか埋まらないものだ」

 一緒に走ったりしていた陰には、そんな理由があったのか。どこまでも陸上を――生徒を思ってくれる先生なんだな。

「俺は、先生のお陰で伸びたんです。本当に感謝してるんですよ、これでも」

「……さあ、男子の走高跳が始まるぞ」

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