【第6章】作戦前夜
練習場へ戻ると、アカネとポップがわたわたと一緒に遊んでいた。
一瞬口元が緩んだが、いかんいかん。
「あら、おかえり!ねーこの子、本当に可愛いね!!」
アカネは覚えてるのだろうか。
いや、きっと何もかも忘れてる。
彼女自身がそれを望んでいたから。
「アカネよ、練習は捗っているか?」
赤い閃光が今にも降り注いできそうなほど、近くまで来ている。
「はい!タイムラグなく発動させることが出来るようになりました!」
アカネは嬉しそうで、誇らしげだ。
俺はこそっとダイラへ耳打ちする。
「…アカネは小さい頃から魔法少女ごっこが好きだったんだ。」
ダイラは微笑み、頷いた。
薄々気づいてはいるけど、ダイラは完全に記憶を取り戻したわけではない。
「よし。町のみなを広場へ集めてくれ。これからみなに伝えねばならないことがある。」
え、アカネのこと言うのか?
いや、まさかな。
ドキドキしながらみんなを集め、俺たちは最前線を陣取った。
もちろんポップは抱き抱えたまま。
「みな、よく集まってくれた。ここ数日空を駆ける閃光を見ているだろう。…この町は、間もなく攻撃される。」
途端にざわつく群衆の中、俺は息を呑みながら言葉に耳を傾ける。
「うろたえるな。魔法力管理大宮殿総出で奴らを押さえ込む。だが、奴らには魔法は効かない。限りなく劣勢。」
まさか室長がそんなことを言うとは、とどよめきが止まらない。
「そこでだ!町のみなには、町の外へ避難をしてほしい。光る森、あそこを目指して逃げるんだ。逃げた先に、きっと後悔はない。」
今まで一度も外へ出たことがない町の住民たちは、ひどく困惑している。
得体の知らない恐怖があるんだろう。
「みんなー!大丈夫だぜ、俺一回内緒で外に行ったことあるけど、全然怖いもんなんてないから!それにダイラが言ってんだし、心配ない!」
ちょっと嘘だけどな。
俺はみんなを安心させるため、一際大きな声をあげた。
「アカネ、俺たちはここに残るんだ。」
小さな声で伝えるも、困惑するアカネ。
ポップも不安そうだ。
「え、でも!森に行くってさっき…!ダイラ様も!」
「大丈夫、俺たちにはまだアカネに言ってない考えがあるんだ。…あとで教えるからな!」
少し不貞腐れたように頬を膨らませるアカネ。
「わかったよ、ちゃんと教えてよね?」と拗ねてる。
…可愛い。
そして今度は、龍や蛇が来る前に総力を上げて障壁を作り上げることにした。
「ねぇエビン!そろそろ私にも教えてよ、何が起きてるのか!なんでエビンとダイラ様は攻撃されるってわかってるの?!」
鍛え上げた成果を見せつけるかのように、軽々と障壁を作っていくアカネ。
俺は、獣を調理する程度の炎しか出せないから戦力外通知…。
「知ってるよ、だって俺たちはアカネを救うために何度もこの日を経験してきたんだ。」
アカネは動きを止めた。
俺を見つめる。
「嘘…そんなことって…。」
何か言いたそうだけど、その先の言葉が出ない。
その代わり、今にも零れ落ちそうな雫だけが、俺を見つめていた。
「そうだよ。嘘じゃない。」
アカネ、気づいてるか?ダイラが少し若返っていること。
「お前が望まなくても、俺たちが望んだんだ。」
アカネ、気づいてるか?俺の盾がボロボロになっていること。
「お前がここに留まりたくても、俺たちは連れていくよ。」
アカネ、気づいてるか?ポップがお前に懐いてる理由を。
「本当の場所に。」
アカネ…気づいてるか?俺たちがどれだけアカネを大切に思っているか。
「だから今は戦おう。ロイゾの魔力が最大になるこの時に…!」
そしてアカネから大きな雫が、零れ落ちた。
***
ーーー少し時間を遡る、3時間前
俺たちは室長室にいた。
今度はアカネとポップも一緒だ。
「いいか二人とも。これより我が町は間もなく攻撃される。」
ふいっとアカネが顔を背ける。
大丈夫だよ、アカネ。
「私はこれでもロイゾの研究を長年していてな。それと同時に光る森のことも調べてみていたんだ。」
窓から見える森を、トントンっと指をさし続ける。
「あの森には魔力がない。つまり”魔力が存在しない場所”なんだよ。」
それは知っている。
ただ、そこからどう話が続くのか、俺にもさっぱりわからなかった。
「ロイゾは魔力の供給源だろう。魔力を持ったものが、魔力が存在しない場所へ行ったらどうなると思う。」
はい!とばかりに手を伸ばす優等生の横で静かにポップがつぶやいた。
「魔力、僕ないよ。」
多分、今ははしゃぐべきでないと、流石にわかっているのだろう。
とても小さな声。
「ダイラ様、魔力が存在しない場所へ行ったら、その者の魔力は消失します!」
「ご名答。その通りだよ。では、その”消えた魔力”はどこへ消える?」
え、まさか…
「はい…!」
恐る恐る手を挙げてみる。
「おや、珍しい。エビン答えてみなさい。」
「…ロイゾに、戻る…?」
アカネが俺を鋭く睨みつける。
たまには俺が答えたっていいじゃんかよ!
「よくできたなエビン。そう、消えた魔力はロイゾへ戻ると考えるのが筋だろう。それを利用して奴らと戦う。そしてーーー」
言葉の続きはなかった。その代わり、しっかりと俺の目を見て小さく頷き合う。
外を見てきた俺たちだから、安心して外へみんなを逃すことができる。
俺も広場では一役買った、と言うわけだ。
不思議そうな顔のアカネとポップだが、尻尾が顔をくすぐったようで、すぐにキャッキャと笑っていた。
ーーーそして、今夜、最後の戦いがやってくる。
最大限の魔力を持ったロイゾ。どうなるかは、俺にもわからない。
作戦、決行だーー




