46.想うほど遠く4(中島夏樹・渡辺祐樹)
もう三年生、か。新入生が可愛く見える。私も、こういう風に見えていたのかな。
「あ、中島さん。また修治くんと同じクラスなんだよね。いいなぁ」
「クラスのまとまりとか大事だから、二年生から三年生になる時はあまり変えないらしいよ。だから、担任の先生も、ほとんどのクラスが同じみたい」
「何で僕は違うクラスに……放課の度に、修治くんに会いに来るのが大変なんだ」
「渡辺くん、早瀬くんと本当に仲良いよね。小学校も違うし、去年、初めて同じクラスになったんだよね?」
「何ていうか、修治くんは、僕の恩人みたいなものだからさ。一緒にいると、成長できる気がするんだ。まぁ、修治くんには迷惑なのかも知れないんだけどね」
「ふふ。そんなことはないと思うよ」
早瀬くんも、渡辺くんから何か学んで高め合えると思っているから……だから、一緒にいるんだよね、きっと。
「あ、そうだ。今、バレー部の勧誘してるんだけどさ、もう少ししたら、デモンストレーションで試合するんだ。良かったら、後で見に来てよ」
「ついに選手なんだ? 凄いじゃない。生徒会の方の用事が済んだら、見に行くね」
「まだレギュラーにはなれないんだけどね。でも、頑張るよ」
随分、遅くなっちゃったな。バレーの試合はまだ――
「ナイッサー!」
「一本! 止めるよ!」
凄い熱気……!
「クロス来るぞ! 当たれ!」
「トスこっち!」
体育の授業と全然違う。
「ナイスレシーブ!」
「祐樹! 決めろ!」
「アウト! ゲームセット!」
あれが……渡辺くん?
「あ、中島さん。来てくれたんだね。最後、チャンスだったのに失敗しちゃったよ」
「凄い……凄かったよ! 最後に少しだけ見たんだけど、目が離せなかった」
「あれを決めるのが僕の仕事なんだけどね。あんな絶好球を失敗しちゃうようじゃ、レギュラーはまだ遠いや」
「渡辺くんは、スパイクを撃つポジションなんだ?」
「そう、ウイングスパイカーっていうんだよ。あ、よくわからないか」
「うん、セッターとリベロしかわかんない。ごめんね」
バレーのことはよくわからないけれど、レギュラーと一緒にコートに立って、専門的なことを楽しそうに話す姿は……格好良いね。
「こっちのチームにはレギュラーのセッターがいて、有利だったんだよ。でも、僕の決定力が足りなかったかな、やっぱり。ウチのエースは向こうのチームだったんだけど、格好良いんだ、これがまた」
新入生が集まっているところにいるヒトかな。
「渡辺くんのアタック、凄かったよ?」
「そっか、中島さんは僕のしか見てないよね。もうね、違うんだ。スイングの速さから、ボールを撃つ音から、正確さまで」
「素人でもわかるくらい違うの?」
「そりゃあ、もう。だから、ほら、あんなに人気者でしょ」
そうだとしても――
「渡辺くんは、凄かったよ」
新入生の誰一人わからなくても、周りと比べて普通のスパイクでも――
「ありがとう。何か、嬉しいな」
渡辺くんがあのスパイクを撃つ為に、どんなに苦労してきたのか――
「ほんの少しだけど、私は、知ってるからね」
「バレーのこと? ポジションもよくわからないのに?」
「笑わなくてもいいじゃない。せっかく応援してるのに」
「中島さんの色眼鏡じゃ、他のヒトには見えないよ」
「ふふ。冗談も言うようになったんだね」
きっと、素敵な先輩になれるよ、渡辺くん。




