序章
蝉が鳴き始めた七月。放課後の陽は、すでに地平線近くまで傾いていた。
「私の名前は、白石 湊です」
狭い教室に、自分の声だけがやけに響いた。
「この部活――文学部――を選んだ理由は、小説を読むのが好きだからです。よろしくお願いします」
……下手だな。
自分でも分かる。急に恥ずかしくなって、先輩たちの表情がまともに見られない。
次の人に早く回ってくれ、と願うが――今年の新入部員は僕一人なのだ。
部長は軽く頷くと、そのまま歓迎の言葉を締め、すぐに本題へ移った。
「諸君。夏休み明け、文化部合同で小説誌を作ることになった。掲載する作品を書くのが、夏休みの課題となる。長さは自由だ。以上。各自、帰宅するように」
あっさりしたものだ。これで終わりか――と思った矢先。
「そうそう、湊君は残るように」
と呼び止められた。
……何をされるんだろうか。
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夕陽に染まる帰り道、二つの影が長く伸びていた。
「私の名前は、此花 葵。今後よろしく」
僕が残された理由は、単なる自己紹介だったらしい。
駅まで方向が同じだから、とわざわざ時間をずらしたのだろう。
……なかなかに強引な人だ。
「君と、二人で話がしたかったから」
まるでラブコメみたいな台詞だ、と思う。
そういえばこの人、恋愛ものが得意分野だと言っていた気がする。
もちろん、そんな展開になるはずもなく。会話の中身は至って普通だった。
入部が七月になった理由(この高校は少し季節感がズレているらしい)。
書いてみたいジャンル。好きなタイプ――など。
一通り話したあと、駅への近道として裏路地に入った。
数歩進んだ、その瞬間。
強烈な浮遊感が、全身を襲った。
比喩ではない。足元の感覚が消える。
気づいたときには、地面に大きな穴が開いていた。
「――っ!」
重力に抗うこともできず、身体が沈む。
隣を見ると、此花先輩の姿も同じように落ちていくところだった。
「先輩!!」
叫び声が、やけに遠くに聞こえた。
そのまま、僕の意識は闇に沈んだ。
春休み中なので、近いうちに投稿します




